季節の変わり目を感じる9月。朝晩は少しずつ過ごしやすくなってきたものの、まだまだ厳しい残暑が続いています。夏バテによる疲れが溜まり、胃腸が弱まるのもこの時期。とくに高齢者の方は調子を崩しやすく、胃もたれや腹部の膨満感、食欲不振などを感じることが多くなります。
胃腸の不調は低栄養のリスクを高める
消化器官である胃腸は、いわば「栄養吸収の窓口」。口から入った食べ物を胃が消化しやすい状態に整え、小腸が消化しながら身体に必要な栄養分を吸収します。
ところが夏バテなどが原因で胃腸のはたらきが低下すると、消化や分解に必要な分泌液が減少し、栄養の吸収力が低下してしまいます。特に高齢者の方の場合、胃液の分泌量が低下しやすく、うまく消化できずに食べものが胃にとどまってしまうことがあります。
栄養吸収が十分におこなわれなくなると、栄養が足りない状態、つまり低栄養のリスクを高めることになります。その他にも生活習慣病の悪化や筋力の低下、免疫力の低下など、健康面にさまざまな悪影響を及ぼしてしまいます。
冷たい、辛い…胃腸に負担のあるもの
胃腸が弱まっているときに、追い打ちをかけてしまうのが刺激の強い食事です。冷たいものや逆に熱すぎるもの、硬いものや辛いものは、なるべく控えるのがよいでしょう。また、酸味の強い食べ物も要注意。必要以上に胃酸を分泌させてしまい、胃の壁を傷つけてしまうことがあります。
また食物繊維が多く含まれている食材も、できる限り避けたほうがよいでしょう。食物繊維はお腹の調子をととのえる働きがある一方で、消化されにくい性質を持っています。胃腸が弱った際に摂りすぎてしまうと、消化不良や膨満感の原因となります。
弱った胃腸をサポートする食事の工夫
高齢者の方の胃腸をいたわるために、わたしたちにできることは?ここからは具体的な食事の工夫をいくつかご紹介したいと思います。
❶ 消化酵素の分泌を促す「出汁」を活用する
料理の味や香りを演出してくれる出汁は、消化酵素の分泌を促すことで胃腸をサポートする効果もあります。人が食べ物を消化するステップとして、まずは唾液に含まれる消化酵素(アミラーゼ)が食べ物に含まれるでんぷんを分解し、消化しやすい状態にします。その後、食道を通り抜けた食べ物が胃へ到達し、腸が栄養を吸収しやすいような状態へと整えます。唾液や胃の消化酵素は、出汁に含まれるグルタミン酸やイノシン酸によって分泌が促進されるため、胃腸の調子がわるいときには出汁を使った食事を食べるとよいでしょう。
料理の例として、煮物やあんかけ、だし巻き卵などがあります。和風ばかりだと飽きてしまう場合は、グルタミン酸を多く含む食材のひとつ、トマトを活用してみてはいかがでしょうか。ミネストローネなどの洋風スープは、さっぱりとした味わいを楽しんでいただけると思います。
出汁には乾物やパック、顆粒のものや液体のものなど、さまざまな種類が店頭に並んでいます。一概に「これを使うべき」というわけではなく、何の料理をどんな風に仕上げたいかを考えて選んでいただくことが大事です。
出汁のタイプ一例
手軽にサッと使える「顆粒タイプ」
和え物など、味や香りをしっかりつけたい場合におすすめです。ただし、塩分も多く含まれるため、量に気を配りながら使いましょう。
香りが豊かに仕上がる「出汁パック」
味噌汁や煮物などにおすすめ。出汁がしっかり取れるためロスも少なく、使用後の処理も楽です。えぐみが出てくるのを避けるために、使用後はしぼらずに取り出しましょう。
豊かな風味と旨味が特徴的な「削り節(花かつお)」
お吸い物や素材の味を引き立てたいときにおすすめです。沸騰させたお鍋の火を止めたあと、かつお節を入れて1~2分置いてからこします。鍋からしずかに取り出すことで、アクが出るのを防ぐことができます。
❷水分を多く含んで胃に優しい「蒸し料理」
脂肪分を多く含む食事は消化に時間がかかり、胃にとどまる時間が長くなりやすいとされています。胃腸が弱っている際には、水分をたくさん含む食事を摂るとよいでしょう。脂ものと違い、消化しやすく負担も少ないです。特におすすめなのが蒸し料理。じっくり蒸すことで食材のなかに水分を滞留させるため、ふっくらと仕上がり、消化しやすくなります。
食欲が低下しているときは、どうすればいい?
ここまで胃腸が弱った際の食事の工夫をお伝えしてきましたが、食欲低下時のお困りごとにもお答えしたいと思います。食欲が進まない状況であっても食材をプラスしたり、調理を工夫したりして食べやすくすることで、全体の栄養量を減らさないよう心がけましょう。
Q. 食事量が少ない…
A. 鮭フレークや牛乳など、少しの量で栄養を補えるものを
食事の量が少ない場合に心配なのが、カロリーや栄養の不足です。少しの量でもしっかりと補給できる食材を取り入れてみてください。
気軽に食べられる「鮭フレーク」
魚を丸ごと食べるのはしんどい、でも栄養面を考えると少しでも口にしてほしい…そんなときに便利なのが鮭フレークです。おかゆにパラパラといれて食べれば、カロリーと栄養の両面を補うことができます。最近新たなレパートリーとして、絹ごし豆腐と鮭フレークをこねてつくるハンバーグを作ってみました。粉末状にしたお麩を2~3個加えれば、よりふんわりとした仕上がりになります。ただし鮭フレークには塩分もしっかり含まれているため、塩分控えめのものを選ぶなどバランスをみながらお使いください。
豊かな香りで食欲をそそる「バター」
少しの量で高いカロリーを摂れるのがバターです。油脂のなかでも比較的消化されやすく、大腸のはたらきを活発にする短鎖脂肪酸も含まれています。加熱すると香ばしさが出るため、食欲を刺激してくれます。洋風が苦手な場合は、「ポン酢しょうゆ+バター」「しょう油+バター」など、和風料理に隠し味としてプラスしてみましょう。使い過ぎにだけ、ご注意くださいね。
そのほかにも、たんぱく質を多く含む卵を使った「卵とじ」、カルシウムが豊富な牛乳を加えたスープなどもおすすめです。
Q. 食事を口にしたがらない…
A. 喉の通りがよく食べやすい食材を
夏バテで胃腸が弱まると、食べる意欲が下がり、食事を摂る気になれない高齢者の方もいらっしゃいます。そんなときは、喉の通りがよく食べやすい食事がおすすめです。豆腐や冬瓜など、食欲低下時でも口にしやすい食材を取り入れてみましょう。トッピングに少量のちりめんじゃこや蒸し鶏などを添えると、見た目も映え、さらに栄養も摂ることができます。シーズン的にはかぶら煮がおすすめ。繊維がやわらかいため、炊くとトロっと仕上がり、消化しやすいです。
それでも食事を口にされない場合は、汁ものを出してみましょう。生姜を少しだけ絞って加えることで、さっぱりとした食欲をそそる風味に仕上がります。入れすぎると刺激が強くなるためご注意ください。
おわりに
胃もたれや食欲不振を感じ、胃腸の調子が悪いなと感じたら、まずは栄養が不足しないように注意しましょう。量を増やさずとも、食材や調理方法を工夫することで、少ない食事でも弱ったからだの機能を補ってくれる食事づくりが可能となります。「からだの声」に耳を傾け、健やかな毎日を過ごしましょう。