2022年も師走を迎えました。お正月の楽しみといえば、家族みんなで食べる「おせち」ではないでしょうか。そもそもおせちとは、季節の変わり目に神様へお供え物をした「節供」に由来し、いつしかお正月料理だけを指す言葉になったそうです。
日本では、お正月は家族みんなでおせちを食べるという習慣が古くより根づき、高齢者の方は特にその伝統を大事にされています。しかし年齢を重ねるとともに健康状態が変化し、噛む力である「咀嚼力」や飲み込む力である「嚥下力」も低下しはじめます。
今までに比べて食べづらい様子を見せる高齢者の方を間近で目にすると、おせちの作り方や使う食材も考えていく必要があるかも…と考える方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、高齢者の方に合わせたおせち作りに役立つひと工夫とレシピに加えて、いま注目を集めている通販で購入できる「やわらかおせち」をご紹介していきます。
お正月料理に使える、食材別の工夫&レシピ
おせちに欠かせない食材ごとの工夫と、おせち以外のお正月料理レシピをいくつかご紹介します。高齢者の方の食べる力に合わせたやさしい食事づくりをぜひお試しください。
■食材別・おせち料理の工夫
おせちに使われる食材の多くには、おめでたい意味や一年を無事に過ごすための願いが込められています。できるだけたくさんの食材を高齢者の方にも楽しんでもらえるように、食べやすさにつながる調理の“ひと手間”をご紹介していきます。
【ごぼう】繊維を切って噛みきりやすく
繊維がしっかり入った歯ごたえのあるごぼう。縦に伸びる繊維に対して斜めに包丁を入れることで、繊維が断ち切られて噛みやすくなります。下茹でしたごぼうは、熱いうちにキッチンペーパーの上から潰れない程度にトントンとたたくと、繊維がやわらかくなり味もしみ込みやすくなります。また、太めのごぼうは繊維が良く育ってかみ切りにくいため、細め~中くらいの太さがおすすめです。
【里芋】素材の“ぬめり”でやわらかく
親芋にたくさんの小芋や孫芋ができることから、子孫繁栄の願いが込められている里芋。通常はぬめりをとって使用することが多いですが、よりやわらかく仕上げるには、このぬめりを残したまま煮るのがおすすめです。
*参考記事:https://live-plus-do.com/recipe/ごろっと里芋の煮物ゆず風味/
【れんこん】薄く切って噛みやすく
穴がたくさんあるれんこん。その見た目から、「将来をよく見通すことができる」という意味が込められています。シャキシャキとした食感が楽しめる一方で、高齢者の方には噛みづらい食材でもあります。薄めに切ったものを下茹でしてから煮ると食べやすくなります。
味をつけたれんこんとアガーなどの増粘剤を一緒にミキサーにかけると、やわらかく仕上げることができます。かたちを整えたあとにストローなどで穴をあけると、れんこんの見た目を楽しめます。
【海老】隠し包丁を入れて噛みきりやすく
縁起物である海老は、料理に彩りを添えてくれる大切な一品です。腹もしくは背の部分に、紅白の境目に沿って切り込みを入れるだけでも、食べやすさに違いがでます。
海老の身とはんぺんをミキサーにかけると、やわらかく仕上げることができます。アガーなどの増粘剤を使って、えびの身のようにかたちづくるのもおすすめです。
【高野豆腐】熱湯で戻してやわらかく
高齢者の方には、噛みきるのがむずかしい食品のひとつである高野豆腐。調理すると崩れやすいため、市販品のソフト高野豆腐を使用するのもおすすめです。戻す際は、熱湯を使うとよりやわらかく仕上がります。さらに熱湯に砂糖を入れて戻すと、希釈出汁のもとで炊いてもわずかに味が入りやすくなります。
*参考:旭松食品『やわらかカットこうや豆腐』https://www.asahimatsu.co.jp/products/hyakusai/hyakusai184.html
かたい数の子にはいくらを代用
子孫繁栄を願って食べられる数の子は、素材自体がかたいため噛むのに苦労する食材のひとつです。数の子の代わりに、おなじく卵であるいくらを代用するのもおすすめです。食べやすさに加えて見た目も鮮やかなので、おせち料理にもぴったりです。
■おせち以外にも使えるお正月レシピ
おせちに加えて、お雑煮やてまり寿司など、高齢者の方も楽しめるお正月料理レシピをご紹介します。
【ソフトだし巻き卵を伊達巻にアレンジ】
ソフトだし巻き卵は、通常のだし巻き卵と同じ材料を使用しますが、炒り卵にしてミキサーにかけることで、舌ざわりのよいなめらかな状態になります。
炒り卵にちぎったはんぺんを入れてミキサーにかけることで、伊達巻にアレンジすることもできます。ミキサーにかける際にアガーなどの増粘剤を入れると、くちあたりがよりなめらかになります。巻きすのうえにラップを広げてミキサーでまぜた卵をくるくると巻き、かたちを作っていきます。このとき、楕円ではなく正円に近いかたちで巻くと、より伊達巻らしい見栄えになります。
油をうすくひいたフライパンに、ミキサーにかけたものを流し込んで弱火で焼くと、香ばしいにおいとともに焼き目がつきます(焼き目部分はややパサつくため注意)。そのあと、同じようにラップの上に広げて、巻きすでくるくると巻きます。
*参考記事:https://live-plus-do.com/recipe/ソフトだし巻き卵/
【はんぺんを使ったソフト焼き魚】
皮と骨を取り除いて焼いた魚を、はんぺん、出汁と一緒にミキサーにかけ、なめらかな状態にします。切身にかたどられたシリコン型に流し入れて表面を整えることで、焼き魚風ソフト食をつくることができます。お正月には欠かせない、鯛やブリなどのお魚でもアレンジできます。
*参考記事:https://live-plus-do.com/recipe/ソフト鮭の塩焼き/
【歯ぐきでつぶせるソフトお雑煮】
おせちに加えてお正月に食べるものといえばお雑煮です。ソフト木綿と白玉粉、上新粉を混ぜることでお餅に近い風味を楽しむことができます。高齢者の方はお餅禁止の方が多いため、やわらかさを調整してチャレンジしていただきたい一品です。 ※非常に食べやすいお餅風の団子ですが、必ず食べても問題がないか確認をしていただき、十分に注意してお召し上がりください。
*参考記事:https://live-plus-do.com/recipe/ソフトなお餅風団子入りお雑煮/
【野菜と魚で彩るてまり寿司】
野菜や刺身で飾り付けするのが楽しいてまり寿司。刺身が噛みきりにくい場合におすすめなのが、「隠し包丁」です。表面には見えない部分に浅めの切り込みを入れることで、料理の見た目はそのままにおいしく食べることができます。
*参考記事:https://live-plus-do.com/recipe/野菜と魚で彩るてまり寿司/
通販で購入できる、高齢者向け「やわらかおせち」
最近では通販で購入できるおせちも充実しており、年々利用する方も増えています。そのなかでも高齢者の方の食べる力に合わせたおせち、「やわらかおせち」にも注目が集まっています。
やわらかおせちとは、噛む力(咀嚼力)が弱まってきた高齢者の方でも歯ぐきや舌でつぶせるように柔らかく調理されたおせち料理です。見た目も通常のものと変わりないように仕上がっているほか、人工保存料を使わない、塩分を控えめにするなど、各おせちごとに健康面の配慮もされています。
このほかにも、百貨店オリジナル品や、老舗料亭とコラボした商品などたくさんのやわらかおせちが販売されています。予約の締切が早いものもありますので、気になる方はぜひお早めにチェックしてみてください。
さいごに
今回の記事では、高齢者の方と一緒におせちを楽しむための作り方の工夫とお正月料理のレシピ、通販で購入できるやわらかおせちをご紹介しました。年に一回、そして新しい一年の始まりのとき。家族みんなでおいしく楽しめる料理を食べながら、おうちでゆっくりとお過ごしください。
◎監修・徳田 泰子(管理栄養士・調理師)
【参考文献】
・宝島社『イラストで見る、歳時記入門 四季を愉しむ、にっぽんの暮らし』
安心して楽しむお正月の味~かむ力や飲み込む力が弱い人でも食べやすい「おもち」の誕生秘話~