高齢者の“食べるチカラ”を引き出すコツとは。管理栄養士の德田泰子さんインタビュー

介護のための「食べる」のヒントに「なるほど!」が満載の記事やアイデアいっぱいの介護食レシピを提供してくださっている管理栄養士の德田 泰子さん。利用者目線に立ったメニュー提案、商品開発など「おいしく・楽しく・健康な暮らし」を実現するため女性起業家として、栄養コンサルティング会社、株式会社ヘルシーオフィス フーを設立し、その代表を務めています。今回は、株式会社ヘルシーオフィス フーの設立に至った経緯や「食べるチカラ」を引き出す、介護される方との向き合い方についてお話をお聞きしました。

——はじめに、德田さんのプロフィールについて聞かせてください。管理栄養士と調理師の資格をお持ちだとお聞きしていますが、栄養士として、どのような職場で働かれたのですか?

学校を卒業してすぐに病院に就職しました。その時は、食事の献立を考えたり、時々厨房に入ってご飯を一緒に作ったりしていました。あるいは、入院や外来の患者さんに対してお食事のアドバイスをするというような、一般的な病院の管理栄養士としてのお仕事が中心でした。調理師は独立してからとりました。

今の学生さんは4年生大学で管理栄養士の過程がありますが、私の年代は短大か専門学校で2年間学習をして、その後2年間の実務経験を経ないと受験資格がなかったので、日常のいろいろな業務で慣れるのに必死な時に受験がやってくるという感じでした。

はじめに就職したのは、一般的な100床未満の病院でしたが、腎臓病の透析などはなかったので、透析の患者さんについて実際に実務で学びたい、もっといろんなチャレンジをしたいということもあって、3年くらいで規模の大きい総合病院に転職しました。

転職した総合病院は、常にチャレンジをさせてくださる病院だったので、透析や糖尿病の患者さんへの色々な取り組みをさせていただきました。その頃、一般的に言われる糖尿病教室や病棟を回るということは、まだ駆け出しの時代でしたので、色々な取り組みといっても、今の時代からすると、「えっ、そんなこと?」と言うようなことかもしれません。今の方々はもっともっといろんな取り組みを積極的にされているので。

チャレンジすると、次にまた課題を残しましたが、病院側がとても理解があって後押しをしてくださったので、若いのにみんなで色んな取り組みをさせていただけたと思っています。

——現在は、栄養コンサルティング会社、株式会社ヘルシーオフィス フーを設立され、その代表をしていらっしゃいますが、株式会社ヘルシーオフィス フーを設立されたきっかけを教えてください。

総合病院で、患者様とお話をさせていただく中で、もし、もっと早くに出会って、食事の事を色々と取り組んでいたら、ここまで重症化しなかったのかもしれないと強く思っていました。もっと予防の方に力を注げることはないのかなと思ったことが独立して、(株)ヘルシーオフィス フーを設立した一番大きなきっかけでした。

また、もっと病院の外の世界を見てみたいと思ったことが、独立したもう一つのきっかけですね。いろんなものを見て、いろんなことを感じて、いろんな人と接することで、何か自分の仕事に活かせるものがあるのかもしれないと思っていました。

それまで、一度も経営のことを学んだことはないし、周囲からは危険いっぱいに見えたと思います。でも、本人は怖さをあまり感じていなくて、あまり深刻にならずにチャレンジしました。

——「シニア、高齢者の食」を中心に事業を展開するようになったのはなぜですか?

病院を辞め、独立したての頃に、クリニックに行って「栄養士いりませんか?」と初めて営業をしました。必ずしも最初に「シニア、高齢者の食」を中心に事業を展開するという明確な方針があったわけではなかったのです。ただヘルスケアや食に関するいろんなものを見てきて、こんなに食のことは広いのに、あれもこれもしちゃいけないなと感じて。「自分の強みって何だろう」と少しずつ何年もかけて狭めてきました。

起業した時にご縁があって、有料老人ホームさんから「ちょっと食事を見てくれない?」ってご依頼をいただきました。その時は、私もまだ若くて、そこにいらっしゃった方も若い世代でご入居されていました。

でも、長い間、その老人ホームさんにお世話になっていると、入居者の好物が年を経るごとにだんだん食べられなくなってしまう。ご年齢が高くなると、そのスパンが短くなってきて、先月食べられていたのに、今月食べられないということも顕著になってきました。

二十数人の入居者のお部屋を回って、お食事の嗜好を聞いてずっと書き留めていたのですが、その状況を受けて、「単に聞いているだけじゃダメ。今後も食べたいものをちゃんと提供できるようにしていかないといけないな」と感じて。食べられないものが出てくると「どうやったら食べていただけるのだろうか」という思考に変わっていきました。

その経験から、高齢者の食について深めていきたいという思いが出てきて、「シニア、高齢者の食」の支援に力を入れていきたいと思うようになりました。

——低栄養にならないように、栄養のバランスを考えて、食事を出しても、被介護者が食べずに困っているというお話をお聞きします。介護者は、柔らかくしたり、細かく刻んだり、ミキサーにかけたり、その方の咀嚼力や嚥下状態に合わせていろいろと工夫されていても、食べてもらえないとつらいですよね。そんなとき、どのような点に着目すればよいのでしょうか?

介護する側は食べてほしいと思っていますし、介護される方が食べてくれないと思っているかもしれません。でも、ご本人にしたら、食べたいと思っているのに、何かの理由で食べられなくなっている可能性もあると思います。

嗜好があって、好き嫌いがあるかもしれませんが、本当は食べたいと思っているかもしれない。食べてくれないっていう思いよりも、「どうしたら食べてくれるのかな?」「どうしたら、食べやすくなるのかな?」という思考になるといいですね。同じことを見てはいますが、ちょっと違う捉え方で、関わっていただけたら、もう少し見えるものが変わってくるかもしれません。

私はいろいろなところで「どうやったら食べてくれるのかな」ってチャレンジしては失敗して。でも、これはダメだけど、これは大丈夫かなと、色々とやっているうちに、どんどんのレパートリーが増えてきました。

食が進まない理由というのは、ご本人しかわからないかもしれませんが、食べられることを何か探してあげるために御社のホームページ等でご紹介いただいている「食べるチカラ」というのがあると思うのですね。

もしかすると、食が細くなっているのは、排便がうまくいっていなくて、お通じが良くないからかもしれない。もしかすると、食べやすいと思ってしたことが、実際には見た目にドロドロになって美しくないのかもしれない。もしくは、量が多くて、見た目におなかいっぱいになっているのかもしれない。

例えば、同じ一食分でも、刻むと量が増えることがあります。でも、栄養をとってもらわないといけないから半量にすることができなくて、全量出すことはないでしょうか。いくら食べても減らないモリモリの焼きそばみたいになって。そのことで、ご本人にしてみたら「うわ~、こんなに食べられない」って見た目におなかいっぱいになっているということもあると思います。

こちらは良かれと思ってやっていることですし、栄養もとって欲しいと思ってやっている。だから決していけないことではないのです。でも、ご本人と同じところにいないというか、双方の間にちょっとズレが生じていると思います。そのズレがどういうところにあるのかな?という視点で、食べない原因を探してみてはいかがでしょうか。

見た目の綺麗さなのか、形か量か…。そのあたりにヒントがあるのかなと思います。それは、ご本人の力ではどうしようもないことかもしれないので、提供する私たちが気づいて差し上げられたらいいですね。

いい答えってなかなか見つからないかもしれませんが、チャレンジして一生懸命考えてくれていると言うのは、介護される方にも伝わると思います。

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——德田さんのご経験の中で、食べてもらいにくい食材はありますか?

一番厄介なのは、やっぱりご飯です。ごはんは粘りがあるのでおかゆにしても引っかかりますし、普通の炊き方では、なかなかスルンと食べてもらえないところもあるので、食べやすくするのが、難しいかなと思っています。

あと、お肉は高温加熱すると硬くなるので、調理方法に工夫が必要です。例えば、ひき肉は刻んで小さくなっているから、食べやすいだろうと思われるかもしれませんが、それをハンバーグのように固めると、結局、ほかのお肉のように凝固するので、硬くなるのですね。だから、固めた後に潰してあげないと、同じことの繰り返しなのです。その原理というかポイントをご存じだと、比較的、問題解決しやすいと思います。

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——原理やポイントを理解して、その方の好みに合わせて応用するといいのですね。

今回提出した介護食レシピは、「鮭のフライのタルタルソースがけ」なんですが、以前ご紹介した鮭とはんぺんを合わせて型に流したものの応用レシピです。

鮭のフライって香ばしくておいしそうではありますが、実際はフライにすると、とても身がしまって固くなってしまいます。今回も最初に身をほぐして、はんぺんを入れて、それをフワフワにして、揚げてみましたが、それは冒頭の原理ではなくて、過熱を最後にしてしまったから、カチカチになってしまいました。

それではだめだから、過熱を最初にして、はんぺんと合わせて柔らかくしたものの上に、油で軽く揚げたパン粉をかぶせてみました。そうすると、柔らかさと香ばしさとが共存したのです。お魚もお肉も、やり方さえ覚えてしまえば、いろんなものに応用できると思います。

例えば、はんぺんだったら1枚を何個かに切ってラップに包んで冷凍庫に入れていたら、必要な分だけ解凍して使うことができますし、はんぺん以外にお豆腐でも応用できます。その原理さえ分かれば、冷蔵庫にあるもので介護食はできると思います。毎日365日の3食、継続して介護食を作っていくとなると、そんなに手間をかけられないと思うので、毎食、何かみんなと同じものの中からアイデアをみつけて、無理せずに続けられるといいですね。

撮影:Hirofumi Miyake

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