情報不足と孤独感の解消を目指して 医療的ケア児とその家族を支える アンリーシュ

紙おむつの製造メーカーである私たちのところには、何らかの病気や障がいを抱えている医療的ケア児の家族から紙おむつのサイズに関するご相談が寄せられることがあります。医療的ケア児とは、日常生活で人工呼吸器による呼吸管理やたん吸引、チューブを使った経管栄養などの医療行為を受けることが不可欠な子どものことです。今回は、医療的ケアを必要とする子どもと家族が暮らしやすい社会をつくることをビジョンに掲げて活動するNPO法人アンリーシュ代表理事の金澤 裕香さんにお話を聞きしました。(写真は金澤裕香さん、菜生さん。 金澤裕香さん提供)

医療的ケア児と家族を支える アンリーシュとは

NPO法人アンリーシュ(以下、アンリーシュ)は、医療的ケアが必要な子どもと家族のための専門メディアです。医療的ケアの基礎情報や専門用語集があり、初めて医療ケア用語に触れる家族に向けてわかりやすく解説しています。業界の最新のニュースや各団体のイベント情報なども情報発信するなど、医療的ケア児とその家族が生活しやすい社会をつくるための活動をしています。当事者のママがライターとして多数参加され、今すぐ使える実体験を紹介しています。

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アンリーシュ 代表理事 金澤 裕香さんインタビュー


代表理事 金澤 裕香さん
2015年に重症心身障害児で医療的ケア児である長女を出産し、3年に及ぶ付き添い入院を経て在宅介護に移行。経鼻経管栄養・胃ろう・吸入・吸引・在宅酸素療法など様々な医療的ケアを行いながら育児をする。その際に感じた「医療的ケア児の育児情報の少なさ」「主に母親の長時間介護による社会参加の低下と孤独感」などの課題を解決するためNPO法人アンリーシュを創業し、現在代表理事を務める。

育児の中で感じた医療的ケア児の情報不足

――アンリーシュの活動をはじめられるきっかけや今に至る経緯を聞かせてください。
26歳の時に出産した娘の菜生(なお)が、医療的ケアが必要で、病名不明の難病児だったんです。それまで、酸素供給装置を使いながら生きている子どもたちを見たことがなくて、出産後は世界が変わりました。

育児の情報はあふれているのに、医療的ケアが必要な育児となるとほとんど情報がなくて。社会から認識されていないように感じて、孤独感がありました。そんな情報不足と孤独感を解消したいと思ってアンリーシュを立ち上げました。

自分だけかもしれないという孤独感

――孤独感について詳しくお聞きできますか。
同じような子どもに出会えないのが一番大きかったですね。私の子どもは病名もつかなかったので、病名でつながることもできなかったので。医療的ケア児の数は、現在19,000人くらいと言われているのですが、全国に散らばっているので、地方によっては、人工呼吸器を使用している子どもは県に3人しかいないというレベルになってしまうんですよね。

病院の先生は同じような子もいるって言うけれど、実際に会ったことがない。同じような家族と出会えない中で、「こんなに大変なのは、うちだけなんじゃないか」という孤独感がありました。

金澤裕香さん提供

私の場合は、3年間病院に付き添い入院したので、仕事を辞めないといけない状況になりました。子どもを保育園に入れたかったけれど、20園くらいあたって、入れてくれるところはありませんでした。24時間子どもと二人っきりで、機械があるのでお出かけもできず、自分も社会から孤立して、しんどさが積もりました。

社会とつながる場をつくりたい

アンリーシュを立ち上げたときに情報不足と孤独感を解消するという2つの大きな目標がありました。

医療的ケアが必要な子どもの育児に関する情報が少なすぎると感じたので、アンリーシュを見れば医療的ケアが必要な子どもの子育てに関する情報が全部見られる状態を目指して、スタートしました。

孤独感の解消に関しては、実際に会える距離にはいなくても、同じように頑張っている家族の存在を身近に感じてもらえるようにYouTubeSNSで動画を配信しました。

SNSの運営開始時に寄せられたネガティブな声

自分の娘のことをありのままにYouTubeやSNSで発信し始めたとき、ネガティブな声も寄せられたんです。同じような境遇のお母さんから「医療的ケアが必要な子どもの育児は本当に大変だから、楽しいと思われたら困る」とDMが来たり、一般の人からは、「障がいのある子どもをSNSにあげるのはどうか」というようなコメントが来たりしました。こちらとしては、100%良かれと思って始めたのでビックリしました。

娘の菜生さん 金澤裕香さん提供

当時はまだ医療的ケア児の情報がほとんどなかったので、たんの吸引の様子など、初めて見てビックリした方もいらっしゃったかもしれません。今考えれば、もっと段階を踏んで発信すればよかったのかなとも思いますが、周りのネガティブな反応に最初は悩みましたね。

活動の原動力は、同じ境遇のお母さんたちからの共感や娘の存在

それでも活動を続けようと思ったのは、ネガティブな声がある反面、同じ境遇のお母さんたちから、共感や相談の連絡をいただいたからです。私と同じような悩みや、SNSの情報発信について「私も本当はやりたかった!」という声をいただいて。批判されることと自分と同じような家族の役に立てるということを天秤にかけたら、同じように悩んでいる家族に向けて続けたいと思いました。

アンリーシュ運営メンバーの中村奏子さんと金澤裕香さん。金澤裕香さん提供

そして何より、娘がいたから強くなれました。かわいい娘が保育園に行けない、離れた実家に帰省したくても飛行機に乗れない、仕事を続けられなくて経済的につらくなる。自分ではどうしようもない社会の不条理を感じました。立ち向かう先は社会という意識が当時は強かったように思います。

アンリーシュを立ち上げて3か月目に、自分だけの情報発信だと限界を感じたので、ママボランティアを募集したんですよ。そうしたら、2時間で60名くらいのお母さんから連絡があったんです!その反応から、役に立っているな、求められているなと感じました。

リアルな情報をママ目線で発信

――アンリーシュは、当事者のママがライターとして多数参加されているのですね。
ママ目線の情報はリアルな未来を見せてくれます。病院の先生は、医療に関する情報は教えてくれますが、未来のことは断言してくれませんよね。でも、ママたちの素の声は「私たち家族は、こうなっていくんだ」ということを立体的にイメージさせてくれるんです。

例えば、自分の子どもは今入院しているけれど、同じ病気を抱えた一つ上の子が退院したという話が聞けたら、うちもその頃には退院できるかもしれないと思える。だから、今は先生の言う通り、治療を頑張ろうって思えると思うんです。

お母さんたちも個人差があることは十分わかっている。でも、その中で、自分の子どもの未来をポジティブにイメージすることが、大変なことを乗り越える原動力になるんだと思います。

自分たちが楽しくいることを最優先に

アンリーシュの活動を通して、自然と「子どもに障がいや病気があっても、育児が楽しいよね」っていう人たちとつながれるようになりました。

「医療的ケア児とその家族に未来を見せる」ことが、情報発信のミッションなのですが、同時に運営メンバー自身が、楽しそうに子育てをしている、子育てしながら社会とつながっている、お友達が作れていきいきとしていることを大切にしています。

周りのネガティブな反応に最初は悩みましたが、いまはまだ楽しいと思えていないお母さんたちにも、楽しい未来を見せられればいいなという風に考えて、まずは自分たちが楽しくいることを最優先にしようと思っています。

お母さんたちの経済的な不安の解消が次のミッション

――アンリーシュの活動で今後の夢はありますか?
アンリーシュはミッションとして、情報不足と孤独感という二大課題の解消に取り組んでいます。そして、これからはお母さんたちの経済的な不安の解消をアンリーシュの第三のミッションにしたいなと思っています。

子どもに障がいや病気があるから、家族が何かをあきらめないといけないっていう状況をなくしたいんです。その一番大きな壁が、お母さんの就労だと感じています。私もそうだったんですよね。保育園が見つからず仕事が続けられない状況からアンリーシュを立ち上げて、それを仕事にして、ここまで来たという経緯もあるので、次はアンリーシュという場所を医療的ケア児のお母さんの仕事場にしていきたいと考えています。

数年後には、アンリーシュで医療的ケア児のお母さんたちが自分の夢を叶えていきいきと活動し、その活動に社会的価値があるから報酬もついてくるという流れをつくりたい。それが次の私のミッションです。

まとめ

令和三年に医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律が施行され、医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する基本理念が定められました。この法律の施行は、保育及び教育の拡充など医療的ケア児の健やかな成長を図るとともに、その家族の離職を防止し、安心して子どもを生み、育てることができる社会の実現に寄与することを目的としています。

しかし、金澤さんのお話をお聞きして、医療的ケア児に関する支援や情報はまだまだ少なく、ママ同士の何気ない情報交換も地域単位では難しい現状を知りました。ママ同士のフラットな関係において、生活の工夫を共有し合うことで、暮らしの悩みが解決することもあると思います。それは紙おむつの悩みも例外ではないと感じました。

そんな中で、医療的ケア児とその家族のための専門のメディアとして基本的知識などの情報発信や医療的ケア児のリアルな情報をママ目線で情報の発信を発信するアンリーシュの活動は大きな社会的意義があると感じました。アンリーシュを通して、情報の収集はもちろん、全国にいる医療的ケア児の家族とオンラインでつながれることも大きな魅力です。

今回、私は金澤さんにお話を伺う中で「医療的ケア児の育児に罪悪感を持たなくていい。医療的ケア児もその家族も自分の夢を叶えて、いきいきと暮らせる社会にしていきたい」という気持ちが伝わってきました。アンリーシュの活動がこれからどんどん拡がっていき、医療的ケア児とその家族の笑顔が増えることを願っています。

撮影:Hirofumi Miyake