日常のなかで、身近な高齢者の方の食欲が低下している…と感じることはないでしょうか。食事の時間になっても食卓に来なかったり、食べ始めても少量で食べ終えてしまったりと、見守るご家族は心配になることもあるかと思います。高齢者の方が食べることへの関心を高め、食事に集中できるようにするためのヒントは、「音」に隠されているかもしれません。今回は、高齢者の方の食べる意欲を引き出す「音の演出」についてお話しします。
つくる音は「安心感」になる
私自身が「音」の大切さに気付いたのは、両親の介護がきっかけでした。自宅で調理中、うるさくてはいけないからとキッチンの戸を閉めている…という話を、当時お世話になっていた看護師さんに話したときのことです。看護師さんは、「料理を作っている音って、安心するんです。だからごはんを作っているときは戸を開けて、その音を聞かせてあげてくださいね」とおっしゃってくれました。料理は見た目や味だけではなく、音や匂いによっておいしさを演出し、食べる人の安心感にもつながることを知った瞬間でした。
ぐつぐつ、ジュージュー…調理の「音」が想像力をかきたてる
高齢者向け施設で食事をお出しするときも、調理の音や匂いを感じていただく「ライブ感」を大事にしています。調理するようすは高齢者のみなさんから食事への興味を引き出します。ご自宅で高齢者の方に食事をお出しする際も、ぜひ調理の音を聴かせてあげてください。お鍋が「ぐつぐつ」煮える音、お肉を「ジュ―」っと焼く音、野菜を「トントン」と切る音。耳にした高齢者の方は、「あったかいのかな」「炒めものかな」など、できあがる料理が何かを想像するはず。おいしい音が空腹感を高め、食欲を刺激してくれます。
グツグツと具材が揺れる「生姜風味のふんわり鶏団子鍋」
揚げる音が食欲をそそる「枝豆クリームコロッケ」
食欲と集中力を高める「クラシック」
食事中の「音」も、食欲と深く関わっています。施設などではBGMとして「クラシック音楽」を流すことがあるのですが、これはクラシックに食欲や集中力を高めるはたらきがあるとされているためです。音楽と食欲の関係性を調べた実際の研究では、さまざまなジャンルの音楽のなかで、もっとも脳波を安定させ、食欲を増進させたのがクラシックであると報告されています。ご自宅でクラシックを流すのは難しい場合もありますから、そんなときは歌詞のない音楽をかけてみるとよいかもしれません。ちなみに、川のせせらぎや鳥のさえずりといった「ヒーリングミュージック」は“リラックスしすぎる”状態になるため、食事中の音楽としては向いていないようです。
情報がたくさんある「バラエティ番組」は要注意
テレビをつけながら食事をとるご家庭が多いかと思いますが、こちらはあまりおすすめできません。テレビ番組、とくにバラエティは会話や効果音、BGMなどとにかく情報が多いため、食事中の集中力を欠いてしまうことがあります。突然流れる大きな音は、高齢者の方が驚き、喉を詰まらせてしまう危険性もあるため、特に注意が必要です。それでもテレビはつけておきたい…という方は、少し音量を下げるなどして食事に集中できるような工夫をしてみてくださいね。そのほか、食器を洗うカチャカチャという音を聞くと、急かされているように感じる方もいらっしゃいますので、高齢者の方が食事を済ませるまで、できる限り洗いものは避けましょう。
おわりに
今回は、音を工夫することで高齢者の食欲を刺激する方法をご紹介しました。料理そのものだけではなく、食環境を演出することで、高齢者の方の食べたい気持ちを引き出すことにつながるはずです。高齢者の方が少しでも食欲を取り戻し、日々の楽しみが増えることを願っています。