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「認知症」と聞いたとき、あなたはどんなイメージを想像するでしょうか。人によってさまざまですが、おそらく多くの方が「大変な病気・怖い病気」といったイメージを浮かべるのではないかと思います。では、なぜ認知症が「怖い病気」だと認識されているのでしょうか。その理由について大きなものを挙げると、主に次の3つの点が考えられます。
理由(1)加齢によって発症する病気だから
認知症を発症する要因として最も多いのは「加齢による発症」 です。そして、人は生きている以上加齢を止めることはできません。つまりどれだけ気を付けていても、認知症の発症リスクをゼロにすることはできないのです。
また平均寿命の伸びによって、これまでであれば発症前に寿命を迎えていたようなケースが減り、発症する可能性が高い人が増えたという点も挙げられます。避けられない発症リスク、それが認知症を「怖い」と感じる理由の1つになっていると言えるでしょう。
理由(2)明確な治療法が見つかっていないから
認知症は、現代医療において未だ明確な治療法が確立されていない脳の病気です。脳の構造というのは大変複雑で、その全てが理解できている訳ではないからです。風邪やケガなどのように、「発症したとしても治療すれば治る」ということであれば、私たちの不安も大きく解消されるかもしれませんが、現状では難しいというのが現状です。「一度かかると完治が難しい」、そうした点も認知症を怖いと感じる理由の1つとなっています。
理由(3)症状が多種多様だから
認知症の大きな特徴として「人によってさまざまな症状が現れる」という点が挙げられます。代表的な症状としては、記憶障害(新しい記憶を定着させる機能に異常が生じ、記憶が消去されてしまう症状)や、見当識障害(時間・場所・人などが認識できなくなる症状)などがありますが、そうした症状以外にも睡眠障害や言語障害、幻視(存在しないものが見える症状)、穏やかだった性格の人が急に怒りっぽくなる人格の変化など、脳の異常箇所によって多種多様な症状が現れることが分かっています。また、発症した方の生来の性格や環境などによっては症状が強く出たりする場合もあります。
認知症は脳の病気(認知機能が低下し、日常生活に支障をきたす状態)であるため、そうした症状も詳しく見ていくと必ず理由があるのですが、しかし認知症の状態を経験したことのない健常者から見ると、「なぜそのような行動をとるのか分からない」という状況に陥ってしまいます。理解しがたい状態に対する不安や、対応することが難しいという現状などが、認知症に対する「怖さ」を助長させていると言えるでしょう。
認知症の手前・MCIにおける予防
「加齢などによって誰もが発症する可能性がある」「一度発症すると完治させるのは難しい」。こうした現状を知ると、「じゃあ認知症に対して私達ができることは何もないのだろうか?」と考えてしまうかもしれませんが、そんなことはありません。認知症について分からないことはたくさんありますが、少しずつ分かってきていることもあります。近年の研究では「認知症を発症する前の段階」であれば、認知機能の維持・回復ができる可能性があるということが分かってきました。
下図は年齢と認知機能の変化について表したグラフです。グラフ上部の青い部分が健康な状態、下に向かうにつれて認知機能が低下している状態です。低下する速さに個人差はありますが、年齢が高くなるほど認知機能は確実に低下していくということが分かります。
しかし、低下する認知機能の維持・回復できる可能性があるとされているのが、健常である青色の部分と、認知機能の低下したオレンジ色のちょうど中間の部分です。この段階は「MCI(Mild Cognitive Impairment)」と呼ばれています。
日本語では「軽度認知障害」と訳されますが、認知症の「手前」であり認知症ではなく、「認知機能の低下は見られるものの日常生活に支障が出るレベルではない」という状態を指します。そして、このMCIの段階で継続的な予防対策を行った場合、認知機能を維持・回復することができるということが分かってきているのです。
認知機能を維持・回復させるためには
認知機能がまだ充分に残っているMCIの段階から継続的な予防を行えば、認知機能を維持・回復することができる。それを裏付ける調査報告があります。
2017年、国立長寿医療研究センターのグループによって、認知機能の変化に関する調査が行われました。(参考文献:Shimada H, et al. J Am Med Dir Assoc 2017 Jul 12)
調査の対象は65歳以上の方、4153人。そのうち MCIと診断された方は 740人いらっしゃいました。その740人を4年間にわたって調査した結果、なんと半数近い46%の方(340人)の認知機能が回復し、正常範囲に戻ったという結果が出たのです。「一度低下した認知機能を元に戻すことは難しい」とするそれまでの考え方からすると、驚きの結果が出たのです。
しかし、この46%の方々は「何もしていないのに 勝手に認知機能が回復した」という訳ではありません。回復した方々の生活状況を詳しく調査したところ、次のような傾向が見られました。回復した方々の多くは、「MCIだと診断されたことをきっかけに、健康に対する意識を持つようになった」と答えています。また、それによって認知症予防に関する講習会などに積極的に参加するようになったり、日頃の生活習慣に目を向け、運動や食事などを改善するよう意識したりと、それぞれ何らかのアクションを起こしていたことが分かりました。彼らのこうした行動が、結果的に認知機能の回復につながったと考えられるのです。
「生活習慣を見直すことが、認知機能の維持・回復につながる可能性がある」と聞いても、なかなかピンと来ない方も多いかもしれませんが、実は生活習慣と認知機能に大きな関係性があるということは、近年の研究でも注目されています。生活習慣が元になって発症する「生活習慣病」が、認知症リスクを高める大きな要因になり得るということが分かってきているのです。
生活習慣病と認知症の関係性
生活習慣病とは、食生活・運動習慣・休養・喫煙・飲酒・ストレスなど、普段の生活習慣が影響して起こる疾患の総称です。代表的な疾患としては、糖尿病・脳血管疾患・心臓病・脂質異常症・がんなどが挙げられます。
ではこれらの生活習慣病が、なぜ認知症と関係があると言われるのでしょうか。その理由は、こうした生活習慣病の多くが血液や血管にダメージを与えるものが多く、それが脳内で起こった場合、脳血管の異常によって起こる認知症「脳血管性認知症」を引き起こす原因となる場合があるからです。つまり逆を言えば、「生活習慣病を予防することが認知症の発症リスクを下げることにもつながる」と言えるのです。
推奨される認知症予防法
では生活習慣病を予防し、将来の発症リスクを下げるためにはどのような方法が有効なのでしょうか。現在推奨されている予防法には、次のようなものがあります。すべてを一度に改善するのは大変かもしれませんが、1つでも「これなら今日からできる」というものがあれば、改善を意識してみましょう。
(1) あたまの運動
認知機能の低下は40代頃からすでに始まっていると言われています。また、高齢になり定年後に仕事などの日課がなくなってしまった場合、急激に脳への刺激が減ってしまい、認知機能の低下が助長されるケースも少なくありません。日頃から脳をはたらかせる機会をつくること、同じ生活の繰り返しにならないよう新しいことにチャレンジするなど、意識して脳に刺激を与えるようにしましょう。
(2) 身体の運動
加齢によって低下するのは脳機能だけではありません、身体機能も徐々に低下し、将来の寝たきり・要支援状態につながる可能性が高くなります。歩行機能などを維持するためには、本格的に機能が低下する前の段階での運動習慣が大切です。
運動器を健康に保ち、転倒などによるケガを減らすだけでなく、血流をアップさせて酸素を多く脳へ運び、脳機能を活性化させるためにも役立ちます。
(3) 食生活の改善
食べる物によって身体の健康が左右されるのと同様に、脳の健康も食生活によって大きく影響を受けます。生活習慣病や認知症の発症リスクを下げるために、次のようなポイントに注意しましょう。
●抗酸化作用の高い食物を食べる
身体の酸化(老化)を抑制し、脳や身体を若々しく保ちます。
旬の食材など、栄養価が高く、味や色の濃い食材を積極的に摂りましょう。
●バランスの良い食事を心がける
食べ過ぎ・食べなさ過ぎの状態は、どちらも脳にとって悪影響を及ぼします。
過不足のない食事量やバランスを心がけましょう。
(4) 質の良い睡眠をとる
脳を健康に保つためには、「はたらかせる」ことだけでなく「休ませる」ことも大切です。身体の疲労はじっとしているだけでも回復させることができますが、脳は私たちが起きている間、ずっとはたらき続けているからです。睡眠は脳が休める唯一の時間であり、消耗した脳神経などを回復させるためにも重要な時間です。しっかりと脳を休ませ、リフレッシュさせるためにも、時間だけでなく「質」を高めるように心がけましょう。
睡眠の質を高めるためには、起きている間の生活状況を見直すことが必要です。次のような点に注意し、質の良い睡眠がとれるよう意識してみましょう。
●毎日同じ時間に起床・就寝するリズムをつくる
●就寝直前まで強い光(スマホやテレビなどの画面)を見続けないようにする
●就寝直前の激しい運動・入浴などを避ける
●寝酒をしない など
まとめ
今回は、認知症がなぜ「怖い」病気だと認識されているのか、その理由や原因となるものについてお話しました。まだまだ分からないことも多い認知症ですが、「生活習慣病」がその発症リスクを高め、その改善に努めることで回復の可能性も生まれる、ということが分かってきています。「いずれ誰もがかかるものだ」と何もせずに日々を過ごすか、意識して日頃の生活習慣を見直すか。その選択が将来の発症リスクを大きく左右します。まずは無理なく、出来る事から始めてみましょう。
本記事に使用の図表の出典元:一般社団法人日本認知症予防協会