認知症の症状には「中核症状」と「行動・心理症状」がある【日本認知症予防協会監修】

「認知症」と聞いた時、あなたはどのような症状を思い浮かべますか?記憶障害、徘徊(一人歩き)、言語障害、性格の変化、幻視など、認知症にはさまざまな症状が現れるという特徴があり、それゆえに対応が難しいと言われています。しかしそれらの症状を詳しく見ていくと、「中核となる症状」と「個人の性格・環境によって左右される症状」の大きく2つから構成されていることが分かります。どのような理由によってこれらの症状が起こるのか、そして対応する際にはどのような点に気を付けたら良いのか、それぞれのポイントについて学んでみましょう。

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認知症の症状

認知症の症状は大きく「中核症状」と「行動・心理症状」の2つに分けられます。
認知症の症状

1)中核症状

認知症になった方の多くが抱える症状であり、中核となる基本的な症状です。主に次のようなものが挙げられます。

●記憶障害

新しいことを記憶する機能である記銘力(きめいりょく)が低下し、通常であれば覚えていられるような記憶が、不自然に欠落してしまう症状

●見当識(けんとうしき)障害

日付、時間、場所、周囲の状況、人物の把握など、自分が今置かれている状況を把握するために必要な情報を総合的に理解するための能力が低下する症状

●実行機能障害

考えて判断する、計画して実行するなどの行為が困難になる症状

●その他の高次脳機能(こうじのうきのう)障害

  • 失認(しつにん):見た物の認識が困難になる
  • 失行(しっこう):身体に異常がないのに行動が困難になる
  • 失語(しつご):会話や文字を理解することが困難になる

2)行動・心理症状(BPSD)

中核症状が「多くの人に同じような症状が現れる」という特徴があるのに対して、行動・心理症状は「人それぞれ異なった症状が現れる」という特徴があります。本人がもともと持っている性格に加えて、周囲の環境や人間関係などさまざまな要因が影響を与え、結果として複雑な症状が現れます。認知症の症状が多種多様だと言われる理由は、この行動・心理症状が大きく影響しているためだと言えるでしょう。

〈主な行動・心理症状〉

  • 徘徊(一人歩き):外出先で帰り道が分からなくなり、迷ってしまう症状
  • 拒否:薬の服用、入浴、着替えなど、さまざまなことを嫌がる症状
  • 暴力/暴言:温厚だった人が怒りっぽくなったり、暴力的になったりする症状
  • うつ/無気力:気持ちが沈み、塞ぎこんだり意欲がなくなる症状
  • せん妄:突発的に精神不安定な状態になる症状
  • 睡眠障害:不眠や昼夜逆転など、夜に眠れなくなる症状
  • 異食:食べ物ではないものを口にする症状
  • もの盗られ妄想:大事なものを紛失した時、身近な人に盗られたと思い込む症状
  • 帰宅願望:自宅にいるのに家に帰りたいと訴える症状
  • など

症状の構造を考える

行動・心理症状に見られるような症状の多様性は、なぜ起こるのでしょうか。それを理解する上でまず念頭に置いておきたいのは「中核症状との関係性」です。右図のように認知症の症状は、中核症状を中心にして行動・心理症状が広がっているという構図になっています。認知症になった方の多くが抱える中核症状に、環境や個人の性格などの要素がプラスされ、行動・心理症状が現れるといった関係です。

具体例として、認知症の代表的な症状の1つである「徘徊(一人歩き)」について見てみましょう。この症状の基盤となっているのは、主に記憶障害と見当識障害です。

下図のAさんの事例のように、多くの場合、まず本人は買い物などの目的を持って外出しています。しかし外出先で記憶障害が起こると、なぜ自分がそこへ来たのか突然分からなくなってしまいます。そして、さらに見当識障害によって「今自分がいる場所や状況」が理解できなくなると帰り道すら分からなくなってしまい、街をうろうろするという行動につながるのです。

徘徊(一人歩き)の具体例

しかし、こうした症状の経緯は本人以外には理解しづらいものであり、周囲の方には「意味もなく外へ出て徘徊している」と捉えられてしまいます。認知症は脳内の異常によって起こるため、ケガや病気のように目で見て分かりやすい変化がないからです。「理解しがたい行動をとる」「対応が難しい」といった認知症の特徴は、こうした認識から生まれていると言えるでしょう。

また本人は自分の状況を理解してもらえないストレスから、怒りをぶつけたり、うつ状態になることもあり、周囲から「以前より怒りっぽくなった」「性格が変わった」と捉えられることもあります。症状の多様性はこうしたさまざまな要因の積み重ねによって起こっているのです。

対応する際のポイントを知ろう

認知症の症状に適切に対応するためには、症状の構造や「なぜその症状が起こっているか」についても理解する必要があります。いくつかの代表的な困りごとの事例を元に、対応方法のポイントについて考えてみましょう。

認知症の父が、外出したまま帰り道が分からなくなることが多く、何度も警察に保護されていて心配です。

外出したまま帰り道が分からなくなる

これは徘徊(一人歩き)の症状によって起こりがちなトラブルです。先述したとおり徘徊の症状は、外出先で記憶障害や見当識障害が起こり、そこに行った理由や、帰り道が突然分からなくなってしまうために起こります。そのため、本人にいくら「気を付けて」「無意味な外出を避けて」と注意しても、対応は難しいということをまずは理解しておきましょう。その上で、徘徊につながらないための対策を考える必要があります。

たとえば、外出しようとする姿を見かけた時には「どこに行くの?気を付けてね」など自然に声をかけると、どこに行こうとしているのか分かる場合があります。すでに日が暮れているのに「買い物に行く」というような返答であれば「お店はもう閉まっているから、明日一緒に行きましょう」と伝え、外出を回避するという方法もあるでしょう。

外出するタイミングが分からず、周囲の方がずっと目を配っていることも難しいという場合には、人が出入りする際に音を鳴らして知らせるような設置型の福祉用具を活用したり、GPSが搭載された靴などを利用するのも一つの方法です。また近所の方にも事情を説明し、日頃から本人の行動を自然に見守ってもらえるような環境を整えておくと良いでしょう。一人で何とかしようとせず、周囲の方にもサポートしてもらうことが大切です。

ついさっき食べたばかりなのに「ご飯はまだ?」と聞いてきます。

食べたばかりなのに「ご飯はまだ?」と聞いてくるこちらも中核症状の1つである記憶障害によるものであり、直前の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまうために起こる症状です。健常者にも起こるような、いわゆる「ちょっとしたもの忘れ」の状態は「記憶が薄れる」ことによって起こりますが、認知症による記憶障害は「記憶が完全に消去される」ことによって起こっています。そのため、記憶がなくなった本人にしてみれば「ご飯はまだ食べていない」ということが正しい現実であり、どんなに説明したとしても思い出せず、なかなか理解できません。

こうした場合には、「本人は本当に食べていないと思っている」ということを理解した上で、その記憶を否定することなく対応するようにしましょう。「さっき食べましたよ」「あなたの記憶違いですよ」と正しい事実を突きつけるのではなく、「ちょっとテレビでも見て待っててね」「みかんでも食べて待っててね」など、その場の気分を逸らすような声掛けをするようにしてみましょう。別のことに興味が移り、そのまま気が収まることもあります。まずは本人の認識を肯定し、安心させてあげることが、お互い気持ちよく過ごすためのポイントです。

心理的な影響から起こる症状への対応

行動・心理症状の中には、中核症状による直接的な症状だけでなく、それによって本人の不安な気持ちが増長することによって起こる症状も多くあります。そうした場合にはどのように対応したら良いのか、よくある事例からポイントを学んでみましょう。

自分で紛失して見つからない物を「あなたが盗った」と言ってきます。

紛失して見つからない物を「あなたが盗った」と言ってくる「物をしまいこんで紛失する」という行為は、認知症でよく見られる症状の1つです。財布や通帳など、大事なものほどしっかり保管しようと考えるのですが、しまい込んだあと記憶障害によってそのことを忘れてしまい、見つけられなくなってしまいます。そして記憶にない状態で大事なものがなくなったという状況に「誰かが盗った」と思い込み、身近な人を疑ってしまうのです。こうした症状は「もの盗られ妄想」と呼ばれます。

もの盗られ妄想は記憶障害による直接的な要因だけでなく、自分の体に起こっている異常に対して感じる不安や、これからの自分の生活・財産がどうなるか分からないといった将来への不安などが大きく影響していると考えられます。そのため周囲の人が「私は知らない・盗っていない」といくら説明しても、疑心暗鬼になり理解してもらえなかったりします。また、代わりに探し物を見付けてあげたとしても「あなたが隠していたから探し出せたのでは?」と疑いの目を向けられてしまう場合もあるので注意が必要です。

失くした物を一緒に探す時には、こうした背景をきちんと理解した上で対応するようにしましょう。なるべく本人が自分で見付けられるように、さりげなくサポート(見つけやすい所に一旦置き直し、誘導するなど)してあげることがポイントです。

一度きちんと専門機関で診察してもらいたいが、本人は「必要ない」と言って行きたがりません。

病院に行きたがらない認知機能の低下は緩やかに起こります。ある日突然、身体に異変が起こったのであれば明確に意識するきっかけにもなりますが、徐々に機能が低下していく中で「たまたまそうなっただけ」「気のせいだ」と誤魔化してやり過ごしてしまうと、その後も自分の身体の現状をなかなか認められなくなってしまいます。そのため、どれだけ家族が受診を勧めたとしても頑なに拒否して受け入れてもらえない、という状態に陥りやすいのです。

こうした状況に対応する際は、まず「ご家族以外の人の力」を借りるようにしてみましょう。専門家をはじめとする他者に仲介してもらうことで、「身近な間柄だからこそ、お互い頑なになってしまって引っ込みがつかなくなる」という状況を回避し、本人にとっても素直に受け入れやすい状況をつくることができます。主治医の説得であれば素直に聞く、という方も多くおられますので、まずはかかりつけの医師の元で診察し、そこから専門の機関を紹介してもらうという方法も良いでしょう。また、ご夫婦や年齢の近い方同士の場合であれば、「私が看てもらいたいから一緒について来て」などの理由を説明し、同時に診察してもらうというのも1つの方法です。

その他、各自治体では「認知症初期集中支援チーム」という仕組みで、初期の認知症の方を適切に医療や介護につなぐサポートを行っています。こうした専門家の力を借りるなど、色んな人に協力をお願いしてみましょう。無理に説得するのではなく、対応する「人」を変えてみることがポイントです。

まとめ

今回は認知症に見られるさまざまな症状やその構造、そして対応する際のポイントについてお話ししてきました。先述したとおり、認知症の症状は非常に多様で人それぞれの現れ方があり、はじめて症状に対応する際には戸惑うことも多いものです。

しかしこうした知識があればいざという時にも慌てず、より良い対応方法を見付けられるかもしれません。ご本人とご家族、お互いが出来るだけ気持ちよく笑顔でいられるための手掛かりとして、ぜひ覚えておいてくださいね。

本記事に使用の図表の出典元:一般社団法人日本認知症予防協会

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