愉しみながら栄養を補う おいしくて健康的な高齢者向け「おやつ」

健やかな生活を送るために、日々の食事は欠かせません。ところが、年を重ねるにつれて身体機能の低下が見られる高齢者の方は、食事量が減る傾向にあります。食事量の低下に伴う栄養不足=低栄養状態を防ぐため、今回ご紹介したいのが「おやつ」です。日々の食事の補食として大切な役割を担うおやつについて、一緒に理解を深められたらと思います。

サルコペニアや免疫力低下を引き起こす「低栄養」

低栄養を一言でいうと、「生きるために必要な栄養素が不足している状態」です。高齢者の方の場合、運動量の低下や口腔機能の低下などが原因で食事量が減り、身体をつくるたんぱく質や、身体を動かすためのエネルギー不足してしまうのです。

低栄養の具体的な指標としては、①体重が直近6ヶ月間で約2~3㎏減少していること、②BMI*1 )18.5未満であること、③血液検査でアルブミン*2 )が3.8以下であること、これら3点が挙げられます。「1回の食事量が減ってきた」「身体の線が細くなってきた」などの変化がみられる場合は、かかりつけ医に相談してみましょう。


*1 )BMI (Body Mass Index)
肥満度を表す指標として、国際的に用いられる体格指数。体重と身長を使って計算します。

*2 )アルブミン
アルブミンは血液中のたんぱく質のうち、もっとも多く(約60%)を占め、栄養状態を反映する指標の一つです。アルブミンが低下すると、血管の外に水分が漏れ出ることによるむくみや、全身の不調につながるとされています。


低栄養状態がつづくことで、次のような症状を起こす場合があります。

■サルコペニア(筋力低下)

年を重ねるにつれて筋肉量が減少し、筋力が低下していく状態を「サルコペニア」と呼びます。一度筋力が落ちてしまうと回復がしづらく、骨折時などのリハビリやトレーニングにも支障が出ることも。進行すると、転倒や要介護状態、合併症のリスクも高まります。

■感染症にかかりやすくなる

身体の状態をととのえるための栄養が十分に摂れなくなると、免疫力も下がり、外部の刺激から身体を守る力が衰えてしまいます。その結果、風邪や感染症などにかかるリスクが高まります。

栄養を補い、食べる意欲を引き出す「おやつ」

低栄養を防ぐための方法として提案したいのが、食事とは別にお召し上がりいただく「おやつ」です。栄養を補うほか、高齢者の方から食べる意欲を引き出すことも期待できます。

おやつの役割①3度の食事では摂りきれない栄養を補う

おやつは不足しがちな栄養を補い、低栄養を防ぐ「補食」としての重要な役割があります。例えば野菜。1日に必要な摂取目標量として350gが掲げられていますが、この量は成人の私たちでも毎日摂ることが難しいとされる分量です。このあと紹介する野菜を使ったおやつも、3度の食事では摂りきれないビタミンを補うことが期待できます。

おやつの役割②食べたいという気持ちを引き出してくれる

低栄養になりやすい高齢者の方は、さまざまな理由から食べることへの意欲が減っている状況と考えられます。普通の食事で食欲を引き出すことが難しい場合に、試していただきたいのが「おやつ」です。おやつには食事と違った特別感があり、見た目に楽しさや遊び心を加えることもできます。人によってはおやつへの楽しみが、食事以上になる場合も。もちろんメインとなる食事があってこその補食(=おやつ)ではありますが、高齢者から食べたいという気持ちを引き出すきっかけとして活用することもできます。

栄養素別・高齢者の方向け「おやつ」レシピ

次は、具体的なおやつのレシピをご紹介していきます。これまで、「介護のための『食べるのヒント』」を通じてご紹介したものを、補いたい栄養素ごとにピックアップしました。おいしさはもちろん、食べやすさや見た目もこだわったレシピですので、ぜひお試しください。

たんぱく質を摂るなら

五大栄養素のうち、身体をつくるもとになるたんぱく質。エネルギー源である炭水化物が不足した場合の代わりとしても大切な役割を果たします。たんぱく質が不足すると、筋力の低下や細菌・ウイルスに感染しやすくなるといった影響が出るため、十分に摂り入れたい栄養素です。たんぱく質が豊富に含まれる卵や牛乳を使ったおやつレシピで、不足分を補いましょう。

*参考記事:https://live-plus-do.com/recipe/クリスマスリース・ドーナツ/

*参考記事: https://live-plus-do.com/recipe/柚子ヨーグルトケーキ/

エネルギー(脂質)を摂るなら

炭水化物と並んで身体のエネルギー源となる脂質は、体温の保持や内臓の保護、細胞膜やホルモンの構成成分として大切な役割を担っています。摂取量が足りないと、体力低下やホルモンバランスの乱れ、皮膚炎などを起こすことも。普段の食事で摂りきれない脂質は、バターやマーガリン、クリームなどを使ったおやつがおすすめです。ただし、脂質は少しの量でもエネルギー量(=カロリー)が豊富に含まれるため、摂りすぎには注意しましょう。

*エネルギー源の主体である糖質はおやつのほとんどに含まれるため、ここでは脂質に着目したレシピを紹介しています。

*参考記事: https://live-plus-do.com/recipe/かぼちゃのモンブラン/

*参考記事:https://live-plus-do.com/recipe/さつまいもプリン/

*参考記事:https://live-plus-do.com/recipe/2色のやわらかチョコトリュフ/

食物繊維を摂るなら

6番目の栄養素とも呼ばれる食物繊維は、腸の調子を整える、血糖値の急激な上昇を抑えるといった働きを持っています。高齢者の方のお悩みとして多く挙げられる「便秘」も、食物繊維が不足していることが原因の一つ。やさしい甘さが特徴のさつまいもやかぼちゃを使えば、不足しがちな食物繊維を補うことができます。

*参考記事:https://live-plus-do.com/recipe/さつまいものきんつば/

*参考記事:https://live-plus-do.com/recipe/芋ようかん/

*参考記事:https://live-plus-do.com/recipe/里芋餅のおはぎ

ビタミンを摂るなら

健康維持や体調管理、糖質・脂質・たんぱく質の代謝を円滑に進めるなどの役割を担うビタミン。人間の身体の中で作り出すことができないため、食品を通じで摂取することが必要です。慢性的な食欲低下によって、疲れや肌荒れといった不調が起こっている場合は、ビタミンが不足している場合があります。栄養価も高く見た目も鮮やかなトマトやレモンを使ったレシピで、積極的にビタミンを摂りましょう。

*参考記事:https://live-plus-do.com/recipe/ミニトマトのカラフルコンポート/

*参考記事:https://live-plus-do.com/recipe/はちみつレモンゼリー/

ミネラルを摂るなら

「無機質」ともいわれるミネラルは、身体の調子を整えるために欠かせない栄養素です。エネルギー代謝を促し、心身のバランスを保つためにも大切な役割を担っています。ビタミンと同じく体内で作り出すことができないため、野菜や果物、ナッツ、乳製品を通じて積極的に摂ることが大切です。アーモンドやゴマなどに豊富に含まれるため、クッキーなどの材料として活用し、不足分を補いましょう。

*参考記事:https://live-plus-do.com/recipe/スペインの伝統菓子-ポルボロン/

高齢者の方向け「おやつ」 気になるギモン

Q.おやつは毎日食べてもいいの?

基本的にOK。ただし量や内容、時間帯には気を配りましょう。
おやつは毎日ご提供いただいて構わないのですが、いくつか注意点もあります。まず、日常の食事では摂りきれない栄養素を補うおやつとして出すこと。甘いものを希望されがちですが、甘さを重視しすぎると、本来の「補食」としての役割が果たせません。また、量が多すぎて3度の食事が食べられなくなった…ということも避けたいですね。特にチョコレートやクリームなどはカロリーが高いため、摂りすぎには注意してください。提供するタイミングも大切です。昼食と夕食の間、ちょうど空腹になる15時ごろに食べていただくのが理想です。 食後のおやつとして一緒に出してしまうと、おやつにばかり目がいってしまうため、できるかぎり別々に出すようにしましょう。


Q.作るのが大変そう…

時短になるホットケーキミックスや寒天などをストックしておくと◎
ホットケーキミックスは、ふるいにかける、ベーキングパウダーを使うといった手間がいらないため、気軽におやつを作ることができます。たとえば、水を張ったフライパンに、生地を注いだカップを置いて火を通せば、簡単に蒸しパンができます。生地と混ぜる水の分量を変えるだけで、クレープやケーキ、ワッフルなどにもアレンジできます。ココアパウダーや抹茶の粉末を使えば、味のバリエーションも広がりますよ。そのほかにも、常温で固まる寒天、クリームチーズの代用になる水切りヨーグルトなどもお菓子作りに重宝するのでおすすめです。


Q.噛む力が弱まっている場合におすすめのおやつは?

くちどけがよい、舌でつぶせるなど、食べやすさを工夫したもの
ソフト木綿でつくったお団子、卵白を使ったギモーヴなど、工夫次第で食べやすいおやつを作ることができます。見た目は一般的なおやつと大きく変えない点も、作るうえで大切なポイントです。


Q.甘いものを控えるように言われている場合は?

素材本来の甘さを活かしたおやつを
砂糖を多用したおやつは、甘みをたくさん感じられる一方で、糖分の摂りすぎが気になるところ。おすすめは、素材本来の甘さをもつ季節の野菜やフルーツを活用したおやつです。先ほどご紹介したミニトマトのコンポートは、加熱することで甘みを引き出せますし、リンゴ酢などに漬け込むとよりフルーティーな風味になります。見た目もカラフルで楽しく、不足しがちな栄養も摂れるので、ぜひお試しいただきたいです。

おわりに

高齢者の方の低栄養を防ぐ「おやつ」についてご紹介しました。量や内容など、気を付ける点はいくつかあるものの、作るうえで「こうあるべき」といったルールがあるわけではありません。食べたいものを愉しんで食べられるようにと、さまざまな創意工夫をしていただけます。高齢者の方の健康を想う気持ちが込められたおやつは、きっと喜んでいただけるはず。ひとつのおやつをきっかけに、高齢者の方の食べる意欲が引き出せることを願っています。