「アミロイドβ」は本当に悪役?解明されてきた認知症の原因【日本認知症予防協会監修】

「認知症は身体に害を及ぼす悪い病気ですか?」と聞かれた時、皆さんはどう答えますか?たしかに、認知症の症状は自立した生活を送る上で障害になるものが多く、認知症人口が増え続けている昨今、問題視されています。本人だけでなく周囲の人の生活にも影響を及ぼすため、できることなら「発症しないまま過ごしたい」と思うのが自然でしょう。しかし、そもそも認知症とは何なのか、なぜ発症するのかについて詳しく見ていくと、一概に「認知症=悪いもの」とは言えなくなる真実が見えてくるのです。

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アミロイドβの存在

認知症に関する詳しいメカニズムについては、まだまだ不明な点がたくさんあります。しかし少しずつ研究が進む中で、発症に大きく関係する要因の1つだと考えられる物質が発見されました。それが「アミロイドβ(ベータ)」です。

アミロイドβとは、脳内で生成される異常タンパク質の一種であり、少量存在するだけでは害にはなりませんが、多く蓄積することで脳にダメージを与えます。アミロイドβ

つまり「アミロイドβが脳内に溜まり過ぎることが、認知症発症の要因につながる」ということが分かってきたのです。そしてこのことから、「アミロイドβさえ生成されなければ認知症にならない」「アミロイドβ=悪者」というイメージが、長らく認知症研究の世界では定着していました。

しかし、近年になってこの考え方が覆されつつあります。下図は2018年に発表された「リコード法」という認知症治療についての新しい考え方について書かれた本です。

『アルツハイマー病 真実と終焉 ”認知症1150万人” 時代の革命的治療プログラム』

『アルツハイマー病 真実と終焉 ”認知症1150万人” 時代の革命的治療プログラム』
デール・プレデセン著/ 白沢卓二 監修/ 山口茜 訳

この本の中で筆者であるプレデセン博士はアミロイドβに対する新しい概念を示しました。それは「アミロイドβはただの悪者ではない」という考え方です。

これまで「認知症を発症させる原因だ」と言われてきたアミロイドβは、実は根本の原因ではなかった。認知症を引き起こす要因は他にもある、と提唱したのです。世界中の研究者たちが驚きました。

脳を脅かす3つの脅威

プレデセン博士は、認知症を研究する上で「そもそも、なぜアミロイドβは蓄積するのか」に注目しました。それについては、これまでの認知症研究においても解明されていなかったからです。そしてその要因として、3つの「脳を脅かす脅威」があると説明しました。プレデセン博士の提唱する「脳を脅かす3つの脅威」とは主に次の通りです。

脳を脅かす脅威(1)炎症

「炎症」とは、体内に異物が入ってきた時に身体が反応する免疫システムのことを表します。炎症
たとえば、ケガをして傷口から細菌が入ってしまった場合に患部が赤く腫れたり、膿が溜まったりしますが、あれは「体内に入った異物を排除しよう」と身体が判断して免疫機能が働いた結果、患部が細菌と闘うため熱をもって腫れたり、闘い終えた白血球が膿になって溜まったりするために起こる現象です。これと同様に、脳内に異物が入り込んだ際、それと戦った結果として増えたアミロイドβが蓄積してしまっているのではないか、とプレデセン博士は考えました。

脳の場合における「異物」とは、たとえば偏った食生活によって過剰に摂取される糖質やグルテンなどが挙げられます。これらは主に小麦でできた製品に多く含まれる成分ですが、適量であればとくに問題はありません。しかし過剰に摂取することで血液や血管に影響を及ぼし、体内の酸化(老化)を促進させ、脳にも悪影響を与えてしまいます。

こうした異物が体内に取り込まれる頻度が高いほど、この炎症反応は頻繁に起こるようになり、そしてそれによってアミロイドβもどんどん増えてしまうのです。つまり、「問題なのは増えてしまったアミロイドβではなく、増える原因となった過剰な異物の存在である」というのが、この「炎症」の考え方です。

脳を脅かす脅威(2)萎縮性

萎縮とは「脳が小さく縮んでしまうこと」を指します。これまでの認知症研究において、こうした脳の萎縮は「脳内に蓄積したアミロイドβによって起こる」というのが一般的な考えでした。認知症によって萎縮した脳を調べてみると、実際にアミロイドβ が多く蓄積しているという事実があったからです。脳の萎縮

しかし、なぜアミロイドβが蓄積するのか、その理由については解明されていませんでした。そこでプレデセン博士はこう考えます。「脳が萎縮する根本的な原因は、増えたアミロイドβそのものにあるのではなく、それが増える事になった別の要因のせいではないか」そしてその原因は「日々の食生活による栄養不足にあるのではないか」と考えたのです。

近年の認知症研究により、日々の生活の中で充分な量の食事が摂れていないと、身体が痩せてしまうだけでなく、脳まで萎縮してしまうということが分かってきています。つまり「アミロイドβが生成されたから脳が萎縮した」という訳ではなく、日々の食生活による「栄養不足」が原因となって脳が萎縮し、アミロイドβはその過程で作られた物質だというのが、この「萎縮」の考え方です。

脳を脅かす脅威(3)解毒

解毒とは、毒の効果をなくすことです。そして体内に入り込む「毒素」とは、主に食事などによって微量に摂取される水銀や鉛・カドミウムなど、身体にとって有害な物質のことを指します。通常こうした物質は自然界にもともと存在していて、微量であれば摂取しても問題ないものなのですが、近年は土壌汚染・水質汚染などの影響でその量が増えています。
そのため、食物連鎖の上位にあたる、我々人間が口にする食べ物に含まれる毒素の量も増えてしまっているという現状があるのです。

アミロイドβは体内に入り込んだこれらの毒素と結合し、排除するというはたらきをしています。そのため、体内の毒素が増えるにしたがって、それを排除するためのアミロイドβの量も増えてしまいます。

さらに、増えたアミロイドβを排泄するために必要な「睡眠」が不十分な場合、充分に排泄することがでず、脳内に蓄積してしまうという悪循環を産むことになります。その結果アミロイドβの蓄積が促進され、認知症発症のリスクを高めてしまっていたのです。

つまりこれもアミロイドβがそもそもの原因だったのではなく、根本となる原因は「体内に取り込む毒素の量が増えたこと」だった、と言えるのです。

アミロイドβは本当に悪役か?

さて、ここまでの3つの要素を踏まえると、アミロイドβ の存在は本当に「ただの悪役」だと言いきれたでしょうか。プレデセン博士の提唱したこれらの要素は、すべて「アミロイドβそのもの」ではなく「アミロイドβが増えざるを得ない環境をつくっている、生活環境こそが問題」だという点を指摘しています。つまり日々の生活習慣の乱れが、結果としてアミロイドβを増やし、認知症発症のリスクを高めているという結論に至っているのです。大気汚染

実際に、このリコード法を用いてアルツハイマー型認知症の治療を行ったところ、約9割に回復が認められたという報告も出ており、この考え方の信憑性を高めています。アミロイドβはただの悪性物質ではなく、脳は与えられた環境に対して身体を維持するために最適な行動をとっているだけだった。これこそが現代における認知症の正体だと言えます。

本来、老化によってゆるやかに起こるアミロイドβの蓄積は、髪が白髪になったり、シワが増えたりといった「老化現象」と大きく変わりません。人が一生を送る中で起こる自然な変化の1つです。そして、それによって起こる認知症も自然な変化の一部だと言えます。しかし、生活習慣の乱れがそれを助長し、不自然に早めてしまうのです。

昨今、医療の発達によって人の寿命はどんどん延びていますが、長寿が当たり前になればなるほど「全ての人がいずれ認知症になる可能性が出てくる」というのも自然なことでしょう。だからこそ現在の生活習慣を見直し、不自然な発症リスクの助長を抑えることが大切です。

アミロイドβの蓄積しにくい生活習慣を

アミロイドβの蓄積を抑制し、認知症予防に効果的だと言われる方法はたくさんあります。実践する場合には認知症と生活習慣病、この関係性をしっかりと認識した上で行うようにしましょう。

(1)食生活を改善する

食べる物によって身体の健康が左右されるのと同様に、脳の健康も食生活によって大きく影響を受けます。生活習慣病や認知症の発症リスクを下げるためには、次のような点に気を付けてみましょう。食生活を改善する

●アミロイドβの蓄積を助長する糖質やグルテンの多い食品(甘い菓子パン・油で揚げた食品・加工食品など)の過剰摂取を避ける

●血液をサラサラの状態に保つDHAやEPA(魚類の脂に含まれる)を積極的に摂り、アミロイドβが蓄積しにくい環境をつくる

●「食べ過ぎ」はもちろん、無理なダイエットなどによる「食べなさ過ぎ」にも気を付け、栄養不足による脳の萎縮や、ドロドロ血によって起こる脳血管の異常を予防する

(2)運動習慣をつける

近年の研究で、運動をすることによってアミロイドβを分解する酵素(ネプリライシン等)が活性化し、脳内への蓄積を抑制するということが分かってきています。
運動習慣をつける
無理なく楽しめるものを選び、継続して行うようにしましょう。ウォーキングやサイクリング、スクワットなどの軽い有酸素運動は血流をアップさせ、酸素を多く脳へ運ぶためにも効果的です。

また、運動は加齢によって徐々に低下する身体機能を維持し、将来の寝たきりや要支援状態、その結果起こる認知症などのリスクを軽減するためにも有効です。すでに運動機能が低下した状態で無理な運動を行うと、逆にケガにつながる場合もありますので、充分に運動機能が残っているうちから習慣づけるよう心がけましょう。

(3)質の良い睡眠をとる

身体の疲労はじっとしているだけでも回復させることができますが、脳は私たちが起きている間、ずっと働き続けています。睡眠はそんな脳が休める唯一の時間であり、アミロイドβをきちんと除去するために必要な時間でもあります。脳を毎日しっかりリフレッシュするためには「睡眠時間をきちんと確保する」ということに加え、「睡眠の質を高める」ということにも意識を向けてみましょう。睡眠の質を高めるためには、次のような点に注意することが大切です。質の良い睡眠をとる

●毎日同じ時間に起床・就寝する生活リズムをつくる

●就寝直前まで強い光(スマホやテレビなどの画面)を見続けないようにする

●就寝直前の激しい運動・入浴などを避ける

●寝酒をしない など

まとめ

「脳内に蓄積することで認知症発症リスクを高める」として問題視されてきたアミロイドβ、しかしその蓄積を助長させる理由には「日頃の生活習慣」が大きく影響していました。身近なところに発症リスクを高める要因があるという状況は一見マイナスに見えますが、認知症予防を考える上ではプラスになる面もあります。本来、認知症は「加齢によって発症するもの」であり、なかなか避けることの出来ないものでしたが、生活習慣の乱れによって高まった発症リスクであれば、それを改善することで軽減することができるからです。将来の健康寿命を延ばすための要素として今できることはないか、意識することから始めてみましょう。
です。

本記事に使用の図表の出典元:一般社団法人日本認知症予防協会

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