認知症を予防するために有効な方法として推奨されているものにはさまざまなものががありますが、中でも認知度が高いものと言えば、脳トレなどをはじめとする「頭をはたらかせる」方法でしょう。認知機能の低下は40代頃からすでに始まっているとも言われており、こうした方法は高齢期だけでなく、幅広い年齢層の方にとって有効な方法だと言えます。
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無意識ばかりの生活はNG
脳を健康に保つためには、普段からあたまを動かし続けることが必要です。脳も手足や身体と同じように、動かす習慣をつけておかないとスムーズに動かすことが難しくなってしまうからです。
とはいえ「毎日生活していれば、頭を動かすことくらい普通にやっているのでは?」と感じる方も多いと思います。たしかに、テレビやネットを見る時、誰かと話す時、家事をする時、外出する時、その他いろいろな場面でさまざまな行動を行うため、私達は頭を使っています。ですが、ちょっと思い出してみてください。
たとえば、外出する時に家のカギを閉めた後に「あれ?今ちゃんと閉めたかな…」と不安になった、なんて経験はありませんか?実際はきちんと閉めているのに、記憶にいまいち残っていない。
人間には「慣れ」というものがあるため、毎日なんとなく同じ生活を繰り返しているだけだと、ほとんどの時間を意識して頭を使うことなく過ごせてしまい、このような現象が起こってしまうのです。
毎日の生活がこのような無意識の動作ばかりになると、脳への刺激が極端に少なくなってしまいます。これでは充分に「あたまを動かしている」とは言えません。もっと意識的に脳をはたらかせる必要があります。
脳トレで頭を活性化
意識的に脳を働かせるために有効な方法として、もっとも一般的なものといえばいわゆる「脳トレ問題」でしょう。クイズや漢字、数字の問題など、さまざまな問題を解いて楽しみながら脳を活性化させる方法です。では、ここでいくつか実践してみましょう。
テーマしりとり
それぞれのお題に沿って、しりとりをしてみましょう。
★解答例は文末をご覧ください
漢字イラスト
次の漢字は何を表しているでしょうか?
(ヒント:サラサラ落ちます)
★解答例は文末をご覧ください
熟語完成パズル
矢印の方向に読むと二字熟語ができるように、中央の空欄に漢字を当てはめましょう。
さらに、その答えのA・Bを合わせると何の熟語ができますか?
★解答は文末をご覧ください
予防には「楽しい」と感じるものを
実際にいろんな種類の脳トレ問題にチャレンジしてみて、いかがだったでしょうか。解いている間、あなたは「楽しい」と感じられたでしょうか?「とても楽しかった!」と思える方は、その方にとってとても効果的な認知症予防になったと言えます。
しかし逆に「全然楽しくなかった」「難しくてイライラしてしまった」というようなマイナスの感想を持たれた方の場合は、少し注意が必要です。なぜならストレスを感じながら行う認知症予防は、逆効果になってしまう場合もあるからです。
人がストレスを感じた時、体内ではホルモン物質「コルチゾール」が分泌されます。このコルチゾールは「脳を委縮(小さく縮むこと)させる」作用があるということが分かっており、そしてその「脳の萎縮」は認知症を発症させる要因の1つと言われています。つまり、「脳に良い」と言われている脳トレをやった結果、逆に認知症リスクを高めてしまう、なんてことになってしまう場合もあるのです。
脳トレに限らず「頭を使って問題を解く」という認知症予防は、ただやみくもに難問に挑めば良いという訳ではありません。それよりも「自分にとって楽しくできるものかどうか」「無理なく継続できるかどうか」を重視することが大切です。
たとえば自分にあったレベルの簡単な問題を選んだり、分からない時には悩み続ける前に早めに答えを見るなど、自分なりにストレスの少ないやり方で実践するようにしましょう。
また、「そもそも自分に脳トレは合わないな」と感じる場合には、他の方法に切り替えるというのも一つの方法です。日常生活の中で実践できる脳のトレーニングは、こうした問題を解く以外にもたくさんあります。
低下する脳機能をはたらかせよう
日常生活の中で脳を意識的にはたらかせる方法には、さまざまなものがあります。どのような行為が、より効果的に脳へ良い刺激を与えるのか。それを知るためには、「具体的にどのような機能が低下していくのか」についても知っておく必要があります。
まずは低下する認知機能の種類を知り、そしてそれに対する予防法について学んでみましょう。加齢によって低下する認知機能には、大きく分けて次のような種類がありあます。
低下する認知機能(1)エピソード記憶
過去の出来事を、その時の付随情報を含めて覚えている機能のことをエピソード記憶と言います。
たとえば「昔、家族とバーベキューをした」という記憶を思い出す時、ただ「バーベキューをした」という事実だけでなく、そのときの風景や雰囲気、周りの人の様子、匂い、そのとき自分がどんな気持ちだったか、などを総合的に思い出すために必要な能力です。
認知機能が低下すると、こういった複雑に情報が混ざり合った記憶を維持することが難しくなってしまいます。
この機能を維持するためには、「過去の経験を思い出す習慣をつける」ことが有効です。その日あったことを日記につけるようにしたり、近年ではブログやインスタ、ツイッターなどのSNSも普及していますから、そうしたものを日記代わりに写真や文章を残すことも有効です。後日その記録を見返し、その時の情景や感情などと合わせて、できるだけ詳細に思い出す習慣をつけると良いでしょう。
●日記や家計簿をつけながら、その日あったことを振り返ってみる
●アルバムやSNSなどの写真を見て、そのときの情景を思い出す など
低下する認知機能(2)注意分割機能
注意分割機能とは、いくつかの物事に注意を向けつつ、注意力を分割しながら実行する機能のことを指します。
たとえば料理をする時、主菜と副菜を1品ずつバラバラに作るのではなく、下ごしらえなどは一度に調理しながら、仕上がり時間が同じになるように工夫するといったものなどが挙げられます。物事を効率良くこなしていくために必要な機能です。
認知症予防としてこの機能を維持するには「複数の動きが組み合わさった動作を行う」ことが有効です。とくに「頭と身体を同時に動かす行動」は二重課題(デュアルタスク)とも言われ、脳への刺激も大きく効果が高いとされています。日頃の動作の中にそうした動作がないか、意識して探してみましょう。
●複数人で会話をする
●歌詞を覚えた歌を、カラオケや鼻歌などで歌う
●テレビやラジオを聞きながら洗濯物をたたむ など
低下する認知機能(3)計画力(思考力)
計画力(思考力)とは先のことを予想し、手順や段取りなどを考えながら実行する機能のことです。たとえば「相手の動きを事前に予想しながら自分の行動を決める」といった、将棋やオセロなどのゲームを行う際にも使われます。この機能を維持するには、日頃から先のことを考えながら生活をすることが有効です。
将棋やオセロ、パズルなどの娯楽を生活の一部に取り入れてみても良いですし、毎日の仕事や趣味など、日課になるものを決めて実行するのも良いでしょう。また旅行など先の予定を立てて、準備・実行することなども効果的です。
無意識の時間ばかりにならないよう、意識して先のことを予想してみたり、明日が楽しみになるような予定をたくさん作るようにしましょう。
●将棋・オセロ・パズルなどを楽しむ
●趣味などの日課を決めて実行する
●旅行など、先の予定に向けて準備・実行する など
眠っている認知機能をはたらかせよう
加齢によって低下する3つの認知機能の他に、もう1つ覚えておいてほしい重要な機能があります。それは「認知予備能」です。認知予備能とは普段は使われることなく眠っている予備的な脳機能のことで、新しい経験や物事を行うことで活性化し、他の認知機能をサポートしてくれます。活性化させる具体的な方法としては、次のような方法があります。
●それまで知らなかったことを新しく学ぶ
●セミナーや講習会に積極的に参加する
●新しく趣味を始める
●色んな方法でコミュニケーションを楽しむ など
認知予備能は、新しい刺激を受けることで活性化させることができる機能です。「同じ生活の繰り返しで無意識ばかりになる状態」とは、ちょうど逆になるような生活を心がけると良いでしょう。楽しく継続できる自分に合ったものを見つけられるよう、年齢に関係なく、さまざまなことにチャレンジしてみてください。
まとめ
認知症予防に効果的な「あたまの運動」についてお話してきましたが、いかがだったでしょうか。自身の今の生活を振り返って、改善できそうなこと、新しく始められそうなことなどはありましたか?
あたまの運動を行う上で最も大切なのは、どんな方法であっても「意欲的に行うこと」です。「効果があるから」という理由だけで嫌々行うのでは、効果が半減してしまったり逆効果になる場合もあります。今回学んだことを元に、まずは自分の興味の向くもの、楽しんで続けられそうなことを見付けましょう。毎日を意欲的に楽しく過ごすことができれば、それだけで認知症予防につながるのです。
脳トレ解答例
【テーマしりとり】
①ケーキ → きなこ → 小松菜(こまつな)→ なすび → ビール
ケーキ → キムチ → チョコレート → とうもろこし → しいたけ
②砂→苗(なえ)→駅(えき)→九州(きゅうしゅう)→海(うみ)
砂→梨(なし)→鹿(シカ)→川(かわ)→惑星(わくせい)
【漢字イラスト】
砂時計
【熟語完成パズル】
月見(A=月 / B=見)
本記事に使用の図表の出典元:一般社団法人日本認知症予防協会