少子化・高齢化がますます進展し、厳しい財政事情の下で社会保障制度改革が進められる中、介護保険制度は医療保険制度を巻き込み、大きく変化・変容することが見込まれます。すでに、平成30年度からの第7期の介護保険制度改正に向けて、議論が始まっています。制度がどのような方向に向かうのか、最新のニュースに基づき、白鷗大学教育学部川瀬善美教授に今知っておきたい介護ニュースを解説していただきます。
※最新ニュースは、シルバー産業新聞掲載記事を基に、同社の許可を受けて、弊社において一部表現を変更しています。
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「介護保険制度改正による「福祉用具」「軽度者支援」の今後」
「老健の認知症短期集中リハビリテーションに注目」
「在宅医療・介護連携事業の気になる現状とは」
「通所介護、通所リハビリの統合論議について」
「介護保険 過疎の課題を医介連携で対処」
在宅医療・介護連携事業の取組み
「在宅医療・介護連携推進事業」は、2014年介護保険改正で、地域支援事業(包括的支援事業)の新メニューとなり、2015年度から実施されています。
この連携事業は目新しいものではなく、厚生労働省医政局が実施した「在宅医療連携拠点事業」と「在宅医療推進拠点事業」 の焼き直しです。
「在宅医療連携拠点事業」とは
国民の60%が自宅での療養を望み、2040年までに年間の死亡者が約40万人増加することを背景に、医療と介護が連携し「包括的、継続的な在宅医療の提供」 を目指した取組み。
2011年度に10ヵ所、2012年度は105ヵ所の「拠点」が設置されました。
在宅医療連携拠点事業の拠点が設置された結果、市区町村と地域医師会が連携し、「在宅医療の充実と在宅医療を含めた地域包括ケアシステムの構築に寄与」 し、研修会などで介護関係者の医療分野への知識が充実して、ケアマネジメントの質が向上するなど一定の効果があったとされました。一定の効果があったことから、介護保険で制度化したのが連携事業という流れになります。2018年にはすべての市区町村で実施することになっていて、連携事業で、①~⑧までの項目を実施する事になっています。
長崎県佐世保市の在宅医療・介護連携推進事業の実施項目
市区町村の実施状況調査では、4項目以上実施しているのは3割、1項目も実施していないのも3割というのが実情です。もっともモデル事業でも、地域特性によって課題は多様と報告されています。
長崎県佐世保市 取組み実施状況
連携事業で行うとされている、①~⑧までの項目の実施状況を見ると、比較的実施されているのは、下記の3項目となります。
また、8項目の中でも特に難易度が高いのは下記の2項目となっています。
白鷗大学 川瀬教授はこのニュースをこう見る!
上記内容の結果から、情報収集や研修はある程度できますが、具体策の実現には時間がかかるとも読めます。そもそも、2014年改正で地域支援事業が再編され、要支援1・2のホームヘルプ・サービスとデイサービスを、介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)に移すだけでも、市区町村に求められる負担は相当なもの。にもかかわらず、包括的支援事業では連携事業のほか「認知症施策推進事業」・「生活支援体制整備事業」も新設されています。また、2015年4月1日から小規模デイサービス(利用者19人以下)が地域密着型サービスに移行し、こちらの作業も大きな負担となっています。
国のこうした新規事業の地方自治体への押し付けは、事務作業の増加と制度の複雑さは混乱とミスの頻発を招きかねないですし、連携事業は「介護保険における医療」の位置づけをめぐる大きなテーマを含んでいます。そもそも、介護保険スタート時より医療保険と介護保険の関係性の整理、例えば診療報酬と介護報酬のすみ分け・格差に未だにグレーゾーンが存在するなどの問題点が存在しているため、まずそれらの整理が必要でしょう。
私見ながら、被保険者の拡大を目論む国の打つ次の一手「医療保険と介護保険の統合」により20歳以上の所得の有る者からの保険料徴収のために、いろいろ大義名分を模索しているように思えるのです。
白鷗大学教育学部 川瀬善美教授
【プロフィール】専門分野は「社会福祉」。川瀬教授は、福祉を愛と奉仕の世界だけでなく、産業・ビジネスの視点から捉えていくべきと、早くから提唱してこられました。北欧、イギリス、ドイツの介護事情や、米国・豪州・韓国の介護ビジネスにも精通し、大学で教鞭を執られるかたわら、全国各地の高齢者施設・病院経営の経営コンサルタントとしても活躍中。理論面だけでなく、介護施設現場の実情も熟知されています。
シルバー産業新聞掲載記事にみる「在宅医療・介護連携事業の取組み」
シルバー産業新2016年9月28日号早期退院・在宅復帰支援において、長期療養を担う在宅医療の体制構築が急務だ。国は次期医療計画で在宅医療に係る指標を充実させる方針。介護との連携においては、15年度より市区町村の地域支援事業となった「在宅医療・介護連携推進事業」の整備状況を盛り込む検討をしている。長崎県と佐世保市の同事業の取組みを紹介する。長崎県圏域研修9月開始
在宅医療・介護連携推進事業(以下、連携推進事業)は介護保険法上に位置づけられた市区町村の地域支援事業。
▽地域の医療・介護の資源把握
▽在宅医療・介護連携の課題抽出と対応策の検討
▽切れ目のない在宅医療・介護の提供体制の構築推進――など8項目を18年4月には実施しなければならない。長崎県は19市町中8市町が15年4月に事業を開始。今年8月時点で佐世保市の6項目、対馬市、諫早市の5項目などが比較的進んでいるが、1項目も実施していない市町もある。県立保健所8カ所へのヒアリング結果では「地方医師会との連携が難しい」「情報共有に時間がかかる」などといった声も同県健康福祉部長寿社会課地域ケア推進班の田島玲悟氏は「『実施』の基準が曖昧だという意見も。連携推進事業と同等の取組みを行っていても、8項目に落とし込めていないのでは」と説明する。そこで同県は今年度、連携推進事業への支援研修を開始。6月に保健所と各市町担当者を集めた全体研修を開き、グループワーク等を通じて保健所(圏域)ごとの課題抽出、さらに今後行う研修企画を提出した。「全体研修で共通課題にあがったのは連携の具体的な手法。特に、退院支援ルールを求める声が多かった」と同氏は話す。
医療資源の偏在化も重点課題の一つ。「大病院や急性期病院が集中し、事業の中心病院を模索する長崎市や佐世保市。一方、医療資源が不足している対馬、壱岐、五島、上五島の離島地域。地域差があるからこそ圏域単位の研修がより重要となる」と同氏は述べる。佐世保市 情報提供書で病診連携
佐世保市は、同市医師会が12年度の在宅医療連携拠点事業に採択され、在宅医療の課題抽出に取組んできた経緯がある。13、14年度は県の基金で事業を継続。昨年度、連携推進事業へ移行した。初年度は課題抽出として協議会を設置し、在宅医療の進め方を検討。「在宅医の負担軽減」を課題に「在宅患者の急変時受入」と「退院連携」の2つの専門部会を立上げ、連携強化へ「情報提供書」を作成した。情報提供書を通じて、かかりつけ医と病院が自院の患者情報をあらかじめ共有。かかりつけ医から病院へは認知症の有無や治療に対する意思など、また病院からはADL、退院後予想される医療処置、介護保険の認定・申請状況などを提供する。同市保健福祉部医療政策課の田中寛子氏は「カルテがある患者と同程度の情報を持っておくことで、病院側は緊急時等の受入れ対応がしやすくなる」と説明。かかりつけ医も退院患者の医療・介護サービスへの円滑な移行に役立つと話す。介護施設等が利用する情報提供書も作成。基本情報のみ記入し、救急搬送時に容態を書き加え受入先の病院へ提出する。「当市は在宅より施設利用が断然多いため」と田中氏は説明する。各種様式は同市連携推進事業サイト「かっちぇて」
(www.sasebo-zaitaku.net/)でダウンロード可。
また、同サイトでは在宅医療に関わる医療機関や介護事業所等の検索・閲覧も行える。医療機関は訪問診療や往診の実施有無での検索でき、結果は一覧と地図で確認も。掲載内容は事業者自らが更新する。
医療の選択肢に在宅を
このほか、地域住民への普及啓発については「地域高齢者の困りごとをよく知っている人達をまずターゲットにした」と同課吉崎康成課長。今年2月に民生委員約600人を対象とした講演会を開いた。今年度は県老人クラブ連合会を対象とする予定だ。「医療の手段に在宅があることを広めていきたい。ただ、在宅の提供体制が整っていないのも事実」と田中氏。そういった在宅医療の現状も含め、を周知していくことを医師と検討中だ。「ご自身の最期をどう迎えたいかを考えていただくきっかけを提供したい」(田中氏)。
出典:シルバー産業新聞 ウェブサイト→http://www.care-news.jp/
最新ニュースは「シルバー産業新聞」の協力により、著作権の許可を得て掲載しています。
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