認知症と間違えやすい病気【日本認知症予防協会監修】

認知症の症状には主に記憶障害、注意力・判断力の低下、見当識障害、言語障害などがありますが、同じような症状が他の原因や病気によって現れている場合に「認知症になってしまった」と勘違いしてしまっているケースも少なくありません。これらの症状が認知症によって現れているのか、その他の病気の影響によって現れているのか、きちんと見極めることが大切です。

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認知症に似た症状が起こる病気

認知症と似た症状が現れるケースには、次のようなものがあります。

1)せん妄(一過性のもの)

せん妄とは変動する特徴のある精神障害で、注意力や思考力の低下、時間や場所が分からなくなる見当識障害、覚醒レベル(緊張もしくは興奮状態のレベル)の変動などの症状が出ている状態を指します。認知症の症状の1つでもありますが、他の疾患や要因によって起こるケースも多いため、認知症によるものだと断定することはできません。認知症によるせん妄なのか、そうでないかを見分けるポイントは「一過性のものであるか、長期に渡るものであるか」という点にあります。症状が数日~数週間で収束するようであれば、認知症によるせん妄症状である可能性は低いでしょう。

2)老人性うつ

認知症によって前頭葉(理性や感情を司る部位)に異常が起こると、人格や性格が変化し、それまで活発だった方が内向的になったり、うつ状態になったりする症状が現れる場合があります。そしてこれに間違われやすいのが、高齢期によく見られる「老人性うつ」の症状です。老人性うつは認知症の症状とよく似ていますが、こちらは脳の障害によって起こるのではありません。

たとえば、働くことが日課だった方が定年退職を迎えて急に無気力になってしまった時、病気などによる身体的不安、将来への不安などから気分が落ち込んで憂鬱な状態になった時など、心的要因によって起こります。そうした心的要因が解消・緩和された結果、症状が改善したというのであれば、認知症によるうつ症状ではない可能性が高いでしょう。

うつ症状が軽視できないのは、気分が落ち込むだけではなく、それによって眩暈や頭痛、疲労感、妄想などの身体症状も現れる点です。ストレスの元となる環境の改善や薬物療法などで改善する可能性もありますので、重症化する前に適切な治療を受けることが大切です。

3)正常圧水頭症(せいじょうあつ すいとうしょう)

水頭症とはその名の通り、頭の中に水が溜まる病気です。脳は柔らかい組織であり、普段は頭蓋骨内に満たされた脳髄液(脳脊髄液)に浮いているような状態になっています。しかしこの髄液が何らかの要因によって正常な量より多くなってしまうと髄液が脳を圧迫し、脳機能に異常が起こってしまうのです。

正常圧水頭症によって起こる症状には、もの忘れ、歩行障害、尿失禁など認知症によく見られるようなものがあり、「認知症を発症したのでは」と間違われることも少なくありません。

これらの症状が正常圧水頭症によるものであるということを見極めるポイントとしては、症状の進行が認知症より比較的早い(数ヶ月以内)、歩行障害では歩行が小刻みになったり方向転換時にふらつく、などの特徴があります。正常圧水頭症による症状は原因となる疾患を治療することで症状の進行抑制・改善が可能です。頭部のCT検査やMRI検査を行うことで確認できます。

4)側頭葉てんかん

てんかん(癲癇)とは、痙攣などを伴う発作が繰り返し起こる状態を指します。脳にある神経細胞の異常によって運動神経・感覚神経・自律神経などの神経系が異常な活動を行うことによって突発的に起こるため、「てんかん発作」とも呼ばれます。側頭葉てんかんは原因となる異常が側頭葉の内側部分、海馬と呼ばれる部位にあり、海馬の異常が関係する認知症(アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症など)と近しいため、症状も似たものが現れやすいという傾向があります。また痙攣を伴わない状態で症状が現れる場合もあり、認知症と間違いやすい原因の1つとなっています。

認知症と側頭葉てんかんとを見分けるポイントとしては、記憶障害の特徴が挙げられるでしょう。認知症における記憶障害はゆっくりとした進行・変動なのに対し、側頭葉てんかんの場合は急な変動(短い時間内に起こる)であるという点や、また発作時以外の認知機能はおおむね正常であるという点があります。側頭葉てんかんと認知症が併発する場合もありますので、疑わしい場合は脳波検査や認知機能検査などで精査することが大切です。側頭葉てんかんは抗てんかん薬を用いて神経細胞の過剰な活動を抑え、発作を起こりにくくさせたり、外科手術で発作を消失・激減させることができます。

5)慢性硬膜下血腫(まんせい こうまくかけっしゅ)

慢性硬膜下血腫は、転倒時の頭部打撲などのケガをきっかけに脳を包んでいる膜である硬(こう)膜(まく)と、くも膜の間に徐々に血が溜まっていく病気です。溜まった血液の量が増えるにつれ徐々に脳を圧迫するため、脳機能に異常が起こり、認知機能の低下、片麻痺、歩行障害、失語、意欲の低下など、認知症に似た症状が生じます。

症状が現れるのは原因となるケガをしてからおよそ数週間~数ヶ月ほど経ってから。周囲の方が異変に気付
くことで発見されるケースが多く、自覚症状は乏しい傾向があります。高齢の方、普段から飲酒の習慣がある方、女性よりも男性に起こりやすいという特徴がありますので、こうした条件に該当し、気になる症状が現れているという場合は一度検査を受けてみた方が良いでしょう。治療のためにはCT検査を行い、溜まった血液を手術で取り除くことが必要です。

6)多発性硬化症(たはつせい こうかしょう)

多発性硬化症は、脳や脊髄などの中枢神経系に関わる疾患で、炎症によって髄鞘(ずいしょう)がダメージを受けることによって起こります。髄鞘は神経の周囲にある部位で、ちょうど電線がショートしないようにかけられているビニールカバーのように軸索(神経細胞から伸びる突起)を保護する働きをしているのですが、この髄鞘が壊れると電線が剥きだしの状態になるのと同じように神経がダメージを受けやすくなり、神経信号が正しく伝わらなくなってしまいます。

私達の身体は神経を通って伝えられる電気信号によって動いているため、神経信号が正しく伝わらなくなるとさまざまな動作がスムーズに行えなくなる症状が起こります。

多発性硬化症の主な症状には、注意力や記憶力の低下などの認知機能に関わるものをはじめ、視力障害、四肢の麻痺、感覚障害、歩行障害などがあります。症状が非常に多彩であるということもあり、初期段階ではこの病気を正しく診断できず認知症だと疑われることもありますが、多発性硬化症はこうした症状が「再発をくり返して何度も起こる」という特徴があります。また「若い人にも起こる」「運動障害や異常感覚など関連性のない症状が突然各所に現れる」などの特徴もありますので、見分ける際のポイントになるでしょう。

その他の要因

認知症と間違われるような症状が現れる要因は、疾患以外にもあります。中でも誰にでも起こる可能性があるのは「薬の飲みすぎや効きすぎ」によるものでしょう。

加齢とともに身体のさまざまな部位に不調が現れるようになると、それを緩和するための薬の量も増える傾向がありますが、同時にそれらの薬が効き過ぎたり副作用が強く出てしまうというケースも多くなるのです。

加齢によって肝臓や腎臓などの内蔵機能が低下することで薬の分解速度が遅くなったり、体内の水分量が減少することで体外へ排出する能力が低下し、薬が長く体内に留まってしまうなどの理由が考えられます。また複数の薬を服用する機会が増えるということも、薬物相互作用(薬の成分が相互に影響し合い、効き目が強くなる現象)を引き起こす要因となります。

認知機能に影響を与え、認知症のような症状が現れるとされる薬には、抗うつ薬、抗精神病薬、抗てんかん薬、睡眠薬、ステロイド、循環器系治療薬などがあります。また認知症の症状を和らげるための薬としてドネペジル塩酸塩(商品名:アリセプト)やガランタミン(商品名:レミニール)などがありますが、これらの薬を服用したことによって逆に症状が強く現れたり、薬の量を減らすことで症状改善につながったというケースも報告されています。「薬を服用し始めてから症状が強くなったように感じる」という場合は、一度薬の服用を止めてみたり服用内容を見直してみるということも大切です。

認知症と間違えることによるリスク

自己判断などで「認知症だ」と誤って認識しまった場合、どんなリスクが考えられるのでしょうか。最も大きなものとして「治療の可能性を逃してしまう」という点が挙げられます。認知症はある日突然発症する訳ではありません。加齢とともに徐々に認知機能が低下していく中で、もの忘れなどのちょっとした症状が現れはじめ、それらが進行すると自立した生活を送ることが難しくなり、最終的に認知症として診断されるのです。

この「認知機能が低下しつつある段階」はMCI(軽度認知障害)と呼ばれ、この期間に継続的な予防対策を行った場合、認知機能の維持、そして認知症の非発症につながる可能性が高くなる、とても重要な期間だとされています。

現代医療において「完治が難しい」とされる認知症は、完全に認知機能が低下してしまう前段階での機能維持・回復が大切です。もし、ここまでにご紹介したような疾患等が原因で認知症のような症状が現れていた場合、そしてそれを「きっと歳のせいだ」と勘違いし放置してしまった場合、症状は進行し、治療できるタイミングを逃してしまうかもしれません。

「急に症状が現れだした」「症状が現れる時とそうでない時とのムラがある」「事故やケガ、薬の服用などをきっかけに症状が出始めた」など、おかしいなと思う要因がある際には先延ばしせず、早めに医療機関で受診するようにしましょう。

認知症の検査・診断

認知機能に関する検査は、ご本人との面談や一般的な身体検査に加え、脳画像検査(CT・MRIなど)や神経心理学検査(質問への回答や作業によって記憶、知能、言語などの高次脳機能障害を評価する検査)など、いくつかの検査結果を総合して診断されます。

脳神経内科や心療内科、老年科など専門の医療機関へ赴くことが望ましいですが、最寄りにそうした医療機関がなくどこへ相談したらいいか分からないという場合は、普段から利用しているかかりつけ医に相談してみるのも良いでしょう。そこから専門の医療機関を紹介してもらうことも可能です。自分一人、もしくはご家族だけで抱え込むのではなく「まずは相談してみる」という姿勢をもつことが大切です。

まとめ

認知症や、もしくはその他の疾患による認知機能の変化にいち早く気付くことは、さまざまなメリットにつながります。症状の治療・回復、機能の維持だけでなく、もし認知症による症状だと判明した場合にも、軽度のうちからその後の生活のための準備をすることができるのです。本人やご家族、周囲の方と認知症に対する理解を深めたり、生活をサポートするための介護保険サービスにはどのようなものがあるかを調べたり。また本人はどんなサービスを利用したいと思っているかなど、さまざまな点において事前に話し合う余裕が生まれ、安心にもつながるでしょう。

本記事に使用の図表の出典元:一般社団法人日本認知症予防協会

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