“錆びない”身体を作ろう!認知症予防~食生活編~【日本認知症予防協会監修】

「認知症予防のための食生活」と聞くと、つい「これを食べれば認知症にならない」「これを食べると認知症になりやすい」といった、分かりやすい文言が浮かびがちですが、実際はちょっと違います。認知症リスクを下げるために、日々の食生活の中で気を付けるべきポイントはいくつかあります。ではどのような点に気を付ければいいのか、それぞれのポイントについて学んでいきましょう。

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認知症リスクを下げるポイント(1)食事バランスを考える

まず、認知症予防に効果的な食事を考える上で意識してほしいのが「食事のバランス」です。下図を見てください。こちらの図は向かって左側が「食事量が少ない」状態、右が「食べ過ぎ」の状態を表しています。ではこの2人を比べた時、どちらが「認知症になりやすい状態」だと言えるでしょうか?
認知症になりやすい食事のバランス
実はこれは、「両者とも認知症になりやすい」状態だと言えます。食べ過ぎの状態と、食べなさ過ぎの状態、それぞれが認知症の発症リスクを高めると言われている理由について、詳しく見ていきましょう。

「食べ過ぎ」が発症リスクを高める理由とは

認知症予防において「食べ過ぎ」が良くないとされる理由。その最たるものとしては「過剰なエネルギー摂取によって起こる、いわゆるドロドロ血の状態が、生活習慣病を引き起こす」ということが挙げられます。食べすぎ

こう聞くと、「なぜ生活習慣病から認知症に?」と思われるかもしれませんが、たとえば生活習慣病として挙げられる高血圧症・動脈硬化・糖尿病・脂質異常症などの疾患は、血液や血管に悪影響を及ぼすことが多い傾向があります。そのため、それらが脳内で起こった場合、脳血管の異常によって起こる「脳血管性認知症」を引き起こすリスクが高くなるのです。

一般的に認知症の発症要因として多いのは「老化」による発症ですが、それだけでなく、こうした生活習慣病の延長線で発症するというケースも少なくありません。認知症と生活習慣病はそれ単体で見ると別のものですが、発症要因には大きな因果関係性があるのです。

「食べ過なさぎ」が発症リスクを高める理由とは

では反対に、食事量が極端に少ない「食べなさ過ぎ」の場合についてはどうでしょうか。「食べ過ぎが良くない」ということは、現代ではもう常識のようなものになっているため、ダイエットや食事制限など、さまざまな方法が至る所で推奨されています。しかしそうした行動によって慢性的に栄養が不足し、脳へ充分な栄養が行き渡らなくなると、脳は少しずつ萎縮(小さく縮むこと)し始めるということが分かってきています。
食べなさすぎ

脳は維持するだけでも相当なエネルギーを消費します。そのため人間の体は、必要なだけのエネルギーが確保できない状況下にある場合、「不足しているなら消費する脳の方を小さくして調整しよう」と考え、環境に適応しようとするのです。その結果、脳の萎縮によって起こるアルツハイマー型認知症や前頭側頭型認知症を引き起こすリスクが高まります。

近年は健康や美容面で、過剰に「痩せている」ということが良いものであり、健康的だとする風潮がありますが、必要以上のダイエットをすることは、逆に認知症のリスクを高めることにもつながりかねません。多く摂り過ぎると血液や血管に悪影響を及ぼし、少な過ぎると脳が維持できなくなる。だからこそ認知症予防における食事は「バランス」が重要だと言えるのです。

適度なバランスが保たれている状態こそが、最も認知症にかかりにくい状態だと言えるでしょう。
適度なバランスが保たれている食事量

認知症リスクを下げるポイント(2)抗酸化作用の高い食品を摂る

では食事のバランスに気を付けつつ、具体的にはどんな食べ物を食べたら良いのでしょうか。そこで意識してほしい2つ目のポイントは、「抗酸化作用の高い食物を積極的に摂る」ということです。抗酸化作用とは、簡単に言うと「身体を酸化させない」、つまり「錆びさせない」効果のことを指します。鉄が酸化した状態

私たち人間は、常に酸素を吸って活動する生き物です。取り込まれた酸素は、身体のあらゆる場所に血液にのって運ばれ、エネルギーを作るための大切なサポート役として活躍しています。しかし酸素は体内でその一部が活性酸素(通常よりも酸化させる能力が高い酸素)に変化するという特性を持っています。釘や鉄製のものが長い間放置されると表面から錆びついていきますが、これは空気中の酸素と鉄が結びつき、鉄が酸化することによって起こります。私たち人間は常に酸素を吸って活動する生き物であるため、これと同じようなことが体内でも起こってしまうのです。

活性酸素から細胞を守る

活性酸素が体内で過剰に生成された場合、その酸化力の強さによって細胞を傷つけてしまう可能性があります。その結果、血管の弾力が失われて高血圧になったり、肌細胞が傷ついて肌荒れが起きたりといった細胞の劣化、つまりは「老化」を促進させるのです。認知症の発症にはさまざまな要因が考えられますが、その一つは「老化」です。細胞を傷つけ老化を促進させる活性酸素は、結果的に認知症の発症リスクを高めていると言えるでしょう。

しかし、人は酸素を吸って活動している以上、活性酸素をゼロにすることはできません。では、どうしたら酸化の脅威から細胞を守ることができるのでしょうか?
脅威から身を守る

そんな時に助けてくれるのが、抗酸化作用の高い食物です。抗酸化作用を持つ栄養素は、細胞の代わりに活性酸素と結びついて酸化から守ってくれるというはたらきがあります。普段から抗酸化作用の高い食品を積極的に取ることで、酸化しにくい、つまりは老化しにくい身体を作ることができるのです。

 

より抗酸化作用の高い食品を摂ろう

抗酸化作用のある栄養素は、さまざまな食品に含まれています。では、その中でもより抗酸化作用が高い食品にはどのようなものがあるでしょうか。クイズ形式で学んでみましょう。

抗酸化作用が高いのはどっち?クイズ

次のA・Bの食品のうち、より抗酸化作用が高いのはどちらだと思いますか?

Q1.
抗酸化作用が高いのはどっち?クイズ1
Q2.
抗酸化作用が高いのはどっち?クイズ2
Q3.
抗酸化作用が高いのはどっち?クイズ3

見分けるポイントは?

二択クイズの回答は決まりましたか?それでは答え合わせをしてみましょう。Q1~3の答えは以下のようになります。
抗酸化作用が高いのはどっち?クイズの回答

これらの食材が「より抗酸化作用が高い」とされるのには、ある共通点があります。それは「ポリフェノールの含有量が高い」という点です。

ポリフェノールという言葉、皆さんも一度は耳にしたことがあると思いますが、植物性の食物に含まれる色素・渋味・苦味成分などの総称です。たとえばお茶やコーヒー、ワインなどに含まれるカテキンやタンニン。ぶどうや赤じそ、小豆などに含まれる色素成分のアントシアニン。そばの実やナス、トマトなどに含まれるルチン(ビタミンP)などがあります。こうした栄養素が強い抗酸化作用を持っているため、身体を酸化から守ってくれるのです。
ポリフェノール
ちなみに、ポリフェノールは基本的にどんな食品にも少量は含まれているため、「この食品はポリフェノールが摂れる/摂れない」といったような線引きはありません。今回の二択クイズで選ばれなかった方の食材にもポリフェノールは含まれていますが、どちらがより多く・効率良く摂取できるかという点で比較されています。

では「効率よくポリフェノールを摂取できる食品」を判断するにはどのようなポイントに注意したら良いのか、クイズの答えと合わせて詳しく見ていきましょう。

ポイント(1)皮ごと食べられるかどうか

ポリフェノールの1つには「食物の色素成分」があります。そして野菜や果物の多くは、中身より外側の「皮の部分」に鮮やかな色がついていることがほとんどです。そのため、ポリフェノールには「皮に多く含まれる」という特徴があります。つまり皮をむいて食べるような食品より、皮ごと食べられる食品の方が効率よく摂取することができるのです。
皮ごと食べられる食品
二択クイズでも登場したブルーベリーをはじめ、トマトやキュウリなど、生でも皮ごと食べられるような野菜や、ナスや豆類(小豆・大豆)など皮ごと調理するようなものも、効率的にポリフェノールを摂取する上で良い食材だと言えるでしょう。

ポイント(2)皮ごと加工されている食品

「皮と一緒に食べられる」という点において、原材料となるものが皮ごと加工されている食品の場合もポリフェノール含有量が高いと言えます。例えばチョコレートの原材料である「カカオマス」はカカオの実を丸ごと粉にしたものであり、ビターチョコなどはミルクチョコよりもカカオの割合の高く、より多くのポリフェノールを摂取することができます。(ホワイトチョコなど、カカオマスが使われていないチョコレートもありますので、原材料を確認し、カカオが使用されているものを選ぶようにしましょう)
皮ごと加工されている食品
その他、ソバの実を丸ごと粉状にして作られる蕎麦や、もみ殻以外の小麦を丸ごと粉にした全粒粉のパンなども、ポリフェノール含有量が多くなっています。一般的にパンやうどんなどの原材料となる小麦粉は、白くてきれいな加工品に仕上げるため表皮が多く削り落とされてしまっています。小麦の栄養を余すことなく摂るためには、全粒粉を使ったものの方がオススメです。

ポイント(3)味や色の濃いものに多く含まれる

ポリフェノールは色素・渋味・苦味成分などの総称です。そのため含有量の高いものは、味や色が濃くなる傾向があります。青いトマトよりも、熟れた赤いトマトの方が含有量が高いのと同様に、同じ食材でも、より色鮮やかで味の濃いものの方がポリフェノールは多く含まれるのです。

そしてこれは、私たちの生活の中でも自然に活用されている指標でもあります。いわゆる「旬のもの」と呼ばれる食材は、最も収穫量が多い時期に、安価で栄養価も高い食材として昔から重宝されてきました。私たちが「色鮮やかで、美味しい」と感じ、何気なく選んでいる食材が、実は身体にも脳にも良い食材だったのです。
旬の食材

旬のものは一年を通して季節ごとに変わります。それぞれの季節の旬のものを積極的に取り入れることは、栄養を効率良く摂るだけでなく、同じメニューばかりで偏った食事にならないよう、食事バランスを整えるためにも役立ちます。

まとめ

脳を健康に保つための食生活のポイント、いかがだったでしょうか。それぞれの点において気を付けるべきポイントがありましたが、大きくまとめると次の3つになります。

  • 食べ過ぎ・食べなさ過ぎを避け、バランスの良い食事を心がける
  • 抗酸化作用の高い食品を積極的に摂る
  • 季節ごとの旬の食材を活用する

「飽食の時代」と言われる昨今、私たちの身近な場所にはさまざまな食材が溢れています。それぞれの食材の栄養素や効能について、ひとつひとつ詳細に覚えておこうとすることはなかなか難しいですが、こうしたポイントを理解しておけば、より効果的なものを選ぶための目安になると思います。毎日の食事の際に、ぜひ活用してみてくださいね。

本記事に使用の図表の出典元:一般社団法人日本認知症予防協会

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