【日本認知症予防協会監修】認知症の症状を知ろう

皆さんは、自分のお子さんや小さい子供から「認知症って何?」と聞かれたら、どのように答えますか?「年をとるとかかるもの」でしょうか。それとも「記憶がなくなったり、理解しづらい行動をとるようになること」でしょうか?たしかに認知症にはさまざまな症状や原因が考えられるため、どれも間違いではありません。ですが一言で説明するなら、認知症は「脳の病気」だと言えます。

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目に見えにくい「脳の病気」

手や足をケガすると、普段は何気なく行っていた所作や、歩いたり走ったりといった動作が困難になります。それと同じように、脳に障害が起こることによって、それまでは普通にできていたことが困難になる状態、それが認知症です。ただ手や足のケガとは異なり、その症状が起こる要因が「目に見えにくい」という特徴があります。手をケガした

異常が頭の中で起こるため、他人はもちろん、本人の目からも見えにくく、認識しづらいのです。思ってもみないような症状に対して常に不安や混乱が伴うのも、こうした性質によるものだと言えます。

しかし「脳の病気」という言葉からも分かるように、認知症に見られる症状は、脳の異常によって引き起こされています。それを裏付けるように、近年「認知症の症状」と「脳の異常が起きた個所」には、大きな関係性があることが分かってきました。

脳の構造とはたらき

認知症の症状と脳機能との関係を学ぶために、まずは脳のはたらきや構造について簡単に学んでみましょう。下図は脳を横から見た図です。ちょうど向かって左が顔の正面側、右が後頭部側となっています。
脳の構造とはたらき
脳はそれぞれの部位によって、その機能が異なります。各部位ごとに得意な処理分野があり、仕事を分担して行っているのです。これは例えるなら会社と同じで、経理を行う部署、営業を行う部署、事務を行う部署などが分担して仕事を行い、一人でまとめて管理するよりも円滑に処理を行えるような構造になっています。会社

脳の場合、この各担当部署は主に5つあり、前頭葉(ぜんとうよう)、側頭葉(そくとうよう)、頭頂葉(とうちょうよう)、後頭葉(こうとうよう)、海馬(かいば)と呼ばれます。
 

前頭葉

頭の正面側、脳の前部分に位置するのが前頭葉です。ここでは人の持つ理性や感性、そして感情などを司っています。嬉しい・楽しい・悲しみ・怒り、そうした感情を私たちが表す場所は「顔」です。そのため理性や感情を司る前頭葉は、顔から一番近い場所に位置しています。
前頭葉

側頭葉

脳の横側、両サイドに位置するのが側頭葉と呼ばれる部位です。この部位は主に「音」や「言葉」に関する情報の処理を行っています。人の顔の両側には「耳」がありますが、側頭葉はまさに耳から入った情報を処理するのに一番効率的なところに位置しています。前頭葉と同じく「関連する身体の器官と近い場所に、それを統括する機能が置かれている」と考えると分かりやすいでしょう。
側頭葉

頭頂葉

脳の上部に位置する部位、こちらは頭頂葉と呼ばれ、空間や位置、順番などの情報を司っています。脳の上の方に位置することから、ちょうど鳥のように上空の高い位置から全体を見渡し、空間を把握している部位と考えると分かりやすいでしょう。
頭頂葉

後頭葉

脳の後方に位置する部位、こちらは後頭葉と呼ばれ、目から入った映像を視覚情報として認識・処理する機能があります。後頭葉の仕組みは、ちょうど映写機を使って映画を見るときに似ています。光や画像を取り込むのは「目」。目から入った映像は映写機の画像と同じように、脳の奥側のスクリーンに映し出されます。そしてその情報を認識するのが、スクリーンに位置する後頭葉だと考えると分かりやすいでしょう。このように光や映像などの情報を処理するのが後頭葉のはたらきです。
後頭葉

海馬

脳の中心、奥の方に位置するのが海馬と呼ばれる部分です。ここではさまざまな情報を記憶として処理し、統括しています。海馬は前頭葉・側頭葉・頭頂葉・後頭葉の4つに囲まれながら、その中心に浮いているような位置関係にあります。全ての情報を統括して記憶する役割を担うために、どの情報を司る部位にもアクセスしやすい場所に位置していると考えると分かりやすいでしょう。
海馬

認知症の症状と脳機能の関係

では脳の主な部位と機能について学んだところで、それを元に、今度は認知症の症状と種類について学んでみましょう。認知症は「全く同じ人はいない」と言われるほど様々な症状が現れるというのが特徴がですが、そうした症状が起こる要因や、脳に異常が見られる場所などによって、大きく4つに分類されています。

(1)アルツハイマー型認知症
(2)前頭側頭型(ぜんとうそくとうがた)認知症
(3)レビー小体型(しょうたいがた)認知症
(4)脳血管性(のうけっかんせい)認知症

これらは一般的に「4大認知症」と呼ばれています。こうして名前だけを聞いただけでは分かりにくいかもしれませんが、それぞれの認知症の主な症状と、発症する際に異常が見られる脳の部位とを照らし合わせていくと、両者の間には大きな関係性があることが見えてきます。では1つずつ詳しく見ていきましょう。

(1)アルツハイマー型認知症

この名前は、皆さんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。アルツハイマー型認知症は、いわゆる「加齢によって発症し、記憶障害などの症状が起こる」といった、私達が「認知症」と聞いたときに想像する最も一般的な認知症です。全体の約60%を占めているため、認知度も高い傾向があります。

アルツハイマー型認知症に見られる主な症状や、異常が起こる脳の部位については、次のようなことが分かっています。

<脳の異常箇所>

海馬を中心に頭頂葉まで、広範囲で脳がダメージを受けることによって発症する。
アルツハイマー型認知症

<主な症状>

●記憶障害
記銘力(新しいことを記憶する機能)が低下し、記憶が定着する前に消去されてしまう症状
●見当識障害
時間・場所・人などが理解できなくなる症状
●判断力の低下 など

まずここで注目するべきポイントは、発症時に異常が見られる脳の部位が「海馬」から「頭頂葉」にかけての範囲であるという点です。先述の通り「海馬」は記憶を司り、「頭頂葉」は位置・順番・空間などの情報を処理している部位です。そしてアルツハイマー型認知症に見られる主な症状には、「記憶障害」や「場所や状況が分からなくなる見当識障害」などがあり、共通している部分が多いことが分かります。
アルツハイマー型認知症の症状には、その他にも徘徊(一人歩き)や帰宅願望(自宅にいても家に帰りたいと訴える症状)などが見られる場合がありますが、これらも記憶障害や見当識障害によって「今、自分が置かれている場所や状況が突然分からなくなる」ことから起こっていると考えることができます。

(2)前頭側頭型認知症

続いて前頭側頭型認知症の場合を見てみましょう。前頭側頭型認知症は、その名の通り「前頭葉から側頭葉にかけての部分」で脳が委縮することによって起こる認知症です。主な症状や異常が起こる脳の部位については、次のようなことが分かっています。

<脳の異常箇所>

前頭葉と側頭葉(前部)の脳神経細胞が萎縮することによって発症する。前頭側頭型認知症

<主な症状>

●前頭葉に異常が起きた場合、主に人格に変化が現れ、すぐに興奮状態になったり攻撃的になったりする
●側頭葉に異常が起きた場合、言葉の意味が理解できなくなるなどの言語障害が現れる
●理性がコントロールできず、悪気なく他人の物を盗ったり食べたりする など

前頭葉が司るのは「理性や感性」、側頭葉は「耳から入る言語などの情報」の処理を行っています。そして主な症状には、それまで温厚だった人の場合でもすぐに興奮状態や攻撃的になったりする「人格の変化」や、言葉の意味が理解できなくなる・うまく言葉を話せなくなるなどの「言語障害」などが見られます。ここでも異常が起こる脳の部位とその機能が、現れる症状と大きく関係していることが分かりますね。

(3)レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、脳内に「レビー小体」と呼ばれる特殊なタンパク質が出現することによって起こる認知症で、異常が起こる脳の部位や主な症状については次のようなことが分かっています。

<脳の異常箇所>

後頭葉から海馬にかけて、広範囲で脳がダメージを受けることによって発症する。
レビー小体型認知症

<主な症状>

●幻視(げんし)
実際にはないもの(恐ろしいオバケ、不審な人影、たくさんの虫など)が見える症状
●レム睡眠行動障害
睡眠中に悪夢を見て大声を出したり、怖がる・暴れるなどの行動をとる など

脳の異常が見られる後頭葉は「視覚」を司る部位であり、海馬は「記憶」を司る部位です。そして主な症状には、実際にはないものが見える「幻視」や、睡眠中に悪夢を見て暴れたりする「レム睡眠行動障害」などがあります。これらは後頭葉と海馬の機能異常によって、過去に見た映像や「怖い」と感じた記憶などが混ぜ合わさり、幻覚として現れたり、睡眠中に悪夢となって現れたりしていると推測できます。
実際に周囲の方が認識する症状としては、「何もいないのに、何かがいると訴える」「睡眠中に暴れる」など、脈絡のない症状のように見えます。しかし本人が感じている異常には一貫性がある場合が多くあるのです。脳機能と症状との関係性を知ることは、認知症の症状を正しく理解することにもつながります。

(4)脳血管性認知症

最後に脳血管性認知症の場合を見ていきましょう。脳血管性認知症とは、脳血管の異常によって起こる認知症の総称です。そのため特定の症状や、特定の異常個所などはない、という特徴があります。

<脳の異常箇所>

脳全体。脳血管障害によって脳が部分的なダメージを受けた場合に発症する。脳血管性認知症

<主な症状>

●片麻痺       ●歩行障害
●意欲低下     ●感情の障害
●頻尿や尿失禁
●嚥下障害(食べ物をうまく呑み込めないなど)
●構音障害(声がうまく出せない)など

事故などで頭部にケガを負った際、一時的に認知症のような症状が見られることがありますが、そうしたケースはこの脳血管性認知症である可能性が高いです。ダメージを受けた箇所が前頭葉の場合は人格に変化が起こったり、側頭葉であれば言語障害、海馬の場合は記憶障害が現れるなど、さまざまな症状につながる可能性があり、またそのダメージの大きさが、症状の大きさにも影響します。このように「原因となる脳血管障害の起こった場所や大きさ」が、現れる症状と大きく関係しているというのが脳血管性認知症の特徴です。

まとめ

以上、4大認知症の症状と脳機能との関係性についてお話してきましたが、いかがでしたでしょうか。それぞれの認知症に見られる症状と、異常箇所にあたる脳機能との間には、確かな関係性があることが感じ取れたのではないでしょうか。

「認知症の症状」と言うと、「おかしな行動をする」「よく分からない症状が現われる」といったイメージが強いですが、実はこのように全て脳機能との因果関係があり、理由があるものばかりです。こうした仕組みや関係性を理解しておくことで、いざ認知症の症状を目にした際にも、「なぜそうした行動をとるのか?」「記憶や視覚、聴覚、空間、感情、いずれかの認知機能に異常が起こっているのでは?」という視点が持てるようになるかもしれません。そうした視点は、認知症の症状を理解する糸口になるだけでなく、初期症状が現れた時の早期発見にもつながります。認知症予防に役立つ基礎知識の1つとして、ぜひ覚えておいてくださいね。

本記事に使用の図表の出典元:一般社団法人日本認知症予防協会

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