「あれ?今までと様子が違うな?」と思ったら、認知症のサインかもしれません。

久しぶりに帰省して、「あれ?お父さんの様子が今までと違うな…」「お母さんの料理、こんな味つけだったかな?」などという違和感はありませんか?お盆休みや年末年始などの長期休暇に一緒にいると今までと違う様子に気づくこともしばしば。それは、認知症のサインかもしれません。

認知症は、誰もがなる可能性のある病気です。早期に対応することで進行を遅らせることができるものもあります。今回は京都にある排泄用具の情報館「むつき庵」の相談事例を通して、認知症の初期症状の気づき方と対応法についてお伝えします。

一番初めに認知症の症状に気づくのは「本人」です。

認知症とは、いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったりして、脳の司令塔の働きに不都合が生じ、さまざまな障害が起こり、生活する上で支障が、およそ6カ月以上継続している状態を指します。

脳の細胞が壊れることによって直接起こる症状を「中核症状」と呼びます。記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能の低下などがこれにあたります。これに対し、本人の性格、環境、人間関係などの要因が絡み合って、精神症状や日常生活における行動上の問題が起きてくることがあります。これは、「行動・心理症状(BPSD)」と呼ばれます。

認知症が進行すると、入浴・更衣・排泄・食事など、基本的な生活動作がうまくいかなくなることが起きてきます。それをきっかけに、自分自身でも「なんとなくおかしい」と感じ始めます。

【むつき庵の認知症事例】娘さんからお母さんのことで相談「母は失禁しているんですが、絶対認めないんです。でも母がお風呂に入ったら紙だらけで…」

むつき庵に相談に来る人の中で一番多いのは、やはり在宅の介護者。しかし、介護が不要な高齢者でも、家族にとっては排泄の問題が生じる場合がある。Uさんは同居している母親のことで相談に来られた。お母さんはお元気で買い物も好きだし、旅行にもよく出かけるという。ただ最近、認知症かなと思うことが少し出てきている。

「うちの母親は82歳で元気なんですけど、困っていることがあるんです。母は失禁しているのにそれを絶対認めようとしないんです。この前、ズボンが濡れていたから『お母さん、ズボンが濡れているわ』って言うたら『えっ、そんなことあらへん。さっき水をこぼしたからやわ』といか言って、認めへんのです。でもね、そんなことがあってから、母はトイレットペーパーを股に挟んでいるようなんです。母の後にお風呂に入ろうとすると紙だらけでもう大変。流したら、詰まりそうなくらい。それでざくっとすくってから、お湯を入れ直したんです。幸いトイレットペーパーは水に溶けやすいから詰らずにすんだんですけどね。」と彼女は話し続ける。

実は、こういった相談は少なくない。ティッシュペーパーをはさんでいて、それをトイレに流して詰らしたとか、濡れたパンツが押し入れから出てきたとか、家族の失禁にまつわる相談はいろいろある。おそらくUさんの最初の言葉かけが良くなかったに違いない。誰だって自分が失禁しているなんて人から言われたくない。たとえ娘であろうと同じである。言われたときに「そうなんよ、それでどうしていいか困っている」と素直に言える人はそんなにいない。

排泄はプライドに大きくかかわるもの。だからこそ、その人の気持ちに配慮しながらうまく対処しないと、本人は自分なりの対策を勝手に講じることになる。Uさんのお母さんもきっと困ってしまって、それでトイレットペーパーをあてることを考えたのだろう。Uさんには、今後お母さんにお風呂のことで叱ったりしないようにお話したうえで、いろいろな軽失禁パンツをお見せした。しかし、これも決して本人に「これを履いてください」などと言ってはいけない。例えば、「寒くなってきたから温かい下着を見つけたよ」と言って渡すなどの工夫が必要だ。

出典:浜田きよ子著「排泄ケアが暮らしを変える」ミネルヴァ書房
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「認知症の人がいる」ではなく、「認知症という病気になった」という認識へ。

認知症の人は何もわからないのではありません。誰よりも一番心配なのも、苦しいのも、悲しいのも本人なのです。「認知症かな?」と思うような症状が出はじめたとき、「私は大丈夫」「病院には行かない」と家族を困らせることがあります。その理由は、「私が認知症だなんて!」というやり場のない怒りや悲しみや不安から、自分の心を守るための防衛反応だと言えます。

周囲の人が当事者のありのままの心を理解することは簡単ではありませんが、隠された悲しみの表現であることを認識しておきましょう。健康な人の心情がさまざまであるのと同じように、認知症の人の心情もさまざまです。「認知症の人」がいるのではなく、その人が認知症という病気になっただけです。家族がすべきことは、うまくいかないことを叱ったりせず、認知症の弊害を補いながら、さりげなく、自然に。それが一番の支援です。

まとめ

「あれ?今までと様子が違うな…」「お母さんの料理、こんな味つけだったかな?」などという違和感は、認知症のサインかもしれません。認知症は、誰もがなる可能性のある病気です。早期に対応することで進行を遅らせることができるものもあります。

認知症の症状が出てくると、基本的な生活動作がうまくいかなくなることが多くなります。それをきっかけに、自分自身でもなんとなくおかしいと感じ始めます。周囲の人が当事者のありのままの心を理解することは簡単ではありませんが、家族を困らせる言動は隠された悲しみの表現であることを認識しておきましょう。うまくいかないことを叱ったりせず、認知症の障害を補いながら、さりげなく、自然に。それが一番の支援です。

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記事協力:高齢生活研究所代表 浜田きよ子さん