排泄(特に便秘や下痢)は、様々な要素が関係しています。そのため、改善の取り組みは、介護福祉士や看護師、管理栄養士や歯科衛生士、医師、薬剤師、PTやOTなど様々な職種と連携して行うことで効果が高まります。しかし、排泄に限らず、多職種連携の難しさは誰もが感じているところではないでしょうか。多職種連携の取り組みを機能させるポイントとは何か、管理栄養士の德田泰子さんへのインタビューを通して、一緒に模索しました。
――排泄に限らず、多職種連携で取り組む上で感じていることはありますか?
フレイル予防の取り組みについて挙げると、嚥下状態があまり良くない方って、栄養を確保するためにミキサー食やゼリー食に変更するなど、「どうやって嚥下しやすいように食べてもらうか」は考えますが、食べたものがしっかりと吸収されて、そして理想的な排便につながるっていうことの一連の流れはまだどこかで途切れている感覚が少し私にはあります。
食べて、元気な排便をするっていうことを、一連の流れとして捉えていなくて、「嚥下」と「栄養」と「排泄」が、それぞれのパーツに分かれているような気がしています。
本来はそうではなく、フレイル予防は、「しっかり食べる→栄養がとれる→理想的な排便ができる→またしっかり食べられる…」という流れをサイクルに考えるといいのではないかと思うのです。
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――たしかに、おむつメーカーには「便がおむつからモレて困っている」等、部分的な排泄のお悩みだけが届きます。
便がモレるっていう事は、おそらく軟便や水様便に近い状態が出ていて、おむつのパッドで受けられないくらいの量になって、モレているのかもしれませんよね。
排便を促すために、緩下剤(酸化マグネシウム)と刺激性下剤があり、おそらくその方の便性にあっていないことが原因なのかもしれません。理想的な排便ができていない可能性があるのだったら、それは便が出たという記録だけになってしまうと不十分かなと思います。
「どんな便が出ましたか」ということまで、ちゃんと見ていかなければ、その食事をどう変えていこうっていうことにもつながっていかないと思います。軟便や水様便が排便とイコールになってしまったら、改善につながらないのではないかなと思います。
人間の体は、口からお尻までずっと繋がっているのに、問題を切り分けているような感じがします
――一つにつなげる考え方っていうのは、本来はそうあるべきですが、人の医療が専業化してしまっています。医療の職種も専門の分野をつくると、どうしても境目のところでどちらも手をつけないということが起きてしまいます。最近は、総合診療医やかかりつけ医の方向に進んでいる背景に、そのような実情があるのではないかなと思いますね。
専門家が入ってチーム医療という形で、それぞれに役割を持って、一生懸命やってはいるけれど、トータルコーディネーターがいないっていうのはあるかなと思いますね。
例えば、口腔ケアや褥瘡ケア、排泄ケアなど、あのチーム、ここのチームというように別々のチームになっていることが多いと思います。排泄ケアに関しては、排便ガイドラインが出てきていますが、つい排泄だけを見てしまう。排泄はコントロールできても、元々本来の栄養が足りないから、褥瘡をうまくコントロールできないっていう問題も含んでいるのではないかと思うのです。
その人を全体でみることがとっても重要で、俯瞰してコーディネートする人が必要だと思います。
――当然、深い知識を得ようと思うと専門家になっていかないといけませんが、専門家になればなるほど無意識に自分の得意分野の視点でものを見てしまいます。視点を変えるのって、なかなか難しいですよね。おむつメーカーは絶対おむつで解決しようとするし、理学療法士さんは何とかリハビリで解決しようとしますね。
そうですね。例えば、ずっと便秘で悩んでいる方が、前回ご紹介した水溶性食物繊維のグアーガム分解物などをとって腸内の動きが活発になって、排便が促されるようになると、その効果を維持するために、効果を得にくかった食事全体で思い悩むよりも手軽な食物繊維やサプリメントにシフトしていくような気がするのです。
結果として便が出て、便秘で悩んでいた方は、喜ばれるかもしれないけれど。
本来は、便秘の原因となっている食生活とか、いろんな活動的なこと、姿勢のこと、いつも飲んでいる薬のことなどをトータルで見て、改善していくのでしょうが、結果が早く出る対処療法だけになってしまう可能性もあるかもしれないなと少し危惧しています。
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私は、排便についてお聞きして、「排便はあります」とおっしゃったら、その先にもう1回「どのような便が出ていますか?」とお聞きするようにしています。「ちょっと緩めです」って言ったら、バナナ状のしっかりした便が出るように食事の方も工夫してくださいっていうことをお伝えするようにしています。
――便の性状を聞いて、薬剤師が介入できればいいですね。それで「ちょっとお薬を減らしましょうか」とか「種類を変えましょうか」とかの提案を薬剤師が医師にしていく。
今は、自立支援や在宅復帰に向けて、医療現場も排泄ケアに関してすごく一生懸命やろうとしています。一つの専門性の視点では解決に至らなくても、トータルに見ることでいろんな解決事例が出てくるのではないかなと思います。
――以前、商品開発部門で軟便用のパッドを開発した時に、実際に介護施設で、軟便で困っている方を募って、何人かピックアップして、軟便パッドを使ってもらうモニター調査をしたことがあったのですが、モニター調査をすると軟便が治っていくのです。
不思議ですね。
――なぜかというと、介護士の皆さんは対象者が軟便で困っていて、それを対応する用品を使おうとするのですが、モニター調査を通して、対象者のいろんなことに気がついていくのです。例えば、丁寧に対象者を観察していくと、足が冷たいことに気づく、それは布団がちゃんとかかっていないからじゃないか?とまた気づき、布団をかけて、体が冷えないようにすると軟便が治っていって、「軟便パッドがいりません」となるのです。
モニター試験をきっかけに意識が変わって、皆さんがいろんなことに気づきだして対応してくからでしょうか。
――普段の仕事の流れの中では、見てはいるけれど、そこまで意識の上にあげていないようなことがいっぱいあると思います。でも、「モニター試験でちゃんと気を付けないといけないな」となった時に、初めていろんなことが言えるようになった結果なのかなと思います。
高齢者の生活状況とか介護の日々の状況は、介護されている方が一番よくわかっていらっしゃると思うのですね。「こうした時にはこうするよ、こういう風に反応するよ」ということもあると思うので。普段、あまりに忙しくて、なかなか考える時間が取れないかもしれませんが、時にはゆっくり腰を落としてお互いの情報を共有できればいいですね。