とろみ剤とゲル化剤のちがいと特徴を知って、 「食べるよろこび」がつづく食事づくりを

高齢者のからだには、“噛む力が弱くなる”“唾液分泌が減る” など、加齢に伴った様々な変化がみられます。また、介護食を必要とされる場合は、機能低下によって思うように食事や飲み物を喉の奥に送り込めない方もおられます。

今回は、介護食にとって大切な「とろみ」についてお伝えしながら、とろみ剤とゲル化剤の違いや活用法をご紹介していきます。

介護食に必要な「とろみ」とは?

日本料理や中華料理でよく使われる、片栗粉などのでんぷんを加えた「あん」は、とろみをつけるための身近な料理法です。「あん」を絡めた料理はパサつかず、口の中でまとめやすいため、食べやすさをサポートしてくれるのに役立ちます。

しかし、片栗粉を使用した“とろみ”は、お箸などに付いただ液(だ液アミラーゼ)や、時間経過などによって緩くなることがあるため、とろみが必須な介護食に使用すると誤嚥の原因になりかねません。

そこで、個人の機能に合わせて「よいとろみ加減」に調整できる介護食専用のとろみ剤(増粘剤、とろみ調整食品ともいう)や、食べ物を口の中でまとめて塊を作り(=食塊:しょっかい)、安全に飲み込めるように固形化するゲル化剤が役立ちます。

「とろみ剤」と「ゲル化剤」― その役割とちがい

介護の現場でも活用されているとろみ剤とゲル化剤。とろみ剤は、お茶やジュースなどの水分にとろみをつけることで、ゆっくりと喉を通らせる機能があります。一方、ゲル化剤はゼリー状やムース状の塊を作ることで、食品や水分を飲み込みやすくします。

二つの違いは「固形化するかどうか」という点にあります。ゲル化剤が食品や水分を固形化するのに対し、とろみ剤は使用量にかかわらず固形化することはありません。いずれも介護食づくりに役立つ調整食品ですが、その用途や使用法は多岐にわたるため、一人ひとりに合わせた食品選びが大切です。

初めて使用する場合は、身近な介護関係者(ケアマネージャー、看護師、栄養士、歯科衛生士など)に尋ねたうえで上手に取り入れていきましょう。

「とろみ剤」と「ゲル化剤」の活用法

とろみ剤(増粘剤、とろみ調整食品)

サラサラとしたお茶やジュースなどの水分は、嚥下力が低下した方には飲み込みにくく、気管に入ってしまう恐れがあります。とろみ剤によって適度なとろみをつけることで、送り込みをスムーズにして、ゆっくりと安全に喉を通過させます。

とろみ剤の特徴
・温度に関係なく使用できる。
・混ぜるだけで溶けるので、作る人によって差が出にくい。

とろみ剤(増粘剤、とろみ調整食品)使用上の注意点

使用する上での注意点は、「必要なとろみ具合には個人差がある」ということです。ご家族をはじめ周囲の方々で支援する場合、その人に適したとろみ具合を共有しておく必要があります。嚥下調整食分類として示されている、「うすい」「中間」「濃い」の3段階の目安を参考に、「ちょうどよいとろみ」を知っておくことが大切です。

また、液体・成分・温度によってとろみのつき方が違ってきますので、市販のとろみ剤を使用する際はそれぞれの特徴を知り、使い方をよく読んでからご活用ください。

とろみ目安とイメージ

うすいとろみ:スプーンを傾けると“すうっと”流れる。(フレンチドレッシング状)
中間のとろみ:スプーンを傾けると“とろとろ”流れる。(トンカツソース状)
濃いとろみ :スプーンを傾けても、形状がある程度保たれ、流れにくい。(トマトケチャップ状)
*とろみ剤は、たくさん加えてもべたつきが増すだけで、ゼリーにはなりませんのでご注意ください。
(分類:日本摂食・嚥下リハビリテーション学会 2013より)
(とろみ状態を表す食品の例示:日本介護食品協議会 自主基準より)

ゲル化剤

わたしたちはものを食べる際、食べ物を適度な大きさに咀嚼し、だ液と混ぜて「食塊」をつくり、飲み込んでいます。ところが口の中で噛む、だ液で混ぜる、まとめるといった「咀嚼の力」が弱くなると、口の中で食塊が作れなくなることがあります。

ゲル化剤を加えることで、ペースト状にした食品や液体を、舌でつぶせる、あるいは噛まなくてもよい程度に固形化することができます。ゲル化剤の活用は、摂食嚥下機能を補助して「食べる可能性」を広げるほか、形ある食事をつくることで「食べる楽しみ」につながるといった大きなメリットになります。

ゲル化剤の特徴
・食品をまとめて、口の中で食塊が作れない方にも食べる可能性が広がる。
・摂食嚥下の補助ができる。
・形のある食事が作れる。
・商品によって使い分けが必要。慣れるまでは難しく感じる。

ゲル化剤の特徴を知るうえで大切なポイントは、商品によってゲル化剤の溶ける温度や、一度固まった状態から再び溶けだす温度に違いがある点です。慣れるまでは使い方が難しく、手間に感じられるかもしれませんが、それぞれの商品特徴をとらえて、活用の範囲を広げていきましょう。

ゲル化剤を選ぶ時のポイント

ポイントを知れば、料理を作る流れに沿ってゲル化剤を選ぶことができます。

【作るときの温度】
加熱の有無:ゲル化剤を溶かすのに、一定温度が必要な場合があります。

【ミキサーでの撹拌】
撹拌の要・不要:ゲル化剤が均一に混ざることで、固まりだします。十分な撹拌をしましょう。

【固まる温度】
冷やして固まるもの、温かいうちに固まるもの、常温でも固まるものがあります。

【溶け出す温度(融解)】
一度固まったものが溶け出す温度がゲル化剤によって違いがあります。離水によって誤嚥の原因になるので事前に確認しておきましょう。

まとめ

食事は、噛んで、口の中でまとめ、喉の奥へうまく送り込むことを繰り返しています。しかし、機能低下により思うように「食べること」が進まなくなることがあります。多少コストのかかってしまう調整食品ですが、誤嚥を防ぐために重要な食事形態を作る役割を果たしてくれます。

日々の食事づくりのなかでうまく活用して、いつまでも口から食べられるよろこびを大切にしたいものです。

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