少子化・高齢化がますます進展し、厳しい財政事情の下で社会保障制度改革が進められる中、介護保険制度は医療保険制度を巻き込み、大きく変化・変容することが見込まれます。また、これからの日本の介護を考える上で、介護人材の確保は重要な課題となっています。需要はとても高く、有効求人倍率も他業種と比較して高いにもかかわらず、常に人材不足である状態は変わっていません。そのような状況下、ロボット介護機器は介護の現場で働く方々の就業環境改善にどのように貢献するのでしょうか。最新のニュースに基づき、白鷗大学教育学部川瀬善美教授に今知っておきたい介護ニュースを解説していただきます。
※最新ニュースは、シルバー産業新聞掲載記事を基に、同社の許可を受けて、弊社において一部表現を変更しています。
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「ロボット介護機器・導入促進事業」全国施設に19機種1000台を貸与・実証
日本医療研究開発機構(東京都千代田区、末松誠理事長)は、 経済産業省の「ロボット介護機器開発・導入促進事業」の一環として、介護現場で実証事業を行うコミュニケーションロボットの対象機器を5月18日に公表しました。30日には実証事業への応募を検討する介護事業所関係者を集め、第1回目の実証施設公募説明会を開催。対象となる機器のデモンストレーションを行いました。実演されたのは、レクリエーションを進行する「Pepper」 や高齢者と会話を行う「Sota」など19機種。人型ロボットによるコミュニケーションの可能性に、集まった関係者らは大きな期待を寄せていました。同事業では、今後、全国の介護施設に19機種1000台を貸し出し、データ収集などの実証が行われる予定です。
※より詳しい内容は、文末に掲載しています。ぜひご覧ください。
白鷗大学 川瀬教授はこのニュースをこう見る!
国の開発事業支援と、開発の成果ともいえる新製品の投入により、2015年度の国内の介護ロボット市場規模(メーカー出荷金額ベース)は、前年度比549.0%の10億7,600万円と大きく伸長しています。その内容は、2015年度までに製品化された装着型移乗介助ロボット、屋外型移動支援ロボット、介護施設型見守り支援ロボットが先行し、市場を牽引した結果です。更に排泄支援ロボットも既存製品が普及しつつあり、これから新製品が加わることでなる拡大も見込まれます。2020年度の国内の介護ロボット市場規模(メーカー出荷金額ベース)は149億5,000万円に達するとの予測もあります。
現段階では、ロボット技術は介護現場では単能的役割を果すことに留まっています。 従って、人工知能が組み込まれた自律的な「ロボット」としてではなく、ロボット技術による制御機能のある福祉用具として位置づけるのが適当でしょう。確かに、介護ロボット導入は介護現場での作業の組織化の中に効率よく組み込むことによって、介護労力の総量を減らし、介護職員の負担を減少するという可能性を秘めています。しかし、介護ロボットへの過大な期待は介護の質の低下をもたらす危険性も同時に秘めている、ということを忘れてはいけないと考えます。
現状の課題として
(1)情報面での課題
- 介護ロボットのことがよくわからない
- 活用実績・事例がわからない
(2)機能面での課題
- 現場ニーズと乖離している
- 使用準備などに手間がかかる
- 安全性に不安がある
(3)経済面での課題
- 価格が高い
- 人が介在しないと使えず、費用対効果がみえない
(4)業務面での課題
- 現場の業務フローが画一的でなく、ロボットでの作業になじまない
- 業務効率の追求が必ずしも歓迎されない
(5)意識面での課題
- 経営改善のために介護ロボットを使う意識が希薄
- きめ細かな作業の介護は所詮ロボットには無理という意識が強い
と指摘する関係者(村田裕之のブログサイトより参照)もいます。
結論として、介護事業の経営者が厳しさを増す介護保険事業の現状の中で、新たに費用投下することへの懐疑、介護ロボットの価格の高さを如何に解決するか、介護現場・職員からの「介護は人の手で・人と人との触れ合いの中で」と言う意識を如何に変えることが出来るかが、さらに飛躍するための鍵となるでしょう。
白鷗大学教育学部 川瀬善美教授
【プロフィール】川瀬先生は、福祉を愛と奉仕の世界だけでなく、産業・ビジネスの視点から捉えていくべきと、早くから提唱してこられました。北欧、イギリス、ドイツの介護事情や、米国・豪州・韓国の介護ビジネスにも精通し、大学で教鞭を執られるかたわら、全国各地の高齢者施設・病院経営の経営コンサルタントとしても活躍中。理論面だけでなく、介護施設現場の実情も熟知されています。
シルバー産業新聞掲載記事にみる「ロボット介護機器開発・導入促進事業」
「ロボット介護機器開発・導入促進事業」コミュニケーションロボット対象機器発表 7月下旬より導入開始予定 シルバー産業新聞 2016年6月10日号
日本医療研究開発機構(東京都千代田区、末松誠理事長、略称:AMED)は経済産業省「ロボット介護機器開発・導入促進事業」の一環として、介護現場で実証試験を行うコミュニケーションロボットの対象機器を発表し、第1回の実証施設公募説明会を開催。集まった180人の介護施設関係者に、研究開発事業の概要を説明した。公募には説明会の参加が条件となる。
事業の流れは▽リストの中から実証希望の介護施設等が導入したいロボットを選択し応募(6月中旬締切)▽AMEDが実証施設とすべきか審査して採択(7月上旬)▽実証施設と委託研究開発契約を結び、順次機器を購入(レンタル)して事業開始(7月下旬)――の順。対象となる機器は人型や動物型などのロボット全19機器。機器購入費はAMEDが全額補助し、一部機器についてはレンタル費用の補助を行う。得られたデータはフィードバックされ、実施期間中に改善点が見つかれば、メーカーに改善通知が送られる。
多才なコミュニケーションロボットを紹介
当日の会場では、対象機器のコミュニケーションロボット全19品が展示され、関係者に向けたデモンストレーションも行われた。
ソフトバンクのペッパーに組み込むレクリエーションアプリ「ケア樹あそぶ」(グッドツリー)や、アニマルセラピー効果のあるネコ型の「なでなでねこちゃん」(トレンドマスター)、アザラシ型の「パロ」(知能システム)、登録されたフレームで会話する未来型ロボット「チャピット」(レイトロン)など、各種ロボットの多才な機能に注目が集まった。
癒しロボット「うなずきかぼちゃん」を販売するピップ&ウィズ(大阪市、横井昭裕社長)の担当者は、施設での有効活用について「認知機能の向上などを目指して、どれだけ会話を引き出すかが課題。コミュニケーションロボットの認知度を高めていきたい」と話している。
詳細は同協会ホームページ(http://www.amed.go.jp/koubo/020120160318.html)まで。
出典:シルバー産業新聞 ウェブサイト→http://www.care-news.jp/
最新ニュースは「シルバー産業新聞」の協力により、著作権の許可を得て掲載しています。
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