少子化・高齢化がますます進展し、厳しい財政事情の下で社会保障制度改革が進められる中、介護保険制度は医療保険制度を巻き込み、大きく変化・変容することが見込まれます。すでに、平成30年度からの第7期の介護保険制度改正に向けて、議論が始まっています。制度がどのような方向に向かうのか、最新のニュースに基づき、白鷗大学教育学部川瀬善美教授に今知っておきたい介護ニュースを解説していただきます。
※最新ニュースは、シルバー産業新聞掲載記事を基に、同社の許可を受けて、弊社において一部表現を変更しています。
【関連記事】
介護の専門家に聞く!今知っておきたい介護ニュース
「診療報酬改定」
「ロボットが変える介護の未来」
「福祉用具制限で介護費用が1,370億円増の見込み」
「人材確保対策で『介護助手』を検討」
「介護保険制度改正による「福祉用具」「軽度者支援」の今後」
「老健の認知症短期集中リハビリテーションに注目」
「在宅医療・介護連携事業の気になる現状とは」
「通所介護、通所リハビリの統合論議について」
「介護保険 過疎の課題を医介連携で対処」
日本福祉用具供給協会試算 福祉用具制限で介護費用1370億円増
「福祉用具を使わなければ、家族の介護負担増大とともに訪問介護を利用せざるを得なくなり、介護費用を倍増させる」という調査に基づく試算結果を、日本福祉用具供給協会(小野木孝二理事長)が発表しました。
調査した要介護2までの5種類の福祉用具を利用制限すると、最低限に見積もって、年間延べ11万余人の介護職員が必要になり、介護費用は1,370億円の増加が見込まれるとしました。説明に立った小野木理事長は、「福祉用具の利用が訪問介護に代替されると、介護人材の不足にさらに拍車がかかることが想定される」として、介護人材の追加需要についても試算を発表。「この数字も、あくまでも調査した5品目(付属品含む)の代替に過ぎず、レンタル品全体ではヘルパー需要はもっと増加する。家族介護負担の増大も招くが、一億総活躍社会の実現にも背く。福祉用具の未利用によって生活行為をあきらめ、活動性が低下して重度化するおそれもあり、重度化による費用負担の増大も問題になる」と、小野木氏は福祉用具の利用制限策の導入が広範な社会問題を引き起こすと強く訴えました。
※より詳しい内容は、文末に掲載しています。ぜひご覧ください。
白鷗大学 川瀬教授はこのニュースをこう見る!
この記事は、介護保険関係費用の財政負担を社会保障の改革が「財政健全化のカギ」と強調し、向こう5年間の費用の伸びを、高齢化に伴う分に相当する年0.5兆円程度にとどめるという国の命題が前提にあります。第7期の介護報酬論議が水面下で始まり、「要支援、要介護1までの介護用具貸与の自己負担化・要介護区分ごとに標準的な貸与対象品目を決める」という財務省筋案を日本福祉用具供給協会が何とか阻止したいという思いを込めた牽制第一弾と言えるでしょう。第6期介護報酬改定論議の中では、「福祉用具の実勢価格に対して高すぎる福祉用具貸与報酬」と言う論議まででしたが、第7期では予防給付のショートスティを新総合事業へ移し、その他のサービスについては自己負担化へと言う流れも予想されています。
さらに、第7期には対象品目の希望小売価格等から減価償却期間等を考慮して算定した標準的な利用料を基準貸与価格として設定し、真に有効・必要な附帯サービスについては、厳格な要件の下に、貸与価格とは分けて標準的な保守管理サービス等を別途評価する枠組みを検討し、事業者間の適正な競争を促進するという案も浮上しそうです。また、行政や利用者にとって取引価格や製品性能等が比較可能となるよう情報開示(見える化)を進めることにもなりそうです。
貸与機種のスペックのあり方の見直し、利用者の状況・ADLの維持向上の必要度等に見合った貸与品の選定を推進するため、特に「要介護区分ごとに標準的な貸与対象品目を決定し、その範囲内で貸与品を選定する仕組みを導入するべき」と財務省筋では主張しています。
要介護度別に利用できる福祉用具が決められる、要支援者の自己負担化、さらには利用者負担の2割化と言う事態が予測される中で、利用者として行う事は、「現在利用している福祉用具が適切か点検する事」でしょう。福祉用具レンタル事業者任せではなく、今一度ケアマネジャーと共に現在利用している福祉用具を見直す、あるいは他事業者をセカンドオピニオンとして意見を聞いてみる、その上で、より効果的なものに変更することが必要になります。また、車いすなど実勢価格が下がっている福祉用具は、今後利用する期間によっては自己負担でも購入した方が良い場合もあります。例を挙げれば、汎用介護型の車いすでは、1~2万円程度で購入可能なものも発売されていることから、今後2年6か月程度使用するとしたならば、車いすの利用者負担分(700円×36か月)より安価になります。また、福祉用具は日進月歩で改良されているので、2年以上同じ福祉用具を使い続けている場合は、一度福祉用具のカタログ等を集め検討してみる事も必要でしょう。
白鷗大学教育学部 川瀬善美教授
【プロフィール】川瀬先生は、福祉を愛と奉仕の世界だけでなく、産業・ビジネスの視点から捉えていくべきと、早くから提唱してこられました。北欧、イギリス、ドイツの介護事情や、米国・豪州・韓国の介護ビジネスにも精通し、大学で教鞭を執られるかたわら、全国各地の高齢者施設・病院経営の経営コンサルタントとしても活躍中。理論面だけでなく、介護施設現場の実情も熟知されています。
シルバー産業新聞掲載記事にみる「福祉用具制限で介護費用1370億円増」
日福協試算 福祉用具制限で介護費用1370億円増 シルバー産業新聞 2016年6月10日号
福祉用具を使わなければ、家族の介護負担増大とともに訪問介護を利用せざるを得なくなり、介護費用を倍増させるという調査に基づく試算結果を、日本福祉用具供給協会(小野木孝二理事長)が発表した。調査した要介護2までの5種類の福祉用具を利用制限すると、最低限に見積もって、年間延べ11万余人の介護職員が必要になり、介護費用は1,370億円の増加が見込まれるとした。
日本福祉用具供給協会(小野木孝二理事長)は5月27日東京で、「軽度者への福祉用具貸与・住宅改修の原則自己負担化」に反対する記者発表会を開催。要支援1から要介護2までの福祉用具利用者(特殊寝台、車いす、歩行器、手すり、多点づえ、の5種目)が18年介護保険改正論議で提起される福祉用具サービスの自己負担化によって、福祉用具を使わなくなると、家族の介護負担が増大するとともに、代替手段の訪問介護の利用が必要になり、結果として年間1,370億円の介護費用の負担増になるとの試算を発表した。
特殊寝台や車いす、歩行器など5種の軽度者の福祉用具貸与費用額は年1,130億円であるのに対して、代替手段としての訪問介護費用額は最低でも年2,500億円に上り、福祉用具の不利用により、差額の年1,370億円の介護費用が増大することになる。
代替コストの比較は、個々の用具ごとに試算された。福祉用具利用時コストと訪問介護へ代替した場合のコストとを対比すると、年間で、特殊寝台は利用471億円に対して代替649億円で178億円の費用増に、車いすは利用212億円に対して代替375億円で163億円増に、歩行器は利用139億円に対して代替628億円で489億円増に、手すりは利用294億円に対して代替734億円で440億円増に、多点つえは利用14億円に対して代替114億円で100億円増になるとした(表)。
調査にあたった渡邉愼一横浜市総合リハビリテーションセンター部長は、「試算にあたり、代替手段としての訪問介護の利用は、個々のケースごとに、ケアプランまでさかのぼり、最低限の利用に止めた」と説明し、福祉用具の活用によって、介護費用を抑制しているという事実を明らかにした。
説明に立った小野木理事長は、「福祉用具の利用が訪問介護に代替されると、介護人材の不足にさらに拍車がかかることが想定される」として、介護人材の追加需要についても試算を発表した。
「5種類の福祉用具を使わずに訪問介護の介護職員を利用することになると、最低限でも年間延べ11万6000人のヘルパーが必要になる。この数字も、あくまでも調査した5品目(付属品含む)の代替に過ぎず、レンタル品全体ではヘルパー需要はもっと増加する。家族介護負担の増大も招くが、一億総活躍社会の実現にも背く。福祉用具の未利用によって生活行為をあきらめ活動性が低下して重度化するおそれもあり、重度化による費用負担の増大も問題になる」と、小野木氏は福祉用具の利用制限策の導入が広範な社会問題を引き起こすと強く訴えた。
出典:シルバー産業新聞 ウェブサイト→http://www.care-news.jp/
最新ニュースは「シルバー産業新聞」の協力により、著作権の許可を得て掲載しています。
【関連記事】
介護の専門家に聞く!今知っておきたい介護ニュース
「診療報酬改定」
「ロボットが変える介護の未来」
「福祉用具制限で介護費用が1,370億円増の見込み」
「人材確保対策で『介護助手』を検討」
「介護保険制度改正による「福祉用具」「軽度者支援」の今後」
「老健の認知症短期集中リハビリテーションに注目」
「在宅医療・介護連携事業の気になる現状とは」
「通所介護、通所リハビリの統合論議について」
「介護保険 過疎の課題を医介連携で対処」