介護のくらしに“プラス”をお届けする介護生活メディア「介護にプラス Live+Do」(ライブ プラス ドゥ)では、2021年4月から1年間、ありがとう5周年特別企画を実施しました。その中で、排泄の困りごと解決のヒントを動画コンテンツにして2021年8月と2022年2月の2回にわたり配信しました。
今回は、その動画コンテンツをご覧になった方の感想を受けて、排泄用具の情報館むつき庵所長浜田 きよ子さんと同副所長の熊井 利將さんに再びお話をお聞きします。
再生時間:16:49
講師紹介
【排泄用具の情報館むつき庵 所長 浜田 きよ子さん】
<プロフィール>
排泄用具の情報館むつき庵所長。 数多くの排泄ケアについての相談を受け、特別養護老人ホームで、事例検討を重ねて20年余り。排泄ケアのスペシャリストを養成するおむつフィッター研修を主宰。おむつトラブル110番(メディカ出版)をはじめ、多くの著書がある。
【排泄用具の情報館むつき庵 副所長 熊井 利將さん】
<プロフィール>
おむつフィッター1級、相談支援専門員、介護支援専門員、鍼灸師。「おむつ検定(R)テキスト」の執筆メンバー。介護にプラスな専門店Live+Do Styleから申し込めるインターネット受検の『e-おむつ検定(TM)』で講師を担当。おむつフィッター研修や各地での講演会、勉強会などを行っている。
介護される人のいろいろなことを確認することは大事だとわかっているんだけれど、現実的に時間がとれないし難しい
--熊井さんは、介護施設でも排泄についていろいろと相談を受けていらっしゃいますが、相談に回答した時に介護施設で働く方から「わかってはいるけれど、難しい」という反応はありますか?
【熊井利將さん】
私はよく介護施設で勉強会をさせていただくことがありますが、現場の困りごととしては、おむつから尿がモレて困る、そういう相談が多いです。
その解決方法に「なぜモレるのか考えましょう」と言っても、どうやったらモレなくなるかやり方を教えて欲しいと希望される方が多いんですね。
目の前の困りごとは、尿がモレて衣類やシールが濡れていることなので、その解決方法として、介護施設で働く職員さんは「モレないおむつの当て方」に重きを置かれているような気がします。
モレるというのは、色々な原因がある。それを単にモレないおむつの当て方だけで集約してしまうと、結局、解決にならないことが少なくない
--「こうすれば、モレない!」というわかりやすい型を求めていらっしゃるのもしれませんね。浜田さんはいかがですか?
【浜田きよ子さん】
もちろん、基本的な当て方という基礎知識というのは絶対にいりますから、モレない当て方の一定の基礎はいると思います。だからと言って、それでモレなくなるかというとそうではないということが今回思うことなんですが…。では、熊井さん、おむつから尿がモレるという原因ってどんなことが考えられますか?一つだけお願いします。
【熊井利將さん】
例えば、本人さんが不快でおむつを外している。
【浜田きよ子さん】
その「不快」というのは何が不快?
【熊井利將さん】
かゆみがあったりして、気持ち悪くておむつの中に手を入れてしまい、そのことでおむつがずれたり外れたりすることも考えられるんじゃないでしょうか。
【浜田きよ子さん】
そうですよね。まず不快と言っても、かゆいから不快だとしたら、かゆい部分が治療が必要なのか、あるいはおむつの中の蒸れとかでかゆいのか。その原因がわからないと、いくら正しいおむつの当て方を学んでもうまくいかないですよね。
それから、不快という中には、もう濡れてしまったおむつが不快といったことも考えられますよね。そうなったら、いつ頃濡れているのか、排尿する時間がわかれば、おしり回りをよりドライな環境にできますよね。
他におむつから尿がモレるという原因ってどんなことが考えられますか?
【熊井利將さん】
サイズが合っていないということもよく見受けられますね。
【浜田きよ子さん】
そうですね。それは基本知識としてサイズを合わす。それから、さっきの不快に関係しますが、中に入れる尿とりパッドを何枚も重ねているから、気持ちが悪いとか、外側のおむつに大きいものを選んでしまっていて、尿とりパッドを重ねることによって隙間ができてモレていることがあります。
まだまだあるのですが、例えば日中は傾眠状態でうつらうつらしていたから、夜になってなかなか眠れなくて、なんとなく股間に違和感があって触ってしまったりして、隙間ができてモレるということもあります。
だから、モレるというのは、色々な原因がある。それを単にモレないおむつの当て方だけで集約してしまうと、結局、解決にならないことが少なくありません。
だから私たちはその方の状況をしっかり見ていこうと。そうしないと、手っ取り早くこんな当て方したらおむつってもれないんですよって、言ってしまうと、いま熊井さんがおっしゃってくださったように、モレにはいろんな要素がある。
しかも、もっと言うと、その排泄ケアの中で「モレないおむつの当て方」が重要なのかというと、私自身はそうではない気がします。そのことについて熊井さん何か思われることないですか?
【熊井利將さん】
私自身も「おむつをどう当てたらいいですか?」という相談をよく受けるんですけれど、その答えとしてよくよくご本人さんの様子や介護の環境を詳しく聞いていくと、ポータブルトイレが使えるんじゃないか、トイレに行けるんじゃないか等、他の選択肢が出てくることが多いんですが、目の前の「おむつからモレて困る」というところだけを見られてご相談されることが多いと感じます。
【浜田きよ子さん】
そうですよね。しびんを使えたり、尿器が使えたり、ポータブルトイレだったり、おむつしか排尿の場所がないと思っている方が、少し丁寧にその方を見ていくことでおしり回りが変わってきて快適になるということはよくあります。
「パンツ型紙おむつから尿がモレて困るから、モレない方法を教えて欲しい」という相談事例
【浜田きよ子さん】
私の中の非常に印象的な相談事例です。むつき庵に相談に来られた方なんですけど、たしか名古屋から来られたと思うのですが、夫が妻を介護していて、お二人とも80代の方でした。
「パンツ型紙おむつから尿がモレて困るから、モレない方法を教えて欲しい」というご相談でした。
その人が座っておられる車いすが合っていなくて、仙骨座り、前に滑ったズッコケ姿勢で座っておられたんですね。それを夫はグイッと直していました。前に滑って空間ができて、またグイッと直す、そのことによって、パンツ型紙おむつの中に空間ができていて、モレているんじゃないかと思いました。
だから、原因の一つは車いすが合っていない、またもう一つは、パンツ型紙おむつのサイズが合っていない、そんなことを思いました。
むつき庵に多少調整できる車いすがありますから、一旦、座り変えてもらいました。その妻は片麻痺の方で、右半身が不自由だったんですけど、調整した車いすで姿勢が変わっただけではなくて、座面を低くしたら、左手と左足で床をけることができることがわかりました。
すると、トイレの前までは自分で行けるそんなことがわかってきて、実は妻がトイレに向かっていきだしたら排尿のサインということがわかるんじゃないかという仮説を立てました。
最初、夫はまさに「モレない方法を教えて欲しいのに車いすまで引っ張り出してきて!」みたいな感じではありました。でも、妻の姿勢だけではなく表情が変わって、妻からしたらできることが増えたっていう感じで、ものすごく喜ばれるのを夫は見ていて、「むつき庵に来て本当に良かった」と思ってもらえたんですね。
困りごとの一つ一つの現象は大変だけれど、幹になる部分は本人をしっかり見ないといけない
【浜田きよ子さん】
だから排泄ケアって、目の前の問題ごとを解決するのが、いろんな知識だけで済むかというと結局私がイメージで思うのは、本来は大きな木があったら、聞かれることって枝葉のこと。
つまり、おむつからのモレとか認知症を抱えた方が徘徊してとか、その現象は大変だけれど、幹になる部分は本人をしっかり見ないといけないのではないかと思います。
正しいおむつの当て方だけをしっかり覚えたとしても、結局かゆいからうまくいかない等、根幹の部分がしっかりしていないと、逆に大変になるような気がします。
それに加えて、ケアをしている人も作業的になってしまうとやりがいもどうなのかな?と思ってしまいます。いま熊井さんが勉強会で介護施設に関わっておられるので、そのあたりのお話もお聞きしたいです。
--介護施設でお勤めの介護士さんから寄せられたご感想です。「私は、一人ひとりをしっかり見て介護がしたいのですが、同僚には効率的に時間内に作業を終わらせたいと考えている人もいてケアの方向性が合わずに苦労しています」というお悩みも寄せられました。熊井さんが勉強会で関わっていらっしゃる施設ではいかがでしょうか?
【熊井利將さん】
介護施設で勉強会をする中で、「なぜ、おむつから尿がもれるのか」という理由を考えてもらった方が、色々なケアの方法を考えることにつながるのですが、目の前の困りごとをすぐ解決してほしいということは多いのは多いんです。
私が関わった介護施設の話をさせていただくと、はじめはおむつから便がもれるから何とかしたいという相談がありまして、「どうしたらおむつでうまく便を吸収できますか?」という話になったんですね。
いくら丁寧に当てたとしても、ご本人さんからしたら、おむつの中に便が出てるのが気持ち悪いかもしれないというところまで職員さんは考えが至らなくて、便がおむつからモレることを何とかしたいというところにばかり目がいっている。その背景には、ご本人さんのことを考えている気持ちもあるとは思うんですよ。
そこで、私は職員さんと「なぜ便がモレるのか、なぜ下痢便になるのか」を考えました。食事の内容であるとか排便する場所やタイミングとか、下剤も見直しました。
はじめ、私は「またできもしないことを言いに来る人」と職員さんたちに思われていたんです。でも、職員さんにお願いして「2週間だけでもやりませんか?」と声をかけました。
取り組む中で、ポータブルトイレで便が出たんです。それから職員さんたちが変わっていきました。やったら結果が伴ってきた。つまり成功体験だと思うんですけれど、そこから最終その方はトイレに行けるようになりました。
その取り組みの中で、職員さんの顔が変わってきたんです。そういったことを体験された方は、今ではおむつフィッター研修を受講されて、今でも交流があります。
根本を考えることによって、目の前のAさんだけではなくて、他の方にも考えるということを七ただいたら色んな方のケアが変わっていくと思います。一人ひとりの職員さんたちが成功体験を通して自分たちでできるようになっていけば、どんどんいいケアが施設内に広がっていくんじゃないかなと思います。
--一見、遠回りな様に見えることが、根本解決につながって現実的にその方を変えていき、その成功体験が施設内に広がっていったのですね。
【熊井利將さん】
遠回りに見えるけれど、丁寧にご本人を見ていきながら原因を考えてそれに対するケアを考えていくことで職場のケアが変わっていくんじゃないかと思います。
おわりに
浜田きよ子さん、熊井利將さん、お話を聞かせていただきありがとうございました!
なお、介護にプラスLive+Doでは、「介護のためのおむつのヒント」で、排泄の困りごと解決のヒントになる情報を掲載しています。おむつフィッターのご紹介や浜田さんや熊井さんのインタビュー記事もありますので、ぜひご参考にしていただけると嬉しいです。
これからも、介護にプラスLive+Doでは、介護のくらしに役立つアイデアや情報を発信し、介護のくらしに“プラス”をお届けしていきます。
本日は最後までご覧いただき、誠にありがとうございました。