食欲低下を食い止めたい!高齢者にとってのおいしい温度をみつけよう

高齢者の食欲低下をどう回復させてよいかを案じておられる方も多いと思います。食欲低下の要因のひとつとして、おいしさを感じにくいことが挙げられますが、その背景には、加齢に伴う味覚・嗅覚(匂い)や咀しゃく力などの低下、環境などがかかわっています。

ご家族や周囲の方々にとっては、たとえ、からだの機能が低下しても「おいしく食べてほしい」という思いは変わりません。今回は、高齢者が少しでも「おいしい」と感じていただくために大切な、「食事の適温」についてご紹介します。

【高齢者のための食事づくりに関するおすすめ記事】
〇ずっと、おいしく楽しく食べてほしい! 高齢者の「食べるチカラ」を引き出しましょう。
〇高齢者が食べない…「食べるチカラ」に差がつく五感を使った音と食事のおいしい関係とは?
〇視覚で食欲を刺激して、“食べるチカラ”を育む。 目で見て楽しめる3つの工夫。

■加齢に伴う食欲低下の5つの原因とは

加齢によっておこる食欲低下は、様々な角度からの原因が考えられます。

咀嚼・嚥下力の低下 入れ歯の不具合、噛む力、口の中で食べ物をまとめる力、飲み込む力が低下し、食べにくくなる。
味覚の低下 口腔ケアの不足により舌の表面にコケ状のものが付着したり、だ液の減少がまねく自浄作用の低下によって雑菌が増えることで、味覚を感じにくくなる。複数の薬の飲み合わせも味覚低下の要因として考えられる。
消化吸収能力の低下 だ液をはじめとする消化液の分泌が低下することで、空腹感を得にくくなる。
便秘による食欲低下 排便がスムーズでないため、便秘がちで空腹感を得にくくなる。
活動量の低下 日中の活動量が低下するため、空腹感を得にくくなる。

さまざまな要素から「おいしさ」感じとる

食欲がわかない時に強制的に食事をすすめても負担になるだけです。おいしく食べられる工夫をするために、「おいしさ」の感じ方を参考にしてください。

おいしさを感じる要因は、人そのものにかかわる「人的要因」と、食べ物や料理にかかわる「食べ物的要因」に分かれます。これらを活用して「おいしく感じる条件」を整えてみましょう。

人的要因 ①体調(健康状態・空腹感)②環境(場所、誰と?)③感情 ④経験(習慣)⑤記憶
食べ物的要因 ①温度、②味、③見た目、④匂い、⑤音、⑥食感

今回は、食べ物的要因のひとつである「温度」に着目してみます。

■おいしさは「料理の適温」で感じ方が違う

一般的に、飲食の温度は人の体温の±25~30℃が好まれ、温かい料理は60~70℃、冷たい料理は0~10℃前後が好まれるようです。これらは、舌にある“味を感じとる“神経細胞と関係があり、特定の温度で活性化するという報告があります。

たとえば塩味は、高温では感じにくく、低温で感じやすい、甘味も高温で感じにくく、体温に近い温度で強く感じ、低温では感じやすくなるといわれています。

*「料理の適温」は体温を基準に

適温料理でおいしさを感じる工夫を

 

それぞれの料理が一番おいしく感じられる温度のことを「適温」と言いますが、決して温かい料理は「アツアツ」状態で、冷たい料理が「キンキンに冷えている」状態が一番おいしいとは限りません。

例えば、味覚が低下している高齢者に高温のお味噌汁を提供した場合、塩味を感じにくいため、「味が薄い、まずい」と感じるかもしれません。そのため、お味噌汁などの汁物では70℃前後を目安に提供してみましょう。

ただし、汁物をよそった時が70℃であっても、施設等の配膳で時間を要する場合は、お客様の手元に届く温度から逆算し、配膳の工夫をしましょう。

POINT:器の材質、形選びに注意しましょう。温かいもの、冷たいものを手にとって食事をする際は、器の温度が手に伝わりやすいため、高齢者でも安全に持てるものを選びましょう。

高齢者でも安全に持てる食器の一例

注意:とろみをつけた温かい料理は保温性があるため、表面は冷めていても中は熱いままということがあります。口の中をやけどしないようにご注意ください。

さいごに

食欲の低下がみられる場合は、食欲がすすまない原因を様々な角度から探ってみましょう。今回は食欲低下の対策のひとつとして、人あるいは料理にとっての「適温」の大切さをお伝えしました。

複数の料理を同時に作る場合は、すべてを適温で提供することは難しいと思います。たとえ、その中の1品、あるいは2品であっても、高齢者がおいしく感じる温度や料理の適温を知った食事を提供することで、ひと口でも多く食が進むことを願っています。

■この記事に関するおすすめレシピ
牛乳パックで作る、二色水ようかん

【高齢者のための食事づくりに関するおすすめ記事】
〇ずっと、おいしく楽しく食べてほしい! 高齢者の「食べるチカラ」を引き出しましょう。
〇高齢者が食べない…「食べるチカラ」に差がつく五感を使った音と食事のおいしい関係とは?
〇視覚で食欲を刺激して、“食べるチカラ”を育む。 目で見て楽しめる3つの工夫。