こんな時どうしたらいい?認知症のサポート【日本認知症予防協会監修】

もし、ご家族や身近な方が認知症になったら…。社会の高齢化に伴い、認知症人口も増え続けている昨今、こうした心配事は誰にとっても無関係とは言えないものとなっています。なんとかご家族だけでサポートしようと考える方も少なくありませんが、認知症による症状に対応することはプロでも難しいものです。無理をしてご家族に大きな負担がかかってしまう前に、きちんと必要なサービスを求めることが大切です。

【日本認知症予防協会監修 関連記事】
事例から学ぶ認知症 食生活編①
事例から学ぶ認知症 食生活編②
事例から学ぶ認知症 行動編①
事例から学ぶ認知症 行動編②
事例から学ぶ認知症 感情編①
事例から学ぶ認知症 感情編②
事例から学ぶ認知症 感情編③
事例から学ぶ認知症 「おかしいな」と思ったら
こんな時どうしたらいい?認知症のサポート←今回はコチラ

まずは相談できる窓口へ

認知症の症状は人によってさまざまです。毎日対応していく中で「こんな時にはどうしたらいいんだろう?」と困ってしまうことも多いでしょう。そうした悩みごとや質問、疑問等がある場合は、遠慮せずに専門機関へ相談してみましょう。認知症や高齢者に関する相談窓口には、主に次のようなものがあります。

1)地域包括支援センター


地域包括センターとは、高齢者の健康や生活全般に関する相談を総合して受け付けている各市区町村に置かれた相談窓口施設です。

認知症や介護に関する相談をはじめ、病気や健康に関する相談、金銭面での問題、日常生活におけるちょっとした困りごとまで、幅広く対応しています。

相談事には専門スタッフ(社会福祉士、保健師、主任ケアマネジャーなど)が対応してくれるため、専門的な目線からのサポートを受けることができます。

2)病院・診察所


「いきなり専門機関に行くのはちょっと…」と思う時は、まず最寄りのかかりつけ医や診察所などに相談してみるようにしましょう。そこから適した機関を紹介してもらうことが可能です。

相談窓口には、もの忘れ外来や老年科、精神科、心療内科、メモリークリニック(認知症を対象とした診療科)、認知症疾患医療センターなどさまざまな場所があります。まずは些細なことでも相談してみることが大切です。

3)地域の民生委員


民生委員とは厚生労働大臣から委嘱(専門性の高い業務や役割を依頼すること)され、ボランティアとして地域住民からの相談を受けたり、支援を行っている方々のことを指します。

相談者の立場に立って必要なサポートを考え、適した福祉サービスへのつなぎ役として行政機関や施設などに連絡し、対応を促したりするほか、地域の見守り役として定期的な訪問なども行ったりしています。

4)市区町村の高齢福祉担当窓口・保健所・保健センター


相談先を教えてくれる窓口です。どこに相談すればいいか分からない時は、こちらへまず相談し、適切な支援先を選ぶようにしましょう。

また、かかりつけ医がいる場合は医師から相談先を紹介してもらうことも出来ますので、日頃不安に思っていることなどについて伝えてみても良いでしょう。

5)高齢者総合相談センター(シルバー100番)


電話による相談窓口です。全国共通で#8080をダイヤルすると、最寄りの相談センターへつながります。窓口へ行く時間がなかなかとれない時、早めに確認したいことがある時などに活用すると良いでしょう。
※若年性認知症(65歳未満で発症した認知症)に関する相談窓口もあります。若年性認知症コールセンターは、全国若年性認知症支援センターの事業として無料相談を実施しています。
【若年性認知症コールセンター】
(TEL)0800-100-2707
(HP)https://y-ninchisyotel.net/

必要に応じたサポートの提供

各自治体にある地域包括支援センターの中には「認知症初期集中支援チーム」が置かれています。
認知症初期集中支援チームとは認知症が疑われる方の早期発見・対応を目的とした専門チームで、認知症の方とそのご家族に対して自立生活のサポートなど初期の支援を包括的・集中的(おおむね6ヵ月)に行います。

支援メンバーには専門医や保健師、看護師、介護福祉士、作業療法士、社会福祉士などの専門士がおり、それぞれ専門の見識に基づいた適切なサポートを提供します。

〈認知症初期集中支援チームの流れ〉

STEP① 相談する
地域包括支援センターなどの窓口に相談した際、認知症初期集中支援チームに伝達されます。
   
STEP② 訪問する
複数の専門職が自宅を訪問し、具体的にどのようなことに困っているかなどの現状をヒアリングします。
   
STEP③ 支援内容の検討
ヒアリングした現状に対して、ご本人やご家族の意向を踏まえて専門医の指導のもと支援内容が検討されます。
   
STEP④ 支援の開始
認知症の症状に応じた助言や、医療機関への受診の勧奨を行うほか、生活環境の改善、ご家族への支援など、認知症の初期段階における多方面からのサポートを行います。
   
STEP⑤ 引継ぎ
集中支援期間である6ヵ月(最長)を超える場合、その後はケアマネジャーや必要なサービスへと引き継がれます。

ケアマネジャーとは

ケアマネジャー(介護支援専門員)は、介護保険を利用する際に必要な手続きを代行し、適切なサービスを受けられるよう支援する専門職です。ケアプラン(介護サービス計画書)の作成をはじめサービス事業者との調整を行ったり、またご本人の体調などの情報を医療・介護関係者と共有することでいざという時にも迅速に対応できるようにするなど、さまざまな面でサポートを行います。

〈ケアマネジャーの主な業務〉

  • ご本人やご家族からの相談・要望を受けて対応する
  • 介護サービスを提案し、ケアプランを作成する
  • 要介護認定の申請を代行する
  • 介護保険給付の管理(サービス実施内容の確認、必要書類の作成・送付)
  • 介護サービス事業所とサービス内容の調整をする
  • 地域の包括的な支援を受けられるよう、医療機関や介護施設との連携をとる
  • 施設入所を希望する場合、支援や紹介をする
  • 介護が適切に受けられているかの定期的なモニタリングを行う
  •  など

    ケアマネジャーに相談する際のポイント

    このように認知症の方をサポートする上で、ケアマネジャーは大きな役割を担っています。そのため要望通りのサービスを受けるためには、きちんとケアマネジャーとの連携がとれている必要があります。「想定していたサポートと違った」ということにならないよう、小さなことであってもきちんと要望や詳細などを伝えておくようにしましょう。とくにお金に関することなどに関しては、話すことに対して恥ずかしいと思ったり抵抗を感じることもあるかもしれません。しかし包み隠さず伝えることで、ケアマネジャーがご家族の立場に立った最良のプランを考えるための重要な要素になります。「金銭的に余裕のない方をどう支援するか」が、ケアマネジャーの腕の見せ所です。

    〈ケアマネジャーに伝えるポイント〉

  • ご本人の健康状態、客観的に見た症状など
  • 具体的にどのようなことに困っているか
  • どのようなサービスを希望しているか
  • 経済面に関する事情
  • ご家族や親族の協力度(どの程度介護に関われるか)
  •  など

    認知症に関連するトラブル

    「もしも認知症になったら」。ほとんどの方の場合、ご自身やご家族が認知症になるという状況を初めて経験されるため、事前にどのようなトラブルが起こるのかを想像することはなかなか難しいかもしれません。しかし、これまでの生活が大きく変わってしまうようなさまざまなことが起こる可能性があります。中でも注意しておきたいのが「お金」に関連するトラブルです。どのようなトラブルが考えられるのか、事例をもとに見ていきましょう。

    トラブル事例: 家族の銀行口座からお金が下ろせなくなった


    Aさんのご家族(父)が認知症を発症し、入院・治療が必要になったため、一度に大きなお金が必要になりました。その費用代としてご本人の銀行口座から出金する必要がありましたが、ご本人は入院しているため銀行へ行けません。そのため代わりに娘であるAさんが、ご本人の口座からお金を引き出しました。

    後日、銀行から連絡があり「普段はないような大きな金額が引き出されたが、大丈夫ですか?」と確認されましたので、Aさんは事情を説明し、自分が祖父の代わりにお金を下ろした旨を伝えました。すると銀行からは「ご本人以外が出金することは認められません」と言われ、口座が凍結されてしまいました。

    ●こんな時どうしたらいい?

    この事例は、銀行が原則的に「契約者本人の財産を守るために機能している」という事情から発生しているため、たとえご家族であってもご本人の関与しないところで出金を行うことは認められません。(近年は高齢者を狙った詐欺なども増えており、銀行側がとくに慎重になっているという背景もあります)

    こうしたトラブルを防ぐためには事前にご家族で話し合い、いざという時のための準備をしておくことが大切です。

    認知症などをはじめ、自身で財産の管理をすることが難しくなった際の方法としては「成年(せいねん)後見(こうけん)制度(せいど)」と「家族信託」の二つの制度があります。

    これらはご本人の代わりに財産を管理する人(代理人)を立てるという点で共通していますが、それぞれに良い点と注意するべき点があります。きちんと違いを理解し、必要になった際には適したものを活用するようにしましょう。

    1)成年後見制度

    成年後見制度とは、後見人(代理人)を立て、ご本人の代わりにお金や土地などの財産管理を行うための仕組みです。認知症をはじめ知的障害、精神障害など、判断能力が不十分だとみなされた場合に適用されます。

    成年後見制度には大きく分けて「法定後見人制度(すでに認知機能が低下した状態に適用)」と「任意後見人制度(現状において認知機能に問題はないが将来のために事前に行う場合に適用)」があり、家庭裁判所を通して手続きを行います。

    2)家族信託

    もう一つの方法として家族信託を活用するという方法があります。家族信託とは、資産を持つ方が信頼できるご家族に対して保有する不動産や預貯金等の管理・処分を任せる仕組みで、成年後見制度と同様に代理人を立てて資産を管理するためのものですが、裁判所を通すことなく後見人を選出できるという手軽さがあります。

    しかしすでに認知機能が低下している状態の方には適用できず、ご本人が健康なうちから事前に手続きを行っておく必要があったり、予定していた財産以外のものが後から見付かった場合、それを代理人が管理することはできないといった制限などもあります。

    成年後見制度と家族信託、どちらが適しているかはご家庭の状況によって異なりますので、利点と注意すべき点をきちんと確認の上で選ぶようにしましょう。

    まとめ

    「認知症によるトラブル」と聞くと「認知症の症状によるご本人の行動」による直接的なものばかりを想像しがちですが、このように周囲の方々の生活に関わるようなトラブルも少なくありません。現代医療において完治が難しいとされる認知症だからこそ、いざという時に慌てないようご家族全員でしっかりと準備することが大切です。そしてご家族だけでは対応できないと感じた時は、遠慮せずに相談できる場所やサービスをきちんと活用するようにしましょう。

    関連記事
    認知症を正しくまなぶ! 「知る」「予防する」ための記事8選