認知症でのトラブル?まずは認知症の症状を理解しよう

認知症の症状を知ろう

人間はよくわからないものに不安を感じたり、怯えたりします。例えば、現在世界中で大流行している新型コロナウイルス感染症がそうでしょう。私たちが遭遇したことがない未知の感染症は世界中の人を不安に陥れています。一方、毎年流行し、多くの死者をだすインフルエンザには、そこまでの不安は感じていないのがわかります。それは、インフルエンザがどういう病気で、どんな症状があり、予防や治療法を何となく知っているからではないでしょうか?

では、認知症についてはどうでしょう?認知症とは、どのような状態になるのか?どんな症状があるのか?どんな病気によって起こるのか?予防法や治療法はあるのか?認知症を抱える親を介護するときに起こりやすいトラブルは?認知症という言葉は聞いたことがあっても、そこまで詳しく聞いたことがないという方が多いと思います。まずは認知症の症状を知ることから始めてみましょう。

認知症とは

世界保健機関( WHO)が定めた診断基準国際疾病分類第10版(ICD-10)には、「認知症とは、通常、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶・思考・見当識・理解・計算・学習・言語・判断など多数の高次大脳機能の障害からなる症候群」と定義されています。わかりやすく言えば、認知症とは、脳の病気が原因の大脳の認知機能障害によって引き起こされるさまざまな症状のことです。

認知症を引き起こす病気には、さまざまなものがあり、もっとも多い疾患が「変性疾患」と呼ばれるもので、アルツハイマー病、前頭・側頭型認知症、レビー小体病などがこれにあたります。脳の神経細胞がゆっくりと死んでいく疾患です。

次いで多いのが、脳梗塞、脳出血、脳動脈硬化により脳の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、その部位の細胞が死んでしまったり、神経のネットワークが壊れてしまう脳血管性認知症です。「アルツハイマー型」、「前頭・側頭型」、「レビー小体型」、「脳血管性型」と分類される事が多く、4大認知症とも言われていますね。

認知症の2つの症状 (中核症状と周辺症状)

認知症の症状を考えるうえで、大きく2つに分けて考えることが重要です。

ひとつは、脳の細胞が壊れることによって直接起こる症状で「中核症状」と呼ばれるものです。「中核症状」のために周囲で起こっている現実を正しく認識できなくなります。

もうひとつは、本人の性格や置かれた環境、人間関係などの要因が絡み合って、うつ状態や妄想のような精神症状や日常生活への適応を困難にする行動上の問題を引き起こす「周辺症状」と呼ばれるものです。

中核症状について

中核症状には、①記憶障害②見当識障害③理解・判断力の障害④実行機能障害⑤感情表現の変化があります。それぞれの症状について詳しく見ていきましょう。

中核症状①記憶障害

目や耳でとらえた多くの情報の中から関心のある情報を一時的に保管する「海馬」と呼ばれる脳の器官があります。海馬に保管された情報のうち重要な情報は長期保管の場所に移されます。いったん長期保管の場所に収められると、普段は思い出さなくても必要な時に取り出すことができます。

老化により海馬の力が衰え、一度にたくさんの情報を捕まえることが出来なくなったり、長期保管場所に移すのに手間取ったり、長期保管場所から取り出すのにしくじったりするようになります。年をとって物覚えが悪くなったり、ど忘れが増えるのはこのためです。それでも海馬は機能しているので、繰り返しによりうまく長期保管場所に収めることはできます。

ところが認知症になるとその海馬が直接壊れてしまうので、新しいことが記憶できずにさっき聞いたことさえ思い出せなくなってしまいます。さらに症状が進むと長期保管場所も壊れてしまい覚えていたことも失われていきます。

記憶障害は、早い段階から出てくる認知症の症状として気づくことが多い症状のひとつです。

中核症状②見当識障害

見当識とは、現在の年月日、時間、自分のいる場所などの状況を把握することです。

見当識障害も初期の認知症の症状として表れる症状のひとつです。

時間の感覚が薄れることから、予定に合わせて準備するとか、長時間待つとかが困難になります。症状が進むと時間だけでなく、日付や季節などがわからなくなり、何度も今日の日付を聞いたり、季節違いの服を着たり、自分の年齢がわからなくなってきます。

方向感覚が弱くなることで、最初は周囲の景色を頼りに道を歩くことができますが、周囲が暗くなり頼りの景色が見えなくなると迷子になってしまいます。

人間関係の見当識は、過去に獲得した記憶を失うことで自分の年齢や人の生死にかかわる記憶がなくなり、周囲の人との関係がわからなくなります。

以上のような事柄により、生活上のトラブルが起きやすくなります。

中核症状③理解・判断力の障害

認知症になるとものを考えることにも障害が生じてきます。まず、考えるスピードが遅くなるので、急がせると混乱してしまいます。

一度に処理できる情報量が減ってしまうので、二つ以上のことが重なるとうまく処理ができなくなります。必要な情報は簡潔に伝えないと混乱を招きます。いつもと違う出来事が起こると混乱をきたしやすくなります。

観念的な事柄と現実的なことがらが結びつかなくなります。糖分摂取を控えなければいけないことはわかっていても目の前にあるケーキを食べていいのかどうかわからなくなるというようなことが起こります。

中核症状④実行機能障害

頭の中で計画を立てて、予想外の変化にも適切に按配してスムーズに進めることが困難になります。そのため、料理や電気製品の使用方法がわからなくなります。

次第に更衣の順番のような単純な作業も難しくなり、下着を衣服の上に着用したり、やがて更衣自体を嫌がるようになります。

中核症状⑤感情表現の変化

自分の感情を表現した場合の周囲のリアクションは何となく想像できるものですが、認知症になるとその場の状況が読みにくくなるため、ときとして周囲の人が予測しない、思いがけない感情の反応を示すことがあります。

それは、記憶や見当識、理解・判断の障害から周囲からの刺激や情報に対して正しい解釈ができなくなっているために起こります。

周辺症状(行動・心理症状)について

上記のような中核症状は、本人に強い不安、混乱を引き起こし、自尊心を傷つけることになります。そのような状態の中で周囲の環境や周囲の方々の対応、本人の性格や経験などの要因が絡み合って起こってくるのが周辺症状(行動・心理症状)と呼ばれるものです。

周りからは問題行動とみなされることが多い症状で、認知症を抱える方を介護する上で、様々なトラブルにつながり、大きな悩みとなるものも少なくありません。本人にとっては、何とかよりよく適応しようとした行動の結果でもあります。問題と思われる行動には、全て理由があります。本人の症状を理解し、適切なケアが提供されれば周辺症状は軽減したり消失したりする可能性は十分にあります。

周辺症状(行動・心理症状)には主に以下のようなものがあります。

周辺症状①無関心

認知症により現在の自分と過去の自分が繋がらない状況での生活は、今までできていたことが出来なくなった不安、これまでの経過が理解できない不安がつきまといます。

周囲からの「なぜできないのか?」「さっきも言ったでしょ」という言葉の投げかけにより自信を無くしてしまうことが多々あります。やがて、どうせできないからという消極さにより意欲が低下し、無関心になります。これにより生活範囲が狭くなり、社会との関りを避けるように閉じこもりや引きこもり状態になることがあります。

周辺症状②拒否

食事、入浴、排泄、服薬などを拒否する行動がみられます。拒否の理由には、理解ができない、具合が悪い、自分の思いが伝えられない、不安があるなどが考えられます。

無理強いをすれば、言葉をうまく伝えられないイライラから、攻撃や暴言につながることもあります。なぜ拒否をしているのかを考えてあげることが大切です。拒否の仕方はそれぞれ違うということを理解しておくことが必要です。

周辺症状③攻撃

認知症の初期においては、今まで普通にできていたことが出来なくなっている自分を自覚しています。そんな自分を情けなく感じ、思い通りにいかないことに腹立たしさも感じています。それを他人から指摘されたらどうでしょうか?その時に衝動的に攻撃性がみられます。

攻撃的行動には、大声で叫ぶ、ののしる、癇癪をおこす、奇声をあげるといった言語的攻撃性と、たたく、ひっかく、押す、物をつかむ、人につかみかかる、蹴る、かみつくなどの身体的攻撃性があります。

周辺症状④不穏

記憶障害や見当識障害が原因で自分がどこにいるのか、周囲にいる人が誰なのかがわからず落ち着きがない状態になります。

不安が強いため、歩き回ったり、じっとしていられないという心理状態になります。

周辺症状⑤徘徊

徘徊とは目的なく歩き回ることですが、実際は本人にはちゃんとした理由があります。ただ、本人がその理由を適切に説明できなかったり、目的を忘れてしまっているので、周囲にはその行動が理解できなくなります。

例えば、転居後の住宅が自分の家と認識できず、元の家に帰ろうとするとか、探し物をしているうちに何を探しているかわからなくなるとか、不安や緊張のため、そばにいてくれる人を捜し求めて歩き回ることなどがあります。

周辺症状⑥妄想

現実にはないことを事実と確信することで訂正できなくなった誤った判断をしてしまいます。本人がかたくなに思い込んでいる状況です。

認知症の妄想の特徴は、被害的な内容が多くなります。誰かに財布を盗られたというのは典型的なものです。

周辺症状⑦作話

事実と異なることを周囲に話すことです。欠落した情報を補ったり、取り繕うために起こる現象ですが、たいていは本人に都合の良い話になります。

知らない人が聞くと事実として感じてしまうため思わぬトラブルに発展することがあります。

周辺症状⑧収集

その物が手元にないと不安になるため、見かけると持って帰ります。特に紙類が多く、スプーンなどの食器もよくみかけます。手当たり次第に何でも集める方、生活の中で本人にとって大事なものだけ集める方などさまざまです。

記憶障害のため手元にたくさんあることは忘れてしまっているため、どんどん集まってしまうのです。

周辺症状⑨昼夜逆転

生活リズムの乱れには、日常生活での心理的な問題が影響していることが多いといわれます。環境の変化や不安、寂しさなどから寝つけないということはよくあります。

周辺症状⑩弄便(ろうべん)

認知症が進行するとみられることがある行動です。おむつ内の排便が気持ち悪く、取ろうとしたことが考えられます。また、トイレの場所がわからず排便してしまい、後始末の方法がわからず引き出しにしまってしまうようなこともあります。

自分の排泄物は恥ずかしいから人にみられたくないという気持ちが残るためそのような行動をとってしまうのです。

まとめ

認知症がどんな症状であるかを知ることはとても大切です。認知症の症状を知ることで、なぜ本人がそのような行動をとるのかを理解することができるようになります。また、早い段階で認知症の症状に気づき、適切な対応がとれると、様々なトラブルを未然に防ぐことができます。

いろいろなことに不安を感じ、苦しんでいるのは認知症を抱えた本人です。認知症の症状を通して周囲の方々が本人の苦しみを理解してあげることが重要です。周囲の方が問題であると認識する行動にもちゃんとした理由があります。認知症の症状を理解すれば、見えなかった理由が見えてくるようになると思います。

参考文献

  • 疾病及び関連保健問題の国際統計分類ICD-10(2013年版) 世界保健機関(WHO)
  • 厚生労働省 政策レポート「認知症を理解する」
  • 認知症ケア指導管理士試験公式テキスト 財団法人職業技能振興会監修 日本能率協会マネジメントセンター
  • 在宅&病棟でできるおむつと排泄の看護ケア 浜田きよ子編著 メディカ出版