年齢を重ねると、身体の変化に伴い、住み慣れた家でも日常生活にさまざまな不都合が出てくるものです。しかし高齢者が生活しやすく、また介護者も介護しやすい住環境を整えるとなると、一度に大きな改修費用が必要になることが一般的です。なかなか工事に踏み切れないというケースも少なくないでしょう。
そんな時に活用したいのが、介護保険を利用した「住宅改修」のサポートです。改修費用の負担が軽減することで、住み慣れた家で継続して生活することが可能になるかもしれません。
住宅改修のメリット
加齢によって身体機能が低下した場合、介護施設(有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅 など)を利用するという選択肢もありますが、「できれば自宅でそのまま暮らしたい」と望む高齢者も少なくありません。見知らぬ場所で生活することに対する不安や恐怖心を抱いている場合や、自分が高齢者であるということを認めたくないという心理から拒否する場合など、理由はさまざまです。

そうした方にとって、自宅の一部を住みやすく改修することでこれまでと同じように自宅生活が続けられるようになるということは大きな安心感につながります。歩行の補助、転倒防止など改修による物理的なメリットは多いですが、できるだけ本人のストレスを減らし、いきいきとした毎日を送ることも、将来的な認知機能や身体機能の維持に役立ちます。
介護保険の対象となる住宅改修
一言で「住宅改修」と言っても、その種類はさまざまです。介護保険が適用される主な住宅改修には次のようなものがあります。
1)手すりの取り付け

廊下、トイレ、浴室、玄関、玄関から道路までの通路など、手すりを設置することで安定した動作を行えるようになります。手すりの形状は縦付け、横付け、二段式など、用途に応じて適したものを選びましょう。
★福祉用具貸与にあたる手すりの設置は対象外です。
2)段差の解消

足を高く上げることが難しくなり、歩行が不安定になってきた場合は、生活空間にある段差を減らすことを検討しましょう。部屋、廊下、トイレ、浴室、玄関などの段差は、敷居を低くしたりスロープを取り付けたりすることで解消できます。
段差をなくすことで、足を高く上げにくい方でも安心して歩けるようになり、転倒予防につながります。また、車椅子での移動が楽になるといったメリットもあります。
★福祉用具貸与にあたるスロープの設置は対象外です。
★浴室用すのこを置くことによる床段差解消は対象外です。
★動力による段差解消機器(昇降機・リフト・段差解消機など)の設置は対象外です。
3)床材の変更

屋内での転倒防止のため、居間や浴室などの床材を滑りにくいものに変更することも効果的です。畳敷からフローリング(板製床材)やビニール系床材に、浴室のタイルを滑り抵抗の高い防滑タイルに替えると、移動時の安全性を高める効果が期待できます。
4)扉の取り替え

ドアの取っ手を丸型からレバーハンドルに替えたり、開き戸を引き戸やアコーディオンドアに替えたりすると、手指の握力が低下した場合でも扱いやすくなります。また、扉を動かしやすくする戸車(戸の下端や上端にある小さなローラー)の取り付けなども保険対象に含まれます。軽い力でドアの開閉ができるので、腕の力が弱くなった場合に有効です。
5)便器の取り替え

加齢によって足の筋力や関節の柔軟性が低下すると、しゃがんで使用する和式トイレが困難になる場合があります。そうした方でも使いやすいよう、和式から洋式便器に取り替える改修も保険対象内で行うことができます。便器の位置・向きを変更して使いやすくする改修も有効です。
★すでに洋式便器である場合、暖房便座や洗浄機能の付加は含まれません。
★福祉用具購入に掲げる「腰掛便座」の設置は除かれます。
6)各工事に付帯して必要な工事
ここまでに紹介した改修方法に付帯して行われる工事にも、介護保険が適用されます。
①手すりの取り付けのための壁の下地補強など。
②浴室の床段差の解消に伴う給排水設備工事など。
③床材の変更のための下地や根太の補強など。
④ドアの取り替えに伴う給排水設備工事、床材の変更など。
⑤便器の取り替えに伴う給排水設備工事、床材の変更など。
★給排水設備工事のうち、水洗化・簡易水洗化に係わるものは除かれます。
住宅改修サービス利用の流れ

介護保険を利用した住宅改修には、「施工前」と「施工後」に申請が必要です。支給までの流れを事前にきちんと確認しておくと安心です。
1)相談
まずは地域包括支援センターやケアマネジャー、福祉用具専門相談員などに、住宅改修について相談しましょう。
2)訪問調査
住宅改修事業者が自宅を訪問し、改修の必要状況を調査します。
3)設計プランの提案・検討
要望と調査に基づいて、改修の内容や見積りが提出されます。
施工内容、費用について確認し、検討しましょう。
4)市区町村へ申請・承認(事前申請)
施工予定が確定したら、必要な書類を揃えて市区町村の介護保険窓口へ申請しましょう。
承認されると、住宅改修費支給決定通知書が自宅に郵送されてきます。
(改修工事代金の支給方法は各市区町村により、異なります)
5)施工(工事)
工事が実施されます。
(介護保険支給のために施工前・施工後の写真が必要になります。撮影しておきましょう)
6)引き渡し
工事内容を確認後、住宅改修事業者へ代金を支払います。
7)市区町村へ支給申請(事後給付)
施工の写真などを加えた必要書類を揃えて、市区町村へ申請しましょう。
8)給付金の振り込み
市区町村より、給付金が指定口座に振り込まれます。
9)アフターフォロー
住宅改修事業者が必要に応じてメンテナンス等を行います。
介護保険を利用した際の支給額・自己負担額
住宅改修における介護保険の支給は、介護保険の認定ランクに関わりなく1人あたり20万円(消費税込み)が上限となっており、超えた金額は自己負担になります。20万円までは所得により定められた介護保険利用負担割合(1割・2割・3割負担)に応じた支払いが必要です。また、介護度が3段階以上あがった場合には20万円の限度額がリセットされ(3段階リセット)再利用が可能となります。
●自己負担の例(1割負担の場合)
| 住宅改修費 | 自己負担額 | 内訳 |
|---|---|---|
| 20万円 | 2万円 | 20万円の1割負担(2万円) |
| 30万円 | 12万円 | 20万円の1割負担(2万円)+補助外(10万円) |
●3段階リセット

失敗しないための注意点

住宅改修は大きな費用と時間をかけて行うもの。だからこそ施工に踏み切る前には、事前によく検討することが大切です。「こんなはずじゃなかった」と思うような改修にならないよう、よくある失敗例をもとに注意するべき点を見ていきましょう。
失敗例① 無駄な手すりをつけ過ぎた
各所にいくつか手すりをつけたが、実際はほとんど使わない物もあった、というケースは少なくありません。不要な手すりが車椅子の移動や、介助者のサポートの邪魔をしてしまう場合もありますので注意しましょう。どのような動作を補助するための手すりなのか、できるだけ具体的な事前のシミュレーションが大切です。
失敗例② 手すりの位置が合わない
体を動かす時、移動をする時など、手すりは手にしっかりと力を込めて握ることが必要です。そのため位置が合わないとうまく力が込められなかったり、体重をあずけることが難しくなったりすることがあります。被介護者(使用する本人)の体格や、どういった姿勢で使用するのかなどについても考慮した上で、設置位置を設定すると良いでしょう。
失敗例③ スロープの幅が狭い
車椅子で屋内を移動する場合、段差解消のために設置したスロープの幅が狭く、移動が困難になる場合があります。車椅子の幅はJIS規格(手動車椅子は630mm以下、電動車椅子は700mm以下)で決まっていますので、実際に使用する車幅を事前に確認した上でスロープを選ぶようにしましょう。
失敗例④ コンロをIHにしたが使い方がわからない
認知症で火の取り扱いが不安。自炊をすることも減ったので、ガスコンロからIHクッキングヒーターに取り替えたが、本人が使い方がわからず活用できなかったというケースがあります。新しい家電は便利である一方、使用方法を理解するのが難しいという一面もあります。とくに認知機能が低下している場合、何度教えても忘れてしまうということもあるため注意が必要です。
失敗例⑤ 介護保険の対象外だった
住宅改修後に、条件を満たしていなかったため介護保険が適用されなかったという場合もあります。地域包括支援センターやケアマネジャー、福祉用具専門相談員などに事前確認しておくことで避けられるトラブルですので、きちんと相談のうえ行うようにしましょう。
まとめ
いくつになっても自立した生活を維持できることは、毎日の意欲を高め、QOL(人生や生活の充実度・満足度)を向上させる大切な要素です。住宅改修は、その自立した暮らしを支えるための重要な手段のひとつです。 介護保険を上手に活用し、いつまでもいきいきとした生活を続けていきましょう。













