高齢者の食に関する改善の取り組みは、おやつから。管理栄養士の德田泰子さんインタビュー

介護のための「食べる」のヒントで「なるほど!」が満載の記事やアイテアいっぱいの介護食レシピを提供してくださっている德田 泰子さん。「おいしく・楽しく・健康な暮らし」を実現するため女性起業家として、栄養コンサルティング会社、株式会社ヘルシーオフィス フーを設立し、その代表を務めています。今回は、株式会社ヘルシーオフィス フーで開催しているおやつ作りのイベントを通して気づく、おやつの秘めた可能性についてお話をお聞きしました。

——利用者目線に立ったメニュー提案、商品開発などを行う一方で、有料老人ホームなどに栄養士を派遣してイベントを行っているとお聞きしましたが、おやつ作りのイベントはどのように生まれたのですか?

食事よりも取り組みやすくて、介護従事者の方が楽しく関われることはないかと考えて、みんなと同じものを食べることを目的に始めたのがおやつ作りイベントのきっかけです。

高齢者施設の中でも、グループホームなどの小規模なところでは、専任の調理員さんや管理栄養士さんがいらっしゃらないことがあります。以前、グループホームに介護食のお話をしに行くと、介護福祉士さんなど、食の専門ではない方が、いろんな工夫をしながら取り組まれていました。

そこに、外から栄養士が突然入って来て、「あれ作って下さい」「これ作ってください」というと、あまりにもハードルが高くなります。十人いたら十人嗜好が違うし、摂食嚥下の状況も違うでしょうし。

普段の介護をしている皆さんが、介護食について注力するって本当に大変なことだと思います。でも、私は介護している皆さんにも介護食について理解をしていただきたいと思ったので、理解するきっかけとして、「おやつはどうですか?」と提案したのです。

おやつって食事よりもランクが下がるわけではなくて、ぐんと身近なので、導入のハードルが下がります。なぜなら、食事だったら365日3回ですけど、おやつだったら1日1回かもしれないからです。

おやつ作りのイベントでは、みんなで一緒に食べることを重視して、一人ひとり少しずつ違っていても、みんなで同じように食べられるものを考えました。

例えば、クッキーの場合、いつもだったら、食べられない方はミキサーにかけて、ミルクで溶いた、とろっとしたものが、クッキーとして出されていました。でも、見た目は美しくないですよね、クッキーと見た目が違いますしね。

召し上がるご本人は、意識がはっきりしているのに、ただ摂食の状況が良くないだけで、食べられないからそのような対応になっていました。そのため、みんなと違うものだからテーブルにつきたくないとおっしゃるようになりました。

そこで、おやつでワイワイ楽しくやっている中で、その方も一緒のものを食べれば楽しいねということになりました。「一緒に作ろう。一緒に食べよう」をコンセプトに施設の方々にもご協力をいただいておやつ作りのイベントをはじめました。

——おやつ作りのイベントで心に残るエピソードはありますか? 

ご家族様もイベントにお呼びして、焼ドーナツを一緒に作ったことがあります。小さい焼ドーナツ機があるのですが、焼ドーナツが食べられない方は一回くずして、シリコンの型で再形成してドーナツのような形にすると、見た目は、ドーナツそっくりになります。食べられる方は焼ドーナツを食べていただき、それをご家族と一緒に食べました。すごく喜んでいただけました。笑顔が印象的でしたね。

おやつなら、みんなで同じものを口にしているからこそ、その方の(食べる様子、飲み込みお様子など)今の状況が見えてきます。食事では、一汁三菜の中の何を食べているか分からないので比較ができませんが、おやつなら比較ができます。

例えば、ドーナツを食べているときは、同じものを食べる様子を見て、一緒に食べている皆さんを比べることができます。そうすると、「この飲み込み状況と聞いているのに、この状況でモグモグしている時間が長いということは、機能が衰えてきているのかな?」ということに気づけて、「もう少し柔らかいほうが良かったですか?」と声をかけることができ、お食事にも反映させることができるのです。

みんなで同じものを口にしているからこそ、その方の食べる様子、飲み込みの様子などが見えてくるということは、おやつ作りのイベントをやり始めた後で気がついたことです。

——おやつ作りのイベントを通して、介護されている方の身体機能の変化にも気づけるのですね。 

おやつ作りのイベントは、介護従事者さんに「みんなと一緒に食べることが大事だ」ということをご理解いただきたいと提案して、はじめましたが、実際にイベントをして、ご利用者のことをじっと観察する機会ができて、身体機能の変化に気づくことができました。

おやつ作りのイベントは料理教室ではないので、全ての道具が全員分揃っているわけではありません。だから、みんなでチームを作って作業を分担するのですね。混ぜる係、固める係、焼く係など。それでもちょっと難しい方は、紙ナプキンをかわいく折る方もいらっしゃって。

その時に、ふと「握力が弱くなってきているな」と気づくことがあります。握力は、スプーンを持ったりお箸を持ったりお茶を持ったり、持って食べる動作に関わってくるので、握力が弱くなってくると、食器の形や重さをどうしようかと考えていく必要があります。

また、おやつ作りのイベントでは、参加されている方々の記憶にまつわる会話がはじまることにも気づきました。

例えば、「私たちが子どものころはこうだった」とか、「子どもを4人育てたけれど、当時はこの材料がなかったからこんなもので作っていたわ」とか。昔のことをいろいろ語ってくださる機会がありました。

単に一緒におやつを作っているだけのようですが、ご本人のことを知る色々なヒントが隠されていて、重要なものなのですよ。

——お話をお聞きして、おやつ作りのイベントには、色々なことに気づくヒントがあるのだなと感じました。食事とおやつは、同じ「食べる」ですけど、違いがあるのですね。

そうですね。おやつは油も使ったりお砂糖を使ったりもするので、おやつ単体で見ても補食の役割がありますが、野菜を使ってそれをなるべく控えるようなこともできます。かぼちゃとかさつまいもとか皆さん結構お好きだと思います。いつも生クリームではなくて、たまにはかぼちゃのクリームを取り入れていただくとバリエーションが増えます。

おすすめレシピ:かぼちゃのモンブラン

おやつ作りのイベントに参加された皆さんからは「みんなで作ると楽しいね」「みんなで食べるとおいしいね」と感想を聞かせていただきます。それを聞いて、皆さんの中に楽しい思い出として、印象に残ったのかなと感じています。

おやつ作りをご支援させていただくことをきっかけに、おやつだけではなく、「高齢者の食」についても、介護福祉士さんにご理解いただけるように、いろいろと工夫しました。レシピのところにワンポイントを入れ込んだりして。

1日3回のお食事から、食に関する改善の取り組みをしようと考えると、ハードルが高くて難しいと感じられるかもしれませんが、おやつから「高齢者の食」の理解に繋げていくことが、私が本当にやりたいことです。これからもっとおやつ作りのイベントが広がっていけばいいなと思っています。

撮影:Hirofumi Miyake

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