事例から学ぶ認知症 行動編②【日本認知症予防協会監修】

認知症は「脳の異常」による障害によって起こります。身体機能に異常がない状態で起こる脳の異常は、寝たきり状態の方に起こるような症状とは異なり、思いがけない外出、理解できない行動などさまざまな症状につながります。「見た目には健康体のように見えるため対応が難しい」というのは認知症の特徴の一つです。行動に関する認知症の症状例を元に、いざという時どのような対応をすると良いのか、対応法について学んでみましょう。

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こんな時どうする?行動に関する症状

行動面における認知症の症状には次のようなものがあります。主な事例を元に、その対応法とポイントについて見ていきましょう。

〈事例1〉ケガの治療のために巻かれた包帯をケガしたことを忘れて自分で取ってしまいます。

●症状のポイント

自分がケガをしたという記憶がなくなるので、なぜそうなっているのかが理解できない。
認知症による記憶障害は、新しい記憶ほど残りにくいという特徴があります。そのため自身の身体に傷が増えていたとしても、なぜそうなったのか・いつケガをしたのかが思い出せなくなる場合があるのです。また、認知症になると痛みを感じにくくなるという傾向もあり、ケガが治りかけの状態でも「痛みはないから」と包帯やガーゼを取ろうとする場合があります。

●どう対応したらいい?

信頼している先生や 医療関係者の方から「これは取らないでね」と言ってもらうと聞いてくれるという場合も多いので、まずは主治医の先生などに相談してお願いしてみましょう。また周りが神経質になればなるほど、ご本人は気になって取ろうとしてしまうという傾向もありますので、軽い程度のケガであれば「取っても構わない」くらいの気構えでいた方が良いかもしれません。ご本人はもちろんですが、見守る側であるご家族のストレスにも配慮して、お互いが気持ち良く過ごせる形を探しましょう。

記憶がないことによって取ってしまうのなら、巻かれた包帯に「ケガ」「これは取らない」と油性ペンで直接書いておくなど、ご本人に分かりやすく示す方法も有効です。

〈事例2〉昼間はうとうと、逆に夜は寝てくれずに起こされて困っています。

●症状のポイント

睡眠障害の1つ、昼夜逆転 の症状が起こっているかもしれません。
認知症の症状の1つに睡眠障害があります。「見当識障害によって昼夜の区別がつかなくなり、夜のほうが活動的になる」「幻視の症状によって悪夢を見て、夜ぐっすり眠れなくなる」など、さまざまな理由から規則正しい睡眠が困難になる場合があるのです。また高齢になると日中の運動量が減るため、それによって眠りが浅くなり、夜間に目が覚めてしまうという場合もあります。

●どう対応したらいい?

昼の間に、少し体力を使うような活動を取り入れてみましょう。例えば畑仕事や散歩をしたり、地域で開催されている体操やデイサービスに参加してみるなど、ご本人が無理なく出来ることなら何でもかまいません。昼と夜のメリハリがついて 快眠につながるかもしれません。

夜間に起こされることは ご家族の健康面・精神面にとっても大変辛いことです。しんどいなと感じた時はケアマネジャーと相談の上、ショートステイを定期的に利用してみることもおすすめです。「今週末はショートステイの日だからゆっくり眠れる」と思うだけでも気持ちに余裕が生まれ、楽になる場合があります。ご家族の方も、地域の家族会に参加するなど同じ状況の方と日頃の悩みを共有してみましょう。メンタル面のケアになりますよ。

〈事例3〉散歩の途中で拾ったペットボトルを2階の部屋に溜めこんでいます。捨てようとすると怒るので捨てられず困っています。

●症状のポイント

不安や焦燥感が、収集癖の原因になっている場合があります。
収集癖の理由は人によってさまざまです。孤独感から周囲の注目を引こうと行う場合もありますし、将来お金や物を失うことの不安感から集めている場合もあります。収集をやめさせるのではなく、逆に収集場所を物でいっぱいにしたら症状が治まったというケースもありますので、戦後など物がない時代に苦労した記憶がこうした行動の引き金になっているかもしれません。

●どう対応したらいい?

家族にとってはゴミに見えるようなものであっても、ご本人にとっては「大切な物」という認識なのかもしれません。ご本人の目の前で処分しようとすると、ご本人のプライドを傷つけたり怒りの感情につながることがありますので、処分をするのであれば、ご本人が不在の時に少しずつ処分するようにしましょう。

また2階のお部屋ではなく外のガレージに専用の置き場を作るなど、置き場所を工夫してみるのも1つの方法です。生活スペースと距離を置くことで、ご家族の精神的負担も軽減するかもしれません。ご本人の気持ちも考慮した上で対応策を考えることが大切です。

〈事例4〉一人暮らしで認知症の母の所へ行くと、「通帳が無い」といつも家中を探し回っています

●症状のポイント

失くしたくない物ほど奥へとしまい込み、記憶障害でそのことを忘れてしまう。
「物をしまい込んで紛失する」という行為は認知症でよく見られる症状です。大事な物だからこそしっかり保管しようと考えるのですが、しまい込んだ後、記憶障害によってそのことを忘れてしまい、見付けられなくなってしまいます。また、記憶にはない状態で大事な物がなくなることによって「誰かが盗った」と思い込む「物盗られ妄想」につながることもあります。

●どう対応したらいい?

通帳や現金、ハンコなどは生活の安定や安心につながる「大切な物」です。大切な物だからこそ、他人には見つかりにくい奥の方へとしまい込み、余計にその場所が分からなくなってしまうのです。なくした物を一緒に探す時は、なるべくご本人が自分で見つけられるようサポートしてあげると良いでしょう。(先に発見した場合も、見つけやすい場所に移動させてご本人が見付けられるようにする、など)

こうした行為は「自分の生活や、大切な財産がどうなるかわからない」といった将来への不安から起こっていると考えられますので、不安感や執着する気持ちを減らせるような工夫をしてみましょう。趣味や好きなことを満喫する機会を増やしたり、デイサービスを利用してリフレッシュできる時間をつくるなど、不安なことを考えずに過ごせる時間を作ることが解決の糸口になるかもしれません。

認知症の症状:行動・心理症状(BPSD)

ここまでにご紹介した事例に共通しているのは「行動・心理症状」に分類されるさまざまな症状です。主な行動・心理症状には次のようなものがあります。

●一人歩き(徘徊)
●拒否 / 不穏 (周囲への警戒が強くなる症状)
●暴言 / 暴力 / 抵抗
●無気力 / うつ
●不潔行為
●不眠・昼夜逆転などの睡眠障害
●もの盗られ妄想(物を紛失した時に誰かが盗ったと思い込む症状)
●帰宅願望(家に帰りたいと訴える症状)
●食事障害(食べない / 異食) など

こうした症例を見ても分かるように、行動・心理症状に分類される症状は一貫性がなく、多種多様です。では、なぜこのような特徴が現れるのでしょうか。その理由は、行動・心理症状の構造にあります。

次の図のように、認知症の症状全体から見て行動・心理症状は中核症状を内包するような形になっています。

中核症状(記憶障害・見当識障害・実行機能障害など、認知症の核となるような症状)に加えて、本人の性格や環境、人間関係などの二次要因が複雑に組み合わさって影響するため、人によってさまざまな症状が現れるのです。

例として行動・心理症状の1つ「帰宅願望」について見てみましょう。症状の核となっているのは中核症状の1つである記憶障害、そして見当識障害です。認知症による記憶障害は、新しい記憶を留めておくことが難しくなる症状であり、見当識障害は、自分をとりまく周囲の状況(場所・時間・人など)が理解できなくなる症状です。

これらが同時に起こると、突然自分が今いる状況が理解できなくなり、不安を覚えます。不安になった時、どのような行動をとるかは人それぞれです。ある人は自分の見知ったものを探そうと家の中をぐるぐると歩き回ったり、ある人はパニックになって自宅にいるのに「家に帰りたい」と訴え、外へ出て行ってしまう場合もあります。

同じ帰宅願望の症状でも、実際に現れる行動は異なるものになる場合があるのです。

この他にも、性格面での症状の例として「穏やかだった人が興奮状態になりやすくなったり、攻撃的になったりする」、もしくは「活発だった人が無気力状態やうつ状態になる」といったものがあります。これらは一見すると全く別の症状のように感じられますが、実は元は一つの要因によって現れています。

性格の変化の要因となるのは、主に感情や理性を司る前頭葉(脳の前方に位置する)の異常であり、それが個々人の生まれ持った性格の違いや、環境などによる影響によって変化した結果、暴言や暴力、もしくは無気力やうつの症状として現れると考えられます。

このように本人の性格や環境が影響してさまざまに変化するのが行動・心理症状の特徴です。認知症の症状は「全く同じ人はいない」と言われるほど多種多様ですが、それはこの行動・心理症状の影響による部分が大きいと言えるでしょう。

まとめ

同じ症状でも本人の性格や環境が影響している場合がある。認知症の症状に対応する際、こうした構造を理解しておくことは対応する上での重要な手がかりになります。本人の不安を取り除き、安心してもらうためにはどうしたら良いのか。相手の立場に立って状況を把握し、最善策を考えるようにしてみましょう。

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