「あんたが私のお金を盗んだ」「あんた誰?」など、認知症を患う家族から発せられるひと言に辛い思いをする人たちは多いものです。それがきっかけで毎日言い争いが絶えなくなり、家族関係にまで亀裂が入ってしまう。それでは体力だけでなく気力まで尽きてしまうのも無理はありません。
そんな認知症の介護に明け暮れる家庭ならどこにでもありそうな事象に隠された、介護される人が私たちに伝えたい本当の気持ちとはなにか。特定非営利活動法人つどい場さくらちゃん理事長・丸尾多重子さんとともに読み解いていきたいと思います。
【実話】介護する人と介護される人のキモチをつなぐ考え方 〜祖父母を介護する母親を横で見ていた息子目線の介護録②〜
【実話】介護する人と介護される人のキモチをつなぐ考え方 〜祖父母を介護する母親を横で見ていた息子目線の介護録③〜
認知症の人に「今日は何日?」や「私はあなたの誰ですか?」と声をかけるのは間違っているかもしれません。
近所の人やケアマネージャー、ヘルパーさんとかが来たときに「私だれ?」という質問を、私の母が祖母に聞いたりするのですが、自分の娘を「姉」とか「伯母さん」、挙げ句には「知らない人」と答えたりするようになります。やっぱり母はショックな様子で「何言うてるのあなたの娘!」と真面目に言い聞かせようとします。
ただ正直に対応しても言い争いになるだけですし、ひどいときは全く違う話題へすり替わり、家の外に出て「警察を呼んでくれ!」などと叫んで本当にパトカーが来てしまうということもありました。近所の人は事情を知っているのですが、家族の事情を知らない通行人の方が呼んでしまったようです。
少しでも記憶を残したかったり、その日の様子を伺いたくて、「今日は何日?何曜日?」と問いかけたりしてしまいますが、何気ない会話が無用な混乱を引き起こしてしまうこともありました。
丸ちゃんのアドバイス「時にはこちらが“演じる”くらいの覚悟も必要」
それは忘れたわけじゃなくて、「記憶の扉が開かない」だけ。認知症の人に「今日は何日?」とか「私はあなたの誰ですか?」とか聞くのは一番ダメよ。質問された瞬間に「あ〜」となってワケわからないようになってしまう。アレは認知症の人にとって酷です。
「私はボケてしまった、もうアカン、自分が嫌や、死にたい」となってしまうだけですよ。そんな嫌な想いするキッカケを作らなくていいんですよ。私だって日付がわからんようになることなんて毎日あるわ(笑)。でもね、ちゃんと「自分の娘」や「自分の息子」やっていう心は、最期まで忘れない。
たとえば、そのときのアナタのお婆ちゃんの心が、結婚する前の少女の状態になっているとしましょう。そんなときに自分より年上の女性が目の前に現れて「アナタの娘よ」って言われたって、ビックリするだけでしょう。まだお婆ちゃんは旦那さんと出会う前やのに、60歳の娘がいたら「人をバカにしてるんか」と思ってケンカにもなります。認知症の人にとって忘れることは悪いことばかりではないんです。だってツラいことも忘れられるんやから。
認知症の人に説得は無理です。介護する人は「私は女優よ」と思って演じてほしいですね。そうやって大変な一日の中に笑いを増やしてほしい。慣れてきたらそんなことが出来る余裕が生まれてきますよ。
たとえば排泄しているときに、「う〜んう〜ん」唸ってやっとの思いでうんちが出たときに、「あー!赤ちゃん生まれた〜」っていうお婆ちゃんもいるわけですよ。そんなときは助産師さんになったつもりで、ホメてあげてください。
まとめ 「演技力で日々の介護に少しでも笑顔を…」
あなたのことを忘れてしまったのではなく、「記憶の扉が開かない」だけ。悲しんだりせずに、「私は女優よ」と思って演じてください。辛い日々の中にちょっとだけ余裕が生まれるコツかもしれません。
「介護する人、される人の垣根を越えて、みんながまじくる(交わる)場が大切です」
特定非営利活動法人つどい場さくらちゃん理事長。兵庫県西宮市で「つどい場さくらちゃん」を運営。介護する人と介護される人が集い、一緒に昼食をしたりお茶をしたりするなかで、情報交換する場を作っている。講演やテレビ・ラジオ・新聞など出演多数。『心がすっと軽くなる ボケた家族の愛しかた』(高橋書店)、『ばあちゃん、介護施設を間違えたらもっとボケるで!』(ブックマン社)など著書多数。
つどい場さくらちゃんウェブサイト:
https://www.tsudoiba-sakurachan.com/