【ヒント!になる 動画配信キャンペーン 】認知症を抱えた方の排泄のお困りごと

「ヒント!になる 動画配信キャンペーン!」第3弾では、第1弾の排泄の困りごと、第2弾の介護の食事の困りごとに引き続き、実際にアンケートに寄せられた認知症を抱える方の排泄の困りごとを取り上げ、排泄用具の情報館むつき庵にお伺いし、所長の浜田きよ子さんと副所長の熊井利將さんに解決のヒントをお聞きしました。

講師紹介

まず、今回お話をお聞きする専門家のお二人をご紹介します。

排泄用具の情報館むつき庵所長の浜田きよ子さんです。数多くの排泄ケアについての相談を受け、特別養護老人ホームで、事例検討を重ねて20年余り。排泄ケアのスペシャリストを養成するおむつフィッター研修を主宰。おむつトラブル110番(メディカ出版)をはじめ、多くの著書があります。本日は、よろしくお願いいたします。

もうお一人は、排泄用具の情報館むつき庵副所長の熊井利將さんです。おむつフィッター研修や各地での講演会などを行っていらっしゃいます。本日は、よろしくお願いいたします。

なぜ認知症を抱えた方の排泄のお困りごとをテーマに選んだのか

ありがとう5周年特別企画では、2021年4月に「アンケートに答えてプレゼントキャンペーン」を実施しました。介護にプラス Live+Doの読者に対して介護のくらしの困りごとをお聞きすると「排泄」、「介護の食事」、「認知症」の順で多く寄せられました。

高齢化が進む日本では、高齢者人口の増加に伴い、認知症を抱える方の数も年々増加しています。厚生労働省の調査では、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されています。

認知症を抱える方の排泄の困りごとの中には、おむつからの尿や便のモレだけではなく、大便をいじって寝具・壁などに擦りつける、おむつを外して排泄してしまうなど、家族にとっては理解しがたい行為も少なくありません。そのような困った行為は繰り返され、家族が後始末に追われることが多いのも実情です。

家族が精神的に追い込まれる前に、困りごと解決のための対症療法的なことだけではなく、「なぜその行為をしてしまうのか」を探ることが大切です。そのため、動画コンテンツのテーマに認知症を抱える方の排泄の困りごとを取り上げました。

認知症を抱えた方の排泄のお困りごとについて

4月に実施したアンケートに寄せられたお困りごとをご紹介します。お母様を介護されている50代の女性の方からのご相談です。

「認知症がかなり進行していて日々の生活で対応が困難な状況にある。いたる所に便をまき散らすが本人は何も覚えておらず、漏らしていないと言う。掃除と洗濯に追われて疲労困憊している。」

大変な状況ですね。どうにか解決の糸口が見つかればと思うのですが…。熊井さんいかがでしょうか?

【熊井 利將さん】
以前の私であれば、認知症を抱えたご本人に対しては何を聞いても何を伝えてもわからないと思っていたと思います。ですので、介護で困ってらっしゃるご家族のことを優先的に考えて対応したと思います。

例えば、おむつを外して困るのであれば、おむつをどうやったら外せなくできるかを考えたり、おむつを触らなくするために触れないような衣類を考えたり。そういったことをしたと思います。

また、臭いの問題や汚れの問題もあると思いますので、できるだけ部屋から出ないように対応を考えたかなと思います。

さらに、夜はゆっくり眠ってもらうように、主治医に相談して睡眠剤を出していただいたり、日中であればデイサービスを利用して頂いて、ご家族の負担を軽減しましょう、そんなようなことを提案したように思います。

私はその頃、おむつフィッターを受講していなかったので、ご本人さんの生きている世界を想像するというよりは、目の前で訴えていらっしゃる家族さんのことに対して対応していた気がします。

浜田さんはいかがでしょうか?

【浜田きよ子さん】
今のこの方は、大変な状況だと思いますから、ある意味で対処療法的なことも必要な場合があるんですけども、ただ、それだけでは、実際の解決にならないことが多いかと思うのです。

ここで大事なことは、やはり「なぜ便をまき散らしてしまうのか」を探ることがとても大事で、便をまき散らすということを考えると、状況が詳しくわからないんですが、例えば、パンツ型紙おむつなどをはいていて、そこに出てしまった便が何かわからない、変なものと思ってまき散らしておられるのかもしれません。

そうだとしたら、大事なことは「いつ頃、排便されるか」ということがわかれば、そのタイミングでトイレに行って、排便姿勢をとってもらえて、排便できたらお互いにとても良いわけです。

そのためには、排便日誌という記録をつけること、何時頃食事をして、できれば水分摂取量も何時頃何を飲んだかを記録して、個人差はありますが、食事の後、30分前後位にトイレに行けて、そこで排便が成功する。

ただ、認知症を抱えておられるために、人によっては、便意がわかりにくい。つまり、便意がわかりにくいって、我々はお腹がぐるぐる動いたりして便意だってすごくわかるんですけども、認知症を抱えた方には尿意もわからなかったり、便意もわからなかったり、そんな状況もあり得たりもします。

そうだとしたら、やはりご本人はもういつ行っていいか分からない、もう出てしまった。出てしまった原因も、もしかしたら下剤など飲んでおられたら、それで出てしまったとしたら、排便日誌だけではなくて、医師や看護師との相談も必要な場合もあるかもしれません。

何しろ、便が出てしまうっていうのは、ご本人も非常に嫌なことだし、不快なことですから、それが便意とわからなくても何か出た。なんだろうと思われて、それが手についた。なんか臭いもするし、嫌だなと思った。それを投げつけたり、塗りたくったりするというのは、あくまでも仮説なんですけれども、ご本人の行動としてわからなくはないわけです。

先ほどちょっと話をしていたら、熊井さんが今すごくお腹の調子が良くないとかで、少しそんな話も聞いてみたいんですが、熊井さんいかがですか?

【熊井利將さん】
はい、そうなんです。今私ちょうど便秘気味なんですよね。なぜかっていう原因はなんとなく想像できます。ここ最近、家を離れて出張に行くことが多かったんです。なので、トイレの形状が変わったりとか、食べるものが変わったりとか、やはりタイミングが変わったりとか。いろんなことが起こってるのが私の今のこの状況になっているかと思います。

極端な話、お尻に不快感があるんですよ。仮に、私が認知症を抱えていたとしたら、この気持ち悪さはどこから来てるんだろうか、何もわからない状態の中で、なぜこういう気持ち悪さがあるのか、そんな風な状態であれば自分だったらどうするかな。

もしかしたら、お尻を触ってるかも分かりませんし、便意を感じることができたらトイレに行くかもわかりませんが、それが感じにくかったら、ここで排便してしまっているかもしれません。

何にせよ、お尻周りの不快というのは経験された方は、よくご存知だと思うんですけども、気分的にも明るくはならないんですよね。何か違和感がずっとあるようなそんな感じです。

このことは、自分であればそう思えるんですよね。でも、実際に目の前の人が、便を触ってるとかってなった時に、「絶対触らなくするためは、どうすればいいか」と考えてしまうと思うのです。

【浜田きよ子さん】
熊井さんの今の状態は直腸性の便秘ですよね。この方の場合、直腸性の便秘、つまり、直腸に便が溜まっているのに出せないようなそんな状態としたら、これは、食べ物のこととか、水分摂取量とか、それからすごく溜まって嫌な便を早く取り除いてあげないといけないとか、その対応策は変わってきます。

ただ逆に柔らかい便が出て、これは下剤などで、もうすでに出てしまった便をいじっておられるとしたら、なぜやわらかな便が出てしまっているのか、ということも探る必要があります。

まずはこの方が、便がもうすでに出てしまった便が嫌なのか、あるいは直腸に溜まった便秘の嫌な便が嫌なのか、そんなことからその方に合った対応が考えられるかと思います。

浜田さん、今までの相談事例でこのようなお困りごとに出会われたことありますか?

【浜田きよ子さん】
特別養護老人ホームや在宅の方からの相談で色々な事例と言っていいか、ご本人のケアをされている方のお困りごとを聞いてきました。

ずっと以前なんですが私がとても印象的な相談というのは、「介護が必要な80代の母親がお仏壇に大便をお供えしている」というそんな相談でした。

「本人に何度言ってもやめてくれない。だから、部屋もちょっと臭うし困る」という、そんなご相談だったんですけれど、お家に行ってみたら確かにお仏壇にちょうどうさぎの便のようなコロコロの硬い便がお供えしてあったのです。

その方は、お仏壇は自分のお連れ合いが祀られている、そんな場所だということはわかっておられて。だけど、おそらく硬い便が自分の下着からポロッとこぼれてしまった。それは便とはわからなかったということが考えられますよね。つまり、固い便が溜まっていて、そして何か珍しいものがあるから、これはもう亡くなったお連れ合いにお供えしようと思われた。

こんなことって、あれこれものがわからなくなっているとか、そんな世界とか、いろいろと見聞きするんですけども、あくまでも仮説ですが、認知症を抱えた方よく「見当識障害 ここがどこかわからない、今がいつかわからない」とか、あと「記憶障害 物の名前がわからない、自分がご飯を食べたかどうかわからない」とか、そういった生活の支障のいろんな話は聞きます。

この物の意味とか、物の対応の仕方、つまり私たちはそれが何かとわかるから対応ができるわけです。

例えば今、私は横に座っておられるのが熊井さんとわかるので、そして、この場面は録画しているとわかるので、そのつもりで話ができるんですけども、ここがどこかわからなかったら、私はここで落ち着いて座ってていいのか、テーブルを拭いたりしないといけないのか、自分のするべきこともわからなくなります。

基本的に、私たちは意味の世界、つまり「この物はどういうもので、自分がどう振る舞ったらいいのか、それがわかる世界に生きている」と言ってもいいかと思うのです。全く見ず知らずのものに出会った時にわからないとわかる。そういったことの世界の中に生きているとも思うんです。

けれども、先ほどのお仏壇の方の場合などは、まさに意味世界がまだらになっていて、これが何かわからなく、それにどう対応していいのかわからない。

相談された方の場合も、便をまき散らしたりしてるのに、もしかしたら、ご本人は便をまき散らすつもりはなくても、何かわからなくって、手についた不快なものが嫌だから、それを体から離そうとされていたということも考えられます。

すべて仮説なんですが、いろんなことがわからなくなっている方にとっては、そういった自分の便、これ自身がかからなくて、それにどう対応していいかわからないという混乱が起きていることはなんとなく理解できるかと思います。

そして、周りは「何してる!」ってやっぱり怒ってしまいますから、怒られていることはもしかしたらわかる。当然、厳しく怒られたりしますからね。でも、どうしたらいいかわからないという混乱もあるかと思います。

私たちが大事なことは、もしかしたら目の前の現象が、どうして起こっているのかと言うその原因を少し探ろうという視線とそれから本人もすごく大変なんだなーっていうことを少しわかったりする、そんなことも必要なのかなという気がいたします。

そしてもう一つ、認知症を抱えた方、いろんな方々に出会ってきたんですけれど、認知症と一言で言ってもその方の症状とかも色々。その上でまだまだできることもたくさんあります。

お料理全体の流れは難しくても、野菜を切ることができるとか。あるいは、大工さんでカンナはすごく上手く使えるとか。いろんな方と出会ってきました。何もできない、何もわからないと決めつけてしまうと、ますますご本人は自分自身の居場所を失ってしまいます。ですから、ぜひお家の中でも、難しいかもしれませんが、うまくできること、得意なことなどを上手にやってもらえるようにして。それは、その方が落ち着く場面でもありますから、そんな時間を増やしてもらえたらと思います。

熊井さん、家族の方が疲労困憊されている中で、介護の負担を軽減するポイントがあれば教えていただけますか?

【熊井利將さん】
はい。先ほど浜田さんがおっしゃったように、家族の立場からしたら大変だと思うんですよね。ただ、そこに本人がどんな世界を生きててとか、誰か病気のことをちょっと理解してるとか、そういうことを介護する方がわかれば介護の仕方も変わってくるかとは思うのです。

でも実際、目の前で仮にね、仏壇にうんこが供えられていたら「何しているの!?」ってなりますよね。なので、できたら、介護されている方、ご家族さんは一人で抱え込まないようにしていただきたいと思います。いろんな方に話をして、愚痴だけでもいいと思うんです。「うちのおばあちゃん、こんなことするんよ」と言える人がいらっしゃるだけでも、だいぶ変わると思います。なので、一人で抱え込まずに、いろんな方にお話してみてください。

それと排泄のことであれば、むつき庵であったりとか、おむつフィッターが対応するミニむつき庵というものがあります。詳しい場所、空いてる時間帯は、ホームページを見ていただけたら書いていますので、もしお近くにあったり、京都でむつき庵のお近くであれば、ご相談いただけたらと思います。何にしても自分で抱え込み過ぎないようになさってください。

【浜田きよ子さん】
それから、先ほどのお仏壇の方の解決なんですけど硬い便が出ているということでしたから、その方の硬い便を改善するということで解消したことを一言付け加えておきたいと思います。

おわりに

浜田きよ子さん、熊井利將さん、お話を聞かせていただきありがとうございました!

なお、介護にプラスLive+Doでは、「介護のためのおむつのヒント」で、排泄の困りごと解決のヒントになる情報を掲載しています。おむつフィッターのご紹介や浜田さんや熊井さんのインタビュー記事もありますので、ぜひご参考にしていただけると嬉しいです。

これからも、介護にプラスLive+Doでは、介護のくらしに役立つアイデアや情報を発信し、介護のくらしに“プラス”をお届けしていきます。

本日は最後までご覧いただき、誠にありがとうございました。