認知症が進むうち、さまざまな決断をしていかなくてはなりません。その中で大きな節目となるのが介護施設の入所ではないでしょうか。いつまでも家で過ごさせてあげたいけど、介護される人の症状や介護する人の負担の大きさで、入所を考える時期がきます。穏やかな老いをむかえることができる介護施設とは、どのようなものか。愛知県長久手市にある『ゴジカラ村』を訪ねました。
【介護現場レポート】介護する人と介護される人だけではない、いつもの暮らし。Vol.1
【介護現場レポート】介護する人と介護される人だけではない、いつもの暮らし。Vol.2
介護施設や幼稚園、古民家に地域の人が集まる雑木林
名古屋から地下鉄で30分ほどの郊外にある長久手市。住宅街を抜けたところに約1万坪の大きな雑木林があります。この生い茂る木々の中に、特別養護老人ホーム、ショートステイ、ケアハウス、訪問看護ステーション、デイサービスセンターのほか、幼稚園や託児所、看護専門学校、カフェや交流の場となる古民家などの施設が点在しているのが『ゴジカラ村』。
昼間には約900人ほどの人が集まる場所で、ここに住まう人と地域の人たちの交流が生まれています。ゴジカラ村は前理事長で現在長久手市長の吉田一平さんが、子どものころに遊んだ里山の風景を残したいと、雑木林で遊べる幼稚園を創立したのが始まり。
森の中で自由に遊び回る子どもたちに先生の目が行き届かないことから、地域のお年寄りたちに子どもたちと一緒に遊んでもらうようにお願いしたところ「お年寄りが生き生きとしていることに気づいた」という。そこには現役を終え役割を終えた人たちが、再び役割を得て元気になる姿がありました。
介護施設前の憩いの場
もりのようちえん
まるで家で暮らしているかのような、穏やかな環境が広がる
通常の介護施設といえば病院と見分けもつかないような外観と内観ですが、ゴジカラ村の介護施設は材木をふんだんに使っていて、まるで家にいるような穏やかな空気が流れています。食事風景を見ていても、いままで見学してきた他の施設のような慌ただしい様子が見られません。ゴジカラ村の特別養護老人ホームは、廊下が曲がっていて見通しが悪いため、なにかあればお年寄りの下へすぐに職員の方が様子を見に行くので、さみしい気持ちにならないで済むといいます。
見通しの悪い廊下がお年寄りと顔を合わせる機会を増やす
窓からは村内の緑や花、森の中を行き来する人や園児たちがいて、施設で過ごす人たちも退屈しないという。遊び声も聞こえてくる様子は、きっと施設に入る前の自宅の暮らしに近いのではないでしょうか。子どもたちとお年寄りが自然と触れ合う機会もあることから、行儀の悪い子どもをお年寄りが気にかけたりと「役割がある暮らし、必要とされる暮らし」があるのです。
地域の人たちが交流する場にもなっている古民家
誰にでも居場所がある、不便で手間暇のかかるゴジカラ村
「困った困ったとぼやいていると、誰かが助けてくれるんです」とやさしい笑顔で話してくれるのは理事長の大須賀豊博さん。「いろいろな業務がある中で、一人のお年寄りが介護職員から直接介護を受けられるのは、合計すると1日2時間程度。
家族がいない施設で過ごすには、あまりにさみしいですよね。それなら子どもたちや地域のお年寄りに助けてもらおう」というのがゴジカラ村のスタイル。「いろんな世代が交ざって関わり合いながら暮らす。
いろんな人が集まれば意見も食い違う。でも思うようにいかないときに“折り合いをつける”。それには、なにごとも“ぼちぼち、まあまあ、だいたい、てきとう”。そういう暮らしに還っていく時代だと思います」と大らかさを持つことが大切だといいます。ゴジカラ村が目指すのは会社のように数字や効率、成果を求めるのではなく、ゆっくりとした時間を大切に過ごす「時間に追われない国」。
多世代が集まり、暮らし、生きる「雑木林のようなコミュニティ」。便利さや快適さはないかもしれないけど、誰にでも役割があり、互いの存在価値を認め合える場所です。こんな森の中で穏やかに老いをむかえられる施設が増えてほしいものです。
あたたかい雰囲気の中で過ごすお年寄りのみなさん
地域の人たちがゴジカラ村のいろんな仕事を手伝ってくれる
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社会福祉法人愛知たいようの杜
理事長・大須賀豊博さん「遊びをせんとや生まれけむ、戯れせんとや生まれけむ」愛知たいようの杜は、 地球上のあらゆるものの存在、あらゆる人の訪れを大切にして、 もっとゆっくりした暮らしを取り戻し、その中でお年寄りが「生きていてよかった」と思えるような生活を作り上げることを目指し『ゴジカラ村』で特別養護老人ホームなどを運営。
『生涯活躍のまち』の先行モデルとして、国や行政からも注目を集めている。