【介護現場レポート】介護する人と介護される人だけではない、いつもの暮らし。Vol.2

大きな雑木林の中に、幼稚園や古民家、介護施設が集まる愛知県長久手市の『ゴジカラ村』は、地域の人にも役割がある集いの場。介護が必要になった人が家で暮らしているかのように過ごせる環境があります。「多世代が集まり、暮らし、生きる」会社のように数字や効率、成果を求めるのではなく、ゆっくりとした時間を大切に過ごす「時間に追われない国」をご紹介します。

【介護現場レポート】介護する人と介護される人だけではない、いつもの暮らし。Vol.1
【介護現場レポート】介護する人と介護される人だけではない、いつもの暮らし。Vol.2

垣根をつくらず、関わり合いが生まれる場所

地域の人が積極的に関わってくれるゴジカラ村には、ヤギやウサギなどいろいろな生き物がいます。それらにエサをあげるために子どもたちが施設に集まってくれる。すると、その子どもたちの様子をお年寄りたちが見守るそうで、子どもたちに何かあれば注意するという役割ができるといいます。「人に必要とされることが大切」というのは理事長の大須賀さん。中庭で遊ぶ子どもたちの声が施設のお年寄りの耳に届きます。村内の垣根のない雰囲気は、施設内にもあふれています。

一般的な介護施設といえば、受付があり、事務室にも壁があって、扉があるもの。しかし、ゴジカラ村の特別養護老人ホームの事務スペースには扉がなく、オープンな環境です。こういった暮らしに近い雰囲気は、お年寄りたちが元気だったころの豊かさを再現しているのかもしれません。

開放感のある事務スペース
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思い思いに過ごせるスポット
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人と人のつながりが、ここで生きる人の希望になる

特別養護老人ホームの廊下には、ここで最期をむかえた方たちの絵が飾られています。この絵を描いてくださったのは、園児のお母さんでした。そのお母さんは前理事長の吉田一平さん(現・長久手市長)にボランティアを希望されました。「何か好きなことはある?」と問いかけた前理事長に「絵を描くのが好き」と答えると「じゃあ、ここに来て毎日絵を描いてよ。そしたら周りに人がいっぱい寄って来て、ばあさん達が楽しめるから」ということで始まりました。そのお母さんは当時から若くしてガンを患っており、やがて療養でゴジカラ村へ来られなくなりました。その際、前理事長は雑木林に生えている栗の枝・猫じゃらし・すすき・もみじなどで花束を作ってお見舞いしました。

後日、彼女のご家族から聞いた話によると、その花束にはアリがいて、忙しそうに動き回る様子をみた彼女は「生き物が無心に行きている姿に感動した」といって喜んでくれたそうです。天国へ召された彼女の生き生きとした絵は今も、この施設で過ごすお年寄りや見学者、地域の人々に力を与えてくれています。

緑が見える廊下にそって、肖像画が飾られている
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穏やかな光の中で昼食を楽しむ皆さん
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誰にでも居場所がある、不便で手間暇のかかるゴジカラ村

ゴジカラ村には移築した古民家が3軒あり、地域の方々との交流の場になっています。託児所のような役割もある古民家で遊ぶ子どもたちの様子は、懐かしい昭和の原風景を見ているよう。なかには「ここで産みたい」と言って、別の古民家でお産をされたお母さんもいました。こんな新しい命と老いがひとつになった雑木林は、先人の知恵や技術を受け継ぎながら、地域全体で子どもを育てていく豊かさにあふれています。「いろんな世代が関わり合って交わる。そんな暮らしに戻っていくことが、これからの幸せのカタチだと思います」と理事長の大須賀さんは力強く話してくださいました。

古民家の土間
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お母さん世代の方も気軽に寄り合う
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【プロフィール】
社会福祉法人愛知たいようの杜
理事長・大須賀豊博さん
profile「遊びをせんとや生まれけむ、戯れせんとや生まれけむ」愛知たいようの杜は、 地球上のあらゆるものの存在、あらゆる人の訪れを大切にして、 もっとゆっくりした暮らしを取り戻し、その中でお年寄りが「生きていてよかった」と思えるような生活を作り上げることを目指し『ゴジカラ村』で特別養護老人ホームなどを運営。
『生涯活躍のまち』の先行モデルとして、国や行政からも注目を集めている。
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