排泄ケアに関する様々な情報提供のほか、排泄ケアのスペシャリストを育てる「おむつフィッター®研修」や「おむつ検定®」などの活動を行う「むつき庵」。その所長・浜田きよ子さんに、設立に至った経緯や、排泄ケアとの向き合い方についてお話いただきました。
今回はより排泄ケアに焦点を合わせ、“大人用紙おむつの本当の選び方とは何か”をテーマにお聞きしました。
——これまで大人用紙おむつや排泄ケアについて多くの方に支持されてきた浜田先生。ずばり、できるだけ簡単かつスムーズにおむつを選ぶ方法はあるのでしょうか?
世の中には「吸収力がすごい」とか「横漏れ防止」など、機能性をうたった大人用紙おむつがたくさんあります。実際に漏れが起きたとき、早急に漏れ自体への対処をしようとこれらのおむつをご使用になる方も多くいらっしゃると思います。
結果として漏れが防げることでケアをする人は安心されます。でも実はこれ、そもそもの漏れの原因は分からないまま、一時的な対処で終わってしまい、原因を探ることをしなくなってしまうんです。「漏れが起きた」、だから「機能的なもので補う」という考えはちょっと危険。排泄ケアに最も必要なのは、原因と対策の両方の考え方を持つことなのです。そして原因はひとつではなく、人それぞれに異なります。
——おなじ「排泄」でも、自分と人とでは違っているということでしょうか。
その通りです。そもそも排泄は人に見られることなく行うもの。閉じられた空間で起こることに対しケアをほどこすのはとても難しいですし、一方向の視点だけでは解決ができないんです。
例えば、基本的なおむつの当て方というものがあるとします。でもそれを実践すると、「気持ち悪い」「いやだ」と不快に感じる方が必ずいます。“正しいおむつのつけ方”と言われるものが必ずしもすべての人に当てはまるとは限らないんです。
当たり前ですが、人間はモノではありません。だから、人が日々行っていることひとつひとつにそれぞれ個別の理由があります。排泄がうまくいかなかった原因を一緒に見つけることで、結果として生活の見直しにもつながります。頻尿の原因を探ってみると、水分摂取量が多かった、カフェインを多く摂っていたなど、普段の生活によるものだったなんてこともよくあります。
特に注意したいのは偏った見方をしてはいけないということ。認知症の方が排泄でうまくいかなかったとき、「認知症だから」という理由だけで片付けられることがあります。原因がはっきりとしないなか安易にとりあえずの対処をすることは、解決につながりません。周りの方が「なぜ」を考えることで解決の糸口が見えてくるのです。
——排泄ケアの問題は一言では片づけられないですね。おむつ選びだけではなく介護の本質を考えさせられるお話です。
介護というのは社会が高齢化していくなかで、私自身を含め誰もが直面することです。現代の家庭における「介護力」は各ご家庭でまったく異なります。独居の方もいらっしゃいますし、老々介護のお家もあります。「介護者」という言葉でくくることはできないほどの多様性があるんです。
ケアをする人、ケアを受ける人双方にとって意義のある用具であるかなど、それぞれのご家庭や暮らしに合うご提案をしていかなければなりませんし、これからの時代・社会に合わせた対応が必要だと感じています。排泄ケアは、介護そのもののあり方に目を向けさせてくれる大切な問題なんです。
——最後にあらためてお聞きします。おむつ選びにとって大切なこととは何でしょうか。
先程、漏れの原因の具体例としては、尿の場合は腹圧性尿失禁や前立腺肥大症のような膀胱尿道機能障害、この場合は治療が必要なこともあります。また薬の副作用や身体が不自由なためトイレまで上手く行けないから漏れてしまうといった身体機能の低下が原因のこともあります。
便が漏れる場合は、下剤を使用しているのなら、下剤の調整が大切ですが、なぜ下剤が必要なのか、つまり便秘の原因を探ることが大切です。
そのほか、下着の着脱方法なども挙げられますが、これらはほんの一例です。排泄について様々な知識や情報を収集し、そのうえで相手の現状を丁寧に観ること。するとなぜそんなことが起こっているのかが分かる場合が少なくありません。
まずは相手を知り、理解しようとすること。そこから関係性は生まれ、ケアは変わります。人間が健やかに生きて、健やかに生涯を遂げることを、これからも真剣に考えていきたいですね。
撮影:Hirofumi Miyake