介護のためのおむつのヒント

「知らないことに気づくこと」が排泄ケアの第一歩。むつき庵・浜田きよ子先生インタビュー

排泄ケアに関する様々な情報提供のほか、排泄ケアのスペシャリストを育てる「おむつフィッター®研修」や「おむつ検定®」などの活動を行う「むつき庵」。その所長・浜田きよ子さんに、設立に至った経緯や、排泄ケアとの向き合い方についてお話いただきました。

——浜田先生が福祉の世界に携わるようになったきっかけは何でしょうか。

母の介護がきっかけです。もう30年以上前のことですが、母は重い糖尿病で病院に入院していました。母親はまだ自分でトイレに行ける状態でしたが、病気の影響でほとんど目が見えなくなってしまい、ベッドから下りてトイレに行くのが危険だと判断され、大人用紙おむつをつけるように言われました。

母親はそのことを嫌がっていましたが、私たち家族はこれが最善だと信じていました。けれど、おむつの生活を始めてひと月も経たないうちに母は亡くなってしまったんです。もちろん、おむつだけが原因とは言えません。ただ、日に日に生きる気力を手放すようにして息を引き取った母を見て、心底後悔しました。もっと母の気持ちを知るべきだったと。

——そのご経験から、福祉と関わりをお持ちになったんですね。

そうなんです。母のことをきっかけに別の仕事をしながらヘルパーの教室に通い、福祉や介護について学び始めました。

そして、福祉用具を目にするなかで、ただの用品として見るのではなく、「もし自分だったら」ともっと身近なものとして捉えることで、用具を選ぶ目線を持ち始めました。「高齢者が使いやすい日用品(晶文社)」を書いたのもその頃です。

そして福祉用具や介護技術、人の身体などについて学んでいきました。看護師、理学療法士などさまざな職種の方と福祉用具選びのテキストを作成する機会をいただいたのも大きな経験でした。

——その後「むつき庵」につながる高齢生活研究所を立ち上げられます。

もっと介護について具体的なお話を聞きたいと思い、無料で相談ができる場として高齢生活研究所を立ち上げました。

ここでは様々な悩みを直接聞くことができました。相談者のお家に伺い、ご相談内容に応じて近くの病院を紹介したり、用具の使用をおすすめしたり。一人ひとりにとっての生活を広げていくための提案をさせていただく毎日でした。

——そこから「むつき庵」を設立されようと思った経緯は何でしょうか。

高齢生活研究所でも多くご相談をいただいたのが排泄ケアなんですが、排泄ケアって数あるケアのなかでも本当に難しいんです。

例えば「母がトイレに間に合わなくて」という相談ひとつにしても、尿漏れの原因がいくつも考えられます。膀胱尿道機能障害によるもの、あるいは身体機能の低下によりトイレまで行くのが大変、部屋は2階でトイレは一階のため、階段を下りるのが大変など、原因となる要素が多岐にわたるんです。

ドラッグストアだけでは用品としてのおむつは揃っていても病気の治療はできませんし、病院では治療をすることはできても、失禁などの不安ある方の「いま」に対して用品選びまではしてくれない。

そういった現状から、原因の発見と対応の場がひとつになってワンストップで解決につながる、そんな場所をつくりたいという思いが強くなり、むつき庵の設立を決めました。
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——現在ではそういった場所の提供に加え、「おむつフィッター®研修」や「おむつ検定®」など排泄ケアをする人のための制度もつくられていますね。

おむつフィッター®研修をはじめようと思った理由は二つあります。医療や福祉用具、介護など、専門性の分化によって、その専門性のみでは、排泄ケアの向上が見られないことが少なくないと感じたことです。ある分野ではエキスパートとされる人たちも、それでだけは実際の排泄ケアは難しい。排泄はいくつもの環境が重なって行われるもの。様々な角度から、その人にとって必要な排泄ケアが何かを見極めることが重要なのです。

もうひとつは、研修をおこなうことで、私たちむつき庵のスタッフたちにも学びの場になると思ったんです。排泄ケアに必要な深いまなざしを養うため、研修を通して色々なことを吸収していけたらなと。おむつフィッター研修を通して、私たちはさまざまな方々と出会うことができました。その方々のおかげで、今のむつき庵は創られていると言っても過言ではありません。その意味からも本当にこの研修を行ってよかたっと思っています。

おむつ検定®は、よりおむつに特化して学ぶための場にしようと思いました。インターネット受検が可能になったことで、北海道などの遠方で受験を希望されている方からも喜んでいただけて、私たちとしても、とても嬉しかったです。

——研修や検定を通して一番伝えたいことは何でしょうか。

排泄ケアは生身の身体に関わるケアです。その意味で、まず、ご自身が「相手の排泄を知らない」ということに気づくこと。これが排泄ケアをするうえでの最初の大きな一歩ではないかと思います。

もちろん、排泄に関する幅広い知識を身に着けることも大事ですが、それらを覚えたらうまくいく、ということではないですから。知識を身につけて相手の立場になり、どのような排泄ケアを必要としているのかを「当事者」として考えつづけることが本当に大事。考えつづけることで理解につながることをぜひ知っていただければと思います。

撮影:Hirofumi Miyake